“共感できないビジョン”を掲げる上司と、どう付き合う?

【新規事業一問一答】“共感できないビジョン”を掲げる上司と、どう付き合う?

Q. シーズ起点の企画を進めています。
自分が発案者なのに、
上司が突飛なビジョンを掲げて介入してきます。
しかもそのビジョンには共感できず、
進め方も「なんとかなる」と抽象的。
この状況、どう立ち回ればよいでしょうか?

✔︎ ビジョンを掲げる上司は“使いよう”によっては強力な味方になる
✔︎ 共感できないなら、まずは“対話”で着地点を探る
✔︎ どうしても噛み合わないなら、腹を括って“使える上司”として割り切れ


抽象的でもビジョンを掲げてくれる上司は、ある意味“味方”だ

突飛なビジョンを語りながら、具体は一切語らない──そんな上司に振り回されるのは新規事業あるあるだ。だが、少し見方を変えてみよう。上司がビジョンを掲げてくれているということは、「そのビジョンに沿って進める限りは、止めない」と言っているのと同義である。

つまり、そのビジョンが社長や役員とも合意されているのであれば、あなたは「組織公認の進行許可」を得ている状態とも言える。であれば、極論すれば“その看板の下で、自分のやりたいことをやれる”チャンスなのだ。

もちろん、そのビジョンが本当に社内的に承認されたものかどうかは確認が必要だ。もし上司の“妄想”にすぎないなら、あとからひっくり返されるリスクがある。だが仮に社内的に一定の支持を得ているビジョンであれば、その傘の下にいれば、予算や裁量が手に入る。そう考えると、使いようによっては非常にありがたい存在である。

自分の中で共感できないとき、取るべき行動は2つしかない

では、そのビジョンに自分がまったく共感できなかったら、どうするべきか? 取るべき選択肢は、次の2つしかない。

① ビジョンを擦り合わせる対話を丁寧に重ねる
② 上司のビジョンに“寄り添うように見せて”、自分の信じる道を進める

まず①は、真っ向から「このビジョンには共感できない」とぶつかるのではなく、「このビジョンの“意味”を自分なりに解釈する」ための問いを投げていく。たとえば「この未来が来るとしたら、今何を変えるべきだと考えていますか?」「その未来の主役は誰ですか?」「その社会に向けて、まずどんな兆しを捉える必要があると考えていますか?」──こうした対話を通して、相手の中にある“ぼんやりとした希望”を構造化していく。

この過程で、上司自身がビジョンの粗さに気づき、軌道修正する可能性もあるし、逆に自分の中で「なるほど、そういう未来像なら腹落ちする」と変わる可能性もある。とにかく、ここでは“共感”より“解釈”の余地を探るのが重要だ。

それでも腹落ちしないなら、“詐欺師的”に進めてしまえばいい

しかし、それでもどうしても納得がいかない──そんなときは、②のスタンスに切り替える。「表向きは上司のビジョンに寄り添いつつ、自分の信じる方向で地道に進めていく」戦略だ。

具体的には、上司に報告する資料や進捗は、相手が見たい言葉・構造・ストーリーに寄せる。一方で、現場での検証や打ち手は、自分の確信に基づいて実行する。これは嘘をつくという話ではない。「どう説明すれば上司が納得してくれるか?」という、“説明構造の変換”にすぎない。

このとき大事なのは、「最終的に成果さえ出せばいい」という冷静な割り切りだ。誰がどんなビジョンを掲げたかではなく、どんな結果を出せたかが全てだ。ならば、過剰に“上司に理解されよう”とする必要はない。現場は現場の解釈で、現場なりのやり方で進めてしまえばいい。

上司に理解されずとも、予算を出し、裁量を与えてくれているのなら、それで十分だ。うまく巻き込み、うまく“使い”、成果を出す。それが、ファーストペンギンの生き抜く技術である。

「嘘はつかない」が「上司を騙くらかす」はアリ

繰り返しになるが、勘違いしてほしくないのは、ここで言っているのは“嘘をつく”ことではない。あくまで“上司が納得するストーリーで説明する”ということだ。

それは「目的は変えないが、語る言葉を変える」こと。自分のビジョンや仮説を、上司が好む構造や未来像と“接続”させて語ること。詐欺師的というより、戦略的に“言葉の翻訳”を行っているだけなのだ。

そしてその結果、一定の成果が出れば、上司はそれを“自分のビジョンの成果”として喜んでくれる。ならばそれで良い。あなたが本当に見たい未来に近づいているなら、表の看板はどうであれ、やるべきことをやればいい。

最後に必要なのは、“主導権を取り戻す行動”

この構図の本質は、「自分が発案したはずのプロジェクトなのに、自分の手で動かせていない」という“主導権の喪失”にある。だから最も重要なのは、言葉で主導権を取り返すのではなく、行動で主導権を取り戻すことだ。

上司の意向に表面的に合わせつつ、地に足のついた検証を着実に進める。その中で、あなたの言葉は“成果をともなった確信”に育ち、上司の抽象的ビジョンよりも、現場の実感をベースにした強さを持つようになる。

そのとき、上司は自然とあなたに任せるようになる。あるいは、任せたように“錯覚する”。どちらでもいい。主導権は、静かに、確実に取り戻されていく。



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ビジネスクリエイター、インキュベーター、アクセラレーター、コンサルタント。エンジニアとして、PHP/HTML/CSSのマークアップ言語によるWebサイトの制作、SEOエンジニアリング、アクセス解析アナリストを経験した後、IT領域の技術/潮流をベースとしたエスタブリッシュ企業向けのコンサルタントを経て、複数のIT企業にて、Web/アプリ系、O2O系、IPライツ系の新規事業立ち上げに注力。事業開発から経営企画業務まで、事業および会社立ち上げに関する業務を幅広く経験。また、シードフェーズのベンチャー複数社の立ち上げへの参画や経営戦略・組織戦略・PR戦略へのアドバイザリー、メンター、複数のアクセラレーションプログラムのメンターも手がける。