日本の「モノづくり」の技術力は失われた30年を経ても今なお健在だ。世界の技術の進歩は日本の製品無くしてはなしえないものも多く、今でも今でも世界で高いシェアを誇る製品が、大手企業にはもちろんんこと、下町の町工場にもある。
しかし一方で、その強さと裏腹に大きな弱さを抱えている。そしてその弱さが失われた30年へと日本を導いてしまった。日本の弱さとはサービスデザイン力であり、ビジネスデザイン力であり、システムデザイン力だ。
サービスデザインとは、単なる製品開発に留まらず、顧客体験までデザインすること。ビジネスデザインとは、その顧客体験によって顧客がお金を払いたくなる付加価値を生み出すこと。システムデザインとは、それを1事業者によるものとせず、エコシステム全体で産業に変革をもたらすこと。
単なるプロダクトデザインは、顧客のニーズを満たすだけに留まる。それはモノがない時代においては、圧倒的な提供価値そのものであったし、モノづくり力こそが競争力だった。市場が成長している時には、人々はモノそのものを求めるから、それがJapan as No.1へとつながった。
市場の成長が止まった時、それはすなわちモノが人々に行き渡った時でもある。そして、だからこそ人々は「体験」に価値を求めるようになった。プロダクトだけの提供価値では差別化ができなくなり、体験をデザインする「サービスデザイン」によって付加価値をつけることが重要になったのだ。
モノづくりの「道」を追求した日本企業は「デザイン」を単なる「ユーザインタフェース」としてしか捉えることができなかった。スティーブ・ジョブズがSONYに憧れたように、日本企業はモノづくりによって強いブランドを築き上げることができていたのに、社会の変化、顧客行動の変化に対応しきれずに没落していったのだ。
その傾向は失われた20年にも現れていたが、スマートフォンの登場による「アフターデジタル」で顕著に現れ、加速したのだ。デジタルはアナログとは別にあるモノではなく、アナログをデジタルが拡張し、デジタルをアナログが増幅させ、その両者の融合が新たな顧客体験を創出していった。
体験を設計するサービスデザインが提供価値を高め、マネタイズをも体験に含めるビジネスデザインが提供価値を損なわずにビジネスを成立させ、そしてそれをエコシステムとして確立させるシステムデザインがグローバルに急成長する企業を生み出した。
アングロサクソンはその力、特にシステムデザイン力が非常に強い。GAFAMは一気に台頭し、グローバルなデジタルプラットフォームで、世界を植民地化することに成功したのだ。
改めて現代においては単なるモノづくりだけでは、顧客のニーズを満たし、カスタマーサクセスを実現するイノベーションを起こすことはできない。
イノベーションに「デザイン」の力は必要不可欠なのだ。
日本企業が、最初に技術を提唱することができても、いつも事業化で遅れたり、後から出た技術に標準化を奪われるのは、この力が欠けているからだ。
モノづくりの優れた技術者がいるのだから、彼らが健在のうちに、サービスデザイン・ビジネスデザイン・システムデザインができる人材を、社内にどう取り込むか、社内でどう育成するか、どう組織化し相乗効果を生み出すかを、経営は真剣に考え尽くさねばならない。