Q. 新規事業を生み出すには
「組織のリノベーションが不可欠」と聞きます。
事業を本気で生み出す組織になるために、
企業は何から取り組むべきでしょうか?
✔︎ 成熟企業に必要なのは「個人改革」ではなく「組織の土壌改良」
✔︎ 第一歩は「挑戦者を生み出す人材開発」と「支える側の設計」
✔︎ 仕組み・風土・経営の“思想”まで変えなければ、事業は生まれない
成熟企業には「そもそも挑戦の経験値がない」
そもそも今の多くの大企業には、イノベーションを経験した人材が存在しない。戦後の焼け野原から始まった高度経済成長は、“作れば売れる”という人口ボーナスの奇跡に支えられていた。そして、今の経営層はその残り香の中でキャリアを築いてきた世代だ。
つまり、イノベーションという未知に向き合った経験もなければ、そうした背中を見て育ったわけでもない。組織の中に誰一人として「事業のゼロイチを経験したことがある人間」がいないのだ。ノウハウも、知見も、言語も、仕組みも何一つとして存在していない。これが、成熟企業における“出発点のギャップ”である。
最初にやるべきは「人を変える」のではなく「人が育つ機会をつくる」こと
では、そこから何を始めるべきか──答えは「人材開発」である。ただし、“変革人材を採用する”といった即席の処方箋では意味がない。必要なのは、挑戦する人を社内から発掘し、覚醒させ、挑戦の場に立たせ、価値観ごとアップデートしていく“連続的な仕組み”をつくることだ。
つまり、挑戦者を一人育てるのではなく、挑戦者が次々と生まれ、失敗しながら学び、再挑戦していく「シリアルイントラプレナー」の母集団を育てること。複数回の挑戦と失敗を重ねた人が、初めてビジネス・プロデューサーとしての経験値を持つ。その回数こそが組織の資産であり、イノベーションの芽はそこからしか育たない。
成功確率を上げる方法はない。失敗確率を下げる工夫はある。あとは、打席に立ち続けるしかないのだ。
「挑戦者を支える仕組み」も同時につくる
挑戦者を生むだけでは不十分だ。彼らを支える“組織側の装置”も同時につくる必要がある。たとえば、アイデアの壁打ちを担うメンター。事業構築の進行を支援するファシリテーター。社内制度やプロセスを設計する制度設計者。現場と経営層の橋渡し役として、共に事業を推進する中間管理職──。
こうした支援者たちの存在なくして、挑戦者は孤立し、摩耗し、やがて疲弊していく。だからこそ、“挑戦する側”と“支える側”の両輪を育てることが、組織としての耐久性を高める。
すべての前提を変えるのが、経営の覚悟だ
そして最後に欠かせないのが、経営層の本気の意思決定である。新規事業を「片手間」ではなく、「事業ポートフォリオの根本的な見直し」として据えること。中期経営計画において、既存事業からのシフトを宣言すること。そして何より、経営会議のアジェンダや意思決定プロセス自体を刷新することで、変革の重力を経営の中心に置くことが必要だ。
新規事業は、「ちょっといいアイデアが出た」だけでは生まれない。経営の思想と構造、仕組みと評価、育成と対話のすべてが変わらなければ、土壌は耕されないのだ。
ビジネス・プロデューサーとは「打席に立ち続ける人」だ
新規事業を本気で立ち上げるには、ビジネス・プロデューサーの存在が不可欠だ。未来を妄想し、まだ名前すらついていない違和感に問いを立て、仮説を構造化し、ビジネスに昇華する。そして失敗してもなお再挑戦し、経験を“再現可能な知”へと昇華させていく──その繰り返しが、事業を生む人材の本質である。
彼らには、未来を語る想像力と好奇心、課題を見抜く定義力、仮説を設計する力、情報を抽象化・構造化する力、そしてそれらを事業モデルとして編み上げる構築力が求められる。同時に、失敗を恐れず進む胆力や、何度も立ち上がるレジリエンス、他者を巻き込む対話力・翻訳力も不可欠だ。
ビジネス・プロデューサーとは、偶然に現れる天才ではない。打席に立ち続け、挑戦を積み重ねた“職能”の積層である。そして企業が変わる第一歩は、この職能を育てる土壌づくりから始まる。
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