変革しない方が合理的という、既存事業のパラダイムの不条理
成熟した既存事業は、先人たちの試行錯誤の末に構築されたオペレーション、マニュアル、経験則などのパラダイムが出来てあがっています。
過去の延長線上にある未来を、必ず到達するものと定義した計画を立て、その計画から外れるリスクをゼロにし、ミスをゼロにし、しっかりと計画通りに実行することで、その未来にたどり着くことを目指していく。
真面目な日本人は、一度でも成功すると怠けることなくオペレーションをしっかりこなす努力をします。そして成功を確実なものへとしていく。成熟事業はまさにその積み重ねの先にあります。
しかし、不条理にもこの日本人の真面目な努力こそが、失われた30年を招いたといっても過言ではありません。
IT技術による社会の変革は、世界を大きく変えました。この世界的なパラダイムの変換に対して、当然のことながら遅れてでも成熟事業もパラダイムをそこへ適応させる必要がありました。
しかし、当然既存のパラダイムを簡単に放棄したり、変更したりすることは難しいでしょう。それを行えばこれまで行ってきた投資が全て無駄になる可能性もあるし、今未来に対して行っている研究開発によって得られる利益機会さえも失うことになるからです。
高度経済成長から非常に長い期間成熟期を過ごし、その中で真面目に努力をしてきた日本人にとっては、既存のパラダイムを放棄することは耐え難い苦痛となり、イノベーションを阻害してしまったのです。
世界の変革とかけ離れ、ダメージを負ったとしても、イノベーションによって変革するコストが大きく、それと比較すれば既存のパラダイムに固執した方が合理的であったのです。
つまり既存のパラダイムの中で生き、ある程度の成果の残してきた既存事業の組織にとって、イノベーションとは既存のパラダイムを否定することであるため、自己変革を促すことは不可能なのです。そのためのコストがあまりにも大きい。
異なるパラダイムを両立させる出島戦略
それゆえ、イノベーションを起こすための組織は「出島」である必要があるのです。
新規事業とは、イノベーションとは、どうなるかわからない未来に対して、成功するかどうかわからない手段を定義し、とりあえず歩み始める。歩きながら考え、考えながら歩くというものです。
イノベーションには既存のパラダイムの中での常識や当たり前の批判も含まれます。いわば既存事業は「体制」であり、新規事業は「カウンターカルチャー」なのです。そりゃ分かり合えることはないでしょう。
また同時にイノベーションは一度固まったパラダイムのまま動き続けてはなりません。社会は常に変化し続けます。それに合わせて絶えず不確実性を感知し、変化の流れを読み、知識や技術を時には捨て、時には新たに獲得し、時には再構成し、新たなパラダイムを確立し続ける必要があります。つまりイノベーション組織は、常に批判的に自己否定し、自己改革を続けなければなりません。
既存組織で本来持つべきですが既存のパラダイムの中では持ちようがない「ダイナミック・ケイパビリティ」を、既存組織の外で持つべきというのが出島戦略です。
※ ダイナミック・ケイパビリティとは、環境変化を感知して(Sensing)、そこに機会を捕捉し(Seizing)、既存の資源を再構成して自己変容(Transforming)する力のこと
既存事業と新規事業がそれぞれが別のパラダイムとして両立するような両利きの経営、そして両立させる組織構造としての出島戦略こそが、今この日本においてもっとも必要なものなのです。
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