Q. 新規事業の起案から立ち上げ、
スケールに至るまでにおいて、
同じメンターにずっと伴走してもらうのは
難しいでしょうか?
立ち上げ初期の段階では、
起案者との相性が合えば1人で十分なのでしょうか?
✔︎ メンターは“フェーズの壁”ごとに選び直すのが鉄則
✔︎ 相性も大事だが、フェーズ経験者かどうかが決定的
✔︎ 「すべてを知る万能メンター」など、この世に存在しない
メンターとは、“地図を持った登山ガイド”である
新規事業におけるメンターとは、単なる「優しい相談相手」ではない。むしろ、「この先にどんな道が待っているのか」「どんな落とし穴があるのか」を、“実際にその道を歩いた経験”から語ってくれるシェルパのような存在であるべきだ。
つまり、アイデアの創出フェーズにおいては0→1の文脈を熟知した人が必要であり、MVPをつくる段階では仮説検証とプロトタイピングの修羅場をくぐった人が必要になる。さらに、PMFやスケールの段階では、組織マネジメントや資金調達、KPI設計といったそれまでとは別種の能力と経験が求められる。
このように、新規事業とは「異なる山をいくつも登るプロセス」である以上、それぞれの山を知るガイドをフェーズごとに選び直すのが自然な姿なのだ。
相性も重要だが、“経験の有無”が決定打となる
もちろん起案者にとって「信頼できるメンター」や「話しやすいメンター」であることは重要だ。特に事業案を形にして経営層に提案する段階では、背中を押してくれたり、不安に寄り添ってくれたりするような“相性の良いメンター”が、勇気を与えてくれる存在になり得る。
だが、それだけでは不十分だ。起案者と相性がよくても、そのフェーズを通過した経験がなければ、“本質的な示唆”や“失敗しないための構造知”は得られない。仮説の立て方が甘い、検証の設計がズレている、ペルソナが妄想で作られている──こうした盲点に気づかせてくれるのは、実体験から語れる者だけだ。
「相性×経験」の掛け算こそが、メンターの真価を決める。だからこそ、“相性だけで決める1人のメンター”で全フェーズを乗り切るのは、構造的に無理がある。
万能メンターは存在しない──だから設計せよ
よくある誤解は、「すべてを知る最強のメンター」がどこかに存在すると思い込むことだ。しかし、そんな人はいない。なぜならば、メンターとは“知識人”ではなく“経験者”であるべきだからだ。
シード期のメンターは、答えのない中で「事業の核」を探し続ける思考の伴走者であり、グロース期のメンターは、資金調達やアライアンスといった“実務面での意思決定”において地に足をつけて支援できる存在でなければならない。
つまり、メンターは“今いるフェーズ”を踏破した人間でなければならない。その人が、1つ上のフェーズの地図を持っている。だからこそ、成長に伴って「メンター構造を組み替える」ことが、事業成功確率を高める上でも最重要の打ち手になるのだ。
最初から“メンタリング設計”はチームで考えるべき
メンター選定とは、人選の話に見えて実は“組織戦略”の話だ。どのフェーズで誰をメンターに置くのか、それによってプロジェクトの意思決定の質も、速度も、現場の覚悟も大きく変わる。
だからこそ、新規事業の立ち上げ初期から「どのフェーズに、どういうタイプのメンターが必要になるか」を見越して、“メンタリング設計”そのものを戦略的に考えるべきだ。常にその時の課題に最もフィットする“仮説検証パートナー”を迎え入れる──それが成功の近道になる。
一人のカリスマに頼らない。必要な知見は、適切なタイミングで外から仕入れる。その冷静な判断こそが、事業の未来を切り開いていく。
経験をつなぎ、学習する組織へ
新規事業とは、「知らないことの連続」をどう乗り越えるかでもある。その時、頼るべきは“過去の正解”ではなく、“似たような失敗”を経験している人たちだ。メンターは、過去の失敗と知恵を現在に翻訳する、いわば「経験の翻訳者」である。
そして、その翻訳を外部にだけ任せず、自社の中に蓄積し、次の挑戦に活かしていく“学習する組織”へと進化していくことこそ、最終的なゴールだ。
その始まりが、「適切なメンターと、適切なタイミングで出会う」ことにある。だからこそ、メンターは“ずっと一人”でいいわけがない。事業のフェーズが変われば、ガイドも変わる。これが、新規事業の現実であり、成長の構造なのだ。
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