Q. 新規事業の重要性が叫ばれ続けているのに、
なぜ多くの企業では実際に新規事業が
立ち上がらないのでしょうか?
経営層も現場も「やるべき」と理解しているはずなのに、
動き出せない、もしくは動いても芽が出ない。
その背景には、いったいどんな構造的な問題が
潜んでいるのでしょうか?
✔︎ 新規事業が生まれないのは「能力」ではなく「構造」の問題
✔︎ 四半期主義・HOW型人材・成功体験の呪縛が三大障壁
✔︎ 評価制度・前例主義・意思決定距離も、挑戦の芽を摘んでいる
四半期主義が新規事業の時間軸を殺す
上場企業にとって株主は絶対的存在だ。株主が求めているのは株価の上昇であり、それを実現するには「今期の数字」が重要になる。だからこそ、経営層もまた四半期単位での業績改善に目を向けざるを得ない。
しかし、新規事業は「3年後に芽が出るかもしれない」という営みだ。当然、短期的な数字には貢献しない。結果として、「不確実な未来」よりも「確実に売れる商品開発」や「既存事業の海外展開」など、株主が納得する戦略に予算と人材が割かれていく。種をまく文化が生まれる余地は、どんどん削られてしまう。
HOW型人材がゼロイチの思考を止める
多くの企業で経営層を担っているのは、既存事業のオペレーションを回してきた「HOW型人材」だ。「どう売るか」「どう効率化するか」には長けている一方で、「何を変えるべきか」「なぜ変えるべきか」といった根源的な問いに向き合ってきた経験がない。
事業にはフェーズごとに求められるスキルが違う。ゼロイチには「問いを立てる力」が必要だが、イチジュウの人材では太刀打ちできない。つまり、構造的に“適任者がいない”のだ。
成功体験が組織文化を硬直化させる
成熟期を長く過ごした企業ほど、過去の成功体験が組織の正義になっている。「これでやってきた」「うまくいっていた」という文脈が強すぎて、新しい挑戦が“異端”扱いされてしまう。
新規事業に必要なのは「変化」だが、その変化が社内で“ノイズ”として扱われる空気では、いくら理屈が通っていても通用しない。課題は論理よりも“空気”にある。つまり、新規事業を生むには、組織文化のリノベーションが不可欠なのだ。
評価制度が挑戦者を抑圧する
企業の評価制度もまた、新規事業を阻む構造のひとつだ。多くの組織では「減点方式」が基本である。つまり、事業計画を確実に達成することが前提であり、計画から逸れた挑戦や失敗は、マイナス評価としてカウントされる。
しかし、新規事業においては「計画通り進む」こと自体が幻想だ。だから本来は、「挑戦したか」「学習したか」「抽象化・構造化できたか」といった“加点方式”で評価すべきなのに、その土壌が存在しない。結果として、保守的な人ほど昇進し、挑戦的な人ほど辞めていくという逆転現象が起きる。
「前例主義」がイノベーションを拒む
企業内で何か新しいことを始めようとすると、「他社でうまくいっているか?」「前例があるか?」が問われる。つまり、未来の企画に対して過去の成功が説得材料として求められる。
だが、イノベーションとは「前例のないこと」に挑む営みだ。過去の事例を根拠にした意思決定では、未来にジャンプすることはできない。前例主義は、ゼロイチの芽を摘む最大の罠である。
意思決定者が変化から遠すぎる
そして最後の構造的な問題が、意思決定者の“距離”だ。多くの企業では、顧客や現場、技術の最前線から最も遠い場所にいる人がGo/Stopの判断をしている。
現場から上がる違和感やチャンスの兆しが、「理解されない」「届かない」「伝わらない」。その構造こそが、革新的なアイデアを握りつぶす最大の障壁になっている。
組織のせいにしていい。でも、言語化から始めよう。
ここまで読んで、「やっぱり大企業じゃ無理だよな」と思った人もいるだろう。でも、まずはこう言いたい。これはあなたの能力の問題ではない。構造の問題だ。つまり、「仕組み」が挑戦を潰している。だからこそ、戦うべきは自分ではなく“構造”なのだ。
そのためにまず必要なのは、この構造の歪みを“言語化”すること。問題を見える化し、語り合い、少しずつほころびを作っていくこと。それが、変革の第一歩になる。
新規事業は、個人の才能ではなく、組織構造のリノベーションから生まれる。そしてその構造を変える挑戦こそが、あなた自身のキャリアを大きく進化させる“本当の仕事”なのだ。
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