Q. 顧客の声を聞きすぎると、
どうしても改善提案のような
アイデアばかりになってしまいます。
顧客に引っ張られず、
非連続で破壊的なアイデアを生み出すには、
どうすればよいのでしょうか?
✔︎ 顧客の声は“過去と現在”を語るが、未来を語ってはくれない
✔︎ 観察から「本質的変化の兆し」を拾い、そこに妄想を重ねる
✔︎ 解像度の高い“違和感”こそが、非連続な問いを生み出す起点
顧客の声からは、“今の不満”しか出てこない
顧客に向き合う。インタビューする。行動を観察する──その営みは確かに重要だ。しかしそこから得られるのは、多くの場合「いま困っていること」や「既存の選択肢に対する不満」にとどまる。
つまり、顧客の語る言葉は“改善提案”であり、“非連続な未来”にはなかなか繋がらない。破壊的なアイデアは、「顧客がこう言っていたから」ではなく、「顧客が言っていないこと」「顧客が無意識に避けていること」からしか生まれない。
顧客の声に耳を傾けることと、顧客の未来を描くことは、まったく別の作業だ。顧客は自分の“今”しか語れない。だからこそ、こちらが“未来”を見なければならない。
顧客観察の目的は、「違和感」を拾うこと
重要なのは、「何を言っていたか」ではなく、「なぜそうしていたか」だ。ある顧客が、手間のかかる方法で課題を解決しているとき、それは「なぜ、もっと簡単な方法を使わないのか?」という問いに繋がる。その“謎”や“無意識の習慣”にこそ、解き明かすべき構造的な課題が潜んでいる。
本当のインサイトとは、顧客の行動の裏にある「構造の歪み」だ。その歪みを見つけたとき、ようやく「こういう世界になれば、この歪みは消えるはずだ」という“未来の仮説”が立ち上がる。
顧客の過去を拾うのではない。顧客の行動の中に、まだ言語化されていない“未来への違和感”を拾う。それが非連続な問いの起点になる。
非連続なアイデアは、「構造」と「妄想」の交差点から生まれる
破壊的アイデアとは、「あるべき構造を、前提からズラす問い」からしか生まれない。
たとえば、「なぜ空間は“所有”しなければ使えないのか?」という問いから、WeWorkが生まれた。「なぜ教育は“教室で先生から”受けるものなのか?」という問いから、 Udemyは生まれた。「なぜ飲食店は“食べに行く”ことが前提なのか?」という問いから、Uber Eatsは生まれた。
これらはすべて、「既存の構造に対する違和感」×「未来への妄想」によって生み出されたものだ。顧客のニーズから発想したのではなく、顧客行動を観察し、「この構造は歪んでいる」と気づき、そこに“こうだったらいいのに”をぶつけた結果である。
つまり、非連続とは「顧客の声」ではなく「構造」と「妄想」の交差点からしか生まれない。
顧客起点ではなく、“顧客行動起点”へ
ここで重要なのは、「顧客を無視しろ」ということではない。顧客の“声”ではなく、“行動”を起点にせよ、ということだ。顧客の行動パターンを丁寧に解釈し、「なぜそうなっているのか?」を構造化し、それを再設計する──このプロセスが破壊的アイデアの前提になる。
インサイトとは、「顧客が言ったこと」ではなく、「顧客がまだ気づいていないこと」だ。
その“無意識のパターン”にこそ、イノベーションの芽は眠っている。
未来の当たり前を構想し、“今”とのギャップから始める
最後に大切なのは、「いま困っていること」を解決しようとするのではなく、「未来はこうなっているべきだ」という“当たり前”を描くことだ。そして、その当たり前と“今”とのギャップに、破壊的な問いを立てる。
その問いは、顧客が言ったことからは生まれない。むしろ、顧客に「そんなの無理だ」と笑われるような問いこそ、未来を切り開く扉になる。
「顧客を信じるな。顧客を観察せよ。そして問いを描け。」
破壊的アイデアは、顧客の“YES”からではなく、誰にも語られていない“構造の歪み”を見つけた人間の、“妄想と信念”から生まれる。それを問いとして言語化できるかどうか。それだけが、非連続を生む唯一の方法である。を持ち帰ろう。課題は、いつもその中にある。そしてそれこそがデザイン思考の本質である。
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