イニシャルコストとランニングコストの関係性は?

【新規事業一問一答】イニシャルコストとランニングコストの関係性は?

Q. 新規事業の立ち上げを考える中で、
イニシャルコストとランニングコスト、
そして売上の関係性がよく掴めておらず、
財務的な継続性が見通せません。
何から、どう設計していけば良いでしょうか?

✔︎ 事業継続のカギは「損益構造の読み解き」にある
✔︎ 売上の“増え方”と、コストの“増え方”の関係を設計せよ
✔︎ イニシャル vs ランニングのバランスで“耐久力”が決まる


「黒字になるかどうか」ではなく、収支構造が組めるか

新規事業では、単に「黒字になるかどうか」ではなく、「どこで、どういう構造で黒字化するか」が問われる。つまり重要なのは、利益が出るタイミングではなく、「利益が出せる構造」が設計されているかどうかだ。

特にMSP(Minimum Sellable Product)段階を過ぎたあとに、KPIに基づく仮説検証が進んでいれば、売上や継続率、コンバージョン率などの“実績ベース”で粗利・利益構造のシミュレーションが可能になる。そして、「あとは広告費を投下すればCPAが見合う」「追加人員を投入すれば供給が間に合う」という状態になれば、そこで初めて“収支が読める”と言える。

そのため、数字を“予測”するのではなく、“再現可能な仮説”として組み立てること。そしてその構造を自分たちで設計し、事業として“どこを起点に伸ばすか”が見えていること。これが損益設計のゴールだ。

「売上の増え方」と「コストの増え方」を揃える

収支構造を描く上で、絶対に意識すべきなのが「売上が増えたとき、コストがどう増えるか」という関係性だ。これは、スケールの限界を予測するための思考でもある。

たとえば、売上を2倍にするために人件費が2倍必要なのか、それともシステム投資によって一定水準まではコストが変わらずスケールできるのか──この「売上の増え方」と「コストの増え方」の関係性こそが、ビジネスモデルの伸びしろを決める鍵である。

逆にいえば、売上が増えるごとにコストが比例して増えるモデルでは、一定以上の成長が難しくなる。だからこそ、売上がスケールしてもコストは緩やかに増えるようなモデルを設計する。その意識が、最初の時点で必要だ。

「損益分岐点」と「撤退基準」を明示しておく

撤退の判断は、創業メンバーの精神論に委ねるものではなく、事前にルール化しておくべきである。どの時点で“その事業は終わり”とするか。それが明示されていなければ、ずるずると続けてしまい、会社全体が傷つく。

そのために、損益分岐点(売上やユーザー数など)を明示し、さらに撤退ライン(これを下回ったら撤退)を設定しておくと良い。撤退を明文化することは、一見すると後ろ向きな行為に見えるが、実際には事業の可能性を健全に伸ばすための“保険”であり、“余白”でもある。事前に明確なルールを定めておくことで、撤退判断は個人の責任ではなく、組織の判断となり、恨みや後悔を最小化できる。

特に新規事業は、「どこまで赤字を許容できるか?」という“耐久戦”になる。初期フェーズでは「赤字の深さ」ではなく、「赤字をどれだけ耐えられるか」が生存確率を決める要素だ。

そのためにも、毎月のキャッシュアウト(固定費+変動費)を正確に把握し、「売上ゼロでも何ヶ月持つか(手元キャッシュ÷月次赤字額)」という観点で経営の体力を測る必要がある。加えて、「どこでピボット判断を下すか?」という視点で、KPIとマイルストーンを明示的に設計しておくことが重要だ。

「損益分岐点」「撤退基準」「耐久可能期間」「ピボット判断軸」——これらを一体で設計しておくことで、事業の成長余地と失敗の限界線がクリアになり、迷わず進むことができる。

イニシャルとランニングは“性質”が違う

イニシャルコストは「一度払って終わる固定支出」であり、主にプロダクト開発、ブランド設計、初期採用、法人設立など、いわば“走り出すための代償”だ。

一方ランニングコストは、「毎月かかる継続費用」であり、サーバー・人件費・広告費など、動き続ける限り発生する“燃料”である。問題は、これらが増加するときに“売上が追いついているか”だ。

つまり、コストの構造を「一度限り」か「積み上がるか」「比例して増えるか」と分類する。そしてそれぞれの伸び方に対して、売上がどう追いつくかを設計する──それが、事業の“耐久力”を決める構造理解になる。

「LTV × CPA」で粗利構造を設計せよ

収益モデルをシンプルに捉える最も有効なフレームは、「LTV × CPA」である。LTV(Life Time Value)は“1人の顧客が生涯にもたらす収益”、CPA(Cost Per Acquisition)は“1人の顧客を獲得するためのコスト”だ。

このバランスが「LTV > CPA」になっていれば事業としては成り立つが、それが「何倍か?」が収益性の鍵になる。一般的に「LTVがCPAの3倍以上」あれば健全とされるが、新規事業ではこれを実績ベースで見積もることが難しい。だからこそ、まずは最小の販売実績や仮説検証で、仮のLTVとCPAを想定し、検証し、調整していくしかない。

「広告費をあと10万円投下すれば、◯人獲得できて、◯円売上が伸びる」──このような施策が見えるようになれば、経営判断も迷いがなくなる。

コスト構造を“意思決定の構造”として扱う

最後に最も伝えたいことは、コスト設計や損益構造は“計算”の話ではなく、“意思決定のための構造”であるということだ。

どこでアクセルを踏むか。どこに費用を投下するか。どの施策を止め、どこにリソースを集中させるか──すべては、「構造が読めているかどうか」にかかっている。

数字は、“未来を予測するもの”ではなく、“判断の根拠を可視化するためのレンズ”だ。LTVが上がるなら、CPAを上げてよい。CVRが下がっているなら、広告費を一時止める──このようなリアルタイムなアジャストができるようになるために、数字を設計する。

事業の財務とは、継続のためのナビゲーションである。感覚やノリで突き進むのではなく、「構造」を言語化し、「数字」で合意を取っていくこと。それが、事業としての強さをつくる。



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ビジネスクリエイター、インキュベーター、アクセラレーター、コンサルタント。エンジニアとして、PHP/HTML/CSSのマークアップ言語によるWebサイトの制作、SEOエンジニアリング、アクセス解析アナリストを経験した後、IT領域の技術/潮流をベースとしたエスタブリッシュ企業向けのコンサルタントを経て、複数のIT企業にて、Web/アプリ系、O2O系、IPライツ系の新規事業立ち上げに注力。事業開発から経営企画業務まで、事業および会社立ち上げに関する業務を幅広く経験。また、シードフェーズのベンチャー複数社の立ち上げへの参画や経営戦略・組織戦略・PR戦略へのアドバイザリー、メンター、複数のアクセラレーションプログラムのメンターも手がける。