“飛び地領域”で、顧客課題をどう見つける?

【新規事業一問一答】“飛び地領域”で、顧客課題をどう見つける?

Q. 新規事業開発で、
これまで縁のなかった「飛び地の領域」に挑んでいます。
BtoB領域で顧客インサイトを掴むには、
どういったプロセスで課題を発見すればよいでしょうか?
また「越境」は、解決策を考えるときだけに
必要なものなのでしょうか?

✔︎ 顧客課題は“答え”ではなく、“違和感”から始まる
✔︎ 飛び地こそ、ゼロベースで現場を這いずり回る以外にない
✔︎ 「越境」は“解決策”のためではなく、“視点”のために必要


飛び地での課題発見は「ゼロから現場に潜る」しかない

既存事業の延長ではなく、これまで関与してこなかった“飛び地”の領域において、新たなイノベーションを起こすために、顧客課題を理解しようとしたとき、ほぼ例外なく誰もがつまずくのが「何をすればいいか分からない」という状態である。これは当然のことだ。業界の構造も、キープレイヤーの役割も、当たり前とされている文脈も、何も知らない状態では、何も見当がつかない。

この状態から抜け出すには、「正解を探す」という思考から、「違和感を感じ取る」思考への切り替えが必要になる。そしてその違和感は、机上の調査やインタビューの表層からではなく、現場で肌感覚としてしか掴むことができない。言い換えれば、「実際の現場に触れること」「顧客の行動を自分の目で見ること」こそが、課題発見の起点となるのだ。

だからこそ、“知らない”ことに誠実になり、ゼロベースで現場を這いずり回る姿勢が何よりも大事になる。このフェーズにおいては、スピードよりも感度、効率よりも執着が求められる。

「構造仮説」から問いを立てる

それでも、現場に入ったからといって、いきなり課題が見えるわけではない。最初は手がかりすら掴めないかもしれない。そのとき重要になるのが、「業界構造を仮説的に描いてみる」というアプローチだ。

業界のバリューチェーンやフローを可視化し、それぞれのプレイヤーがどんな行動をしているのか、どこで非効率や滞りが起きているのかを“構造的”に想像してみる。これはあくまで仮説であって構わない。その構造をもとに現場を観察すれば、無秩序だった情報の中に、“ズレ”や“過剰”が見えてくる。

たとえば「この人はなぜこの順番で作業しているのか?」「なぜここだけ手作業なのか?」「なぜこんな面倒なことを我慢して続けているのか?」といった、構造と現実のズレに着目する。そのズレを発見する目こそが、飛び地で課題を見つけるための最初の武器となる。

また同時に業界を構造的に理解するためには、現場へ入り込む「量」が必要となってしまうため、それを短縮する意味で、その業界の専門家(経験者、業界特化のコンサルタント、大学教授などの研究者など)に話を聞くことも有効な手立てだ。

課題発見のプロセスはこう進める

以下に、飛び地領域における課題発見のプロセスを、実行ステップとして整理する。

① 顧客群の構造把握
まずは、その業界のプレイヤーをマッピングし、誰がどんな役割を担い、どんなバリューチェーンの中で動いているのかを把握する。

② 顧客への接点づくり
その中で実際に会えそうなプレイヤーにアプローチし、ヒアリングや現場見学の許可を得る。これは最初の突破口であり、執着心が問われる。

(①・②を同時に短縮して行う手段として、専門家ヒアリングを行う)

③ 現場の観察と雑談
ヒアリング項目を準備することよりも、現場で“違和感”に気づける感度が重要。想定外の行動や言動に対して「なぜ?」を繰り返す。

④ 行動の裏の文脈を読み取る
行動を見て終わりにしない。「なぜそれをやっているのか?」「他のやり方はなかったのか?」という問いで構造の裏側を探る。

⑤ 課題の構造仮説を組み立てる
複数のプレイヤーに共通する“無意識の我慢”や“非効率の放置”を構造的にまとめ、課題仮説を再定義する。

このステップを繰り返すことで、少しずつ「言語化できる違和感」が育っていく。それが、事業の出発点となる“仮説の種”になる。

越境は“解決”のためでなく、“問い”のためにある

「越境は解決策のためのものか?」という問いに対しては、はっきりと否と言いたい。むしろ、越境は「問いを見出す」ためにこそ重要なのだ。

自分の思考のフレームが固定化されてしまっていると、見えるはずの違和感すら見えなくなる。他業界・他職種・他文化の価値観に触れることで、「なぜ自分はそれを当たり前だと思っていたのか?」という“思考の前提”が壊される。そこにしか、新しい問いは生まれない。

たとえば、物流業界の課題を探っていた人が、まったく関係のない飲食業界の現場で「手元の動作が視覚的に補助されている」ことに気づき、それをトラックドライバーの作業効率に応用できるのではと仮説を立てた──というような「異分野からの転用=アナロジーの発想」は、越境の中でしか生まれない。

越境とは、他の世界の構造を見て、自分の属する世界を捉え直すためのレンズだ。課題発見フェーズにおいても、そのレンズは最も重要な武器になる。

デザイン思考とは「気づかれていないズレ」を言語化する力だ

最後に改めて強調しておきたい。顧客課題とは、顧客が言葉で教えてくれるものではない。ましてや、「それが課題です」と言ってくれることなど、まずない。

本当の課題は、「誰もが我慢しているが、言語化されていない構造的なズレ」の中に眠っている。そのズレを感じ取るためには、言葉ではなく行動に注目しなければならない。観察、問い、構造、そしてアナロジー──その積み重ねの中にだけ、課題発見の入口がある。

つまり、飛び地での課題発見とは、情報収集でも分析でもなく、「問いの眼差しを育てる」プロセスである。資料の中に課題は書かれていない。現場の中に、答えもない。ただ、“気づける自分”が育っているかどうかだけが、すべてを決める。

その眼差しを鍛えるために、現場へ出よう。異世界に飛び込もう。そして問いを持ち帰ろう。課題は、いつもその中にある。そしてそれこそがデザイン思考の本質である。



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ビジネスクリエイター、インキュベーター、アクセラレーター、コンサルタント。エンジニアとして、PHP/HTML/CSSのマークアップ言語によるWebサイトの制作、SEOエンジニアリング、アクセス解析アナリストを経験した後、IT領域の技術/潮流をベースとしたエスタブリッシュ企業向けのコンサルタントを経て、複数のIT企業にて、Web/アプリ系、O2O系、IPライツ系の新規事業立ち上げに注力。事業開発から経営企画業務まで、事業および会社立ち上げに関する業務を幅広く経験。また、シードフェーズのベンチャー複数社の立ち上げへの参画や経営戦略・組織戦略・PR戦略へのアドバイザリー、メンター、複数のアクセラレーションプログラムのメンターも手がける。