Q. 新規事業に繋がりそうなアイデアを
出しているのですが、
出てきた案の“筋がいい”かどうかを
どのように判断すればよいのか、迷うことが多いです。
判断の基準があれば知りたいです。
✔︎ “筋の良さ”とは、仮説の構造と未来の拡張性の両輪
✔︎ 顧客の変化仮説と、それを支える実装仮説が明確か
✔︎ 「今の点」が、「未来の面」になる設計図を描けているか
「面白いアイデア」と「筋のいいアイデア」は別物
よく、「このアイデア面白いね」「これ新しいじゃん」と言われるアイデアがある。でも、それが“筋がいい”かどうかはまったく別の話だ。
筋がいいアイデアとは、「構造的な問いを持ち」「仮説の接続が明確であり」「未来に向かって拡張していく設計がなされている」ものだ。
アイデアは点で出てくるが、事業は面で成立する。つまり、「どんな面に広がっていくか」が見える“設計力”こそが、筋の良さを決める。
筋がいいアイデアは、「問いの構造」を持っている
筋がいいアイデアには、抽象度の高い問いが内包されている。たとえば、ある課題を解決する機能やサービスが提案されたとき、「なぜそれが必要なのか?」「誰のどんな行動を変えるのか?」「それによって社会や産業構造にどんなインパクトがあるのか?」──という“問いの深さ”がセットで語れるかがポイントになる。
つまり、解決策の提示よりも先に、「この構造を問い直したい」という視点を持っているかどうか。その問いの質が、アイデアの筋の良さを決定づける。
「顧客の変化」と「提供手段」がセットで語られているか
もう一つ、筋の良さの条件として欠かせないのが、そのアイデアの実現によって「顧客がどう変わるか」という仮説と、それを実現する「提供価値」の仮説が、きちんとペアになっていること。
「これを作ったら便利だろう」ではなく、「この行動が変われば、顧客にとってこんな未来が当たり前になる」という“変化のビジョン”があるか。そして、それを支える手段として、自社が提供可能なリソースや技術が活きているか。
価値の仮説と実装の仮説。その両方が言語化されて初めて、筋の通った構想になる。
“面”の拡張シナリオが描けるか?
アイデアが“筋がいい”と評価されるかどうかは、「その一手が将来どこまで波及するか」の見立てが描けているかにもかかっている。
あるターゲットに対するピンポイントな解決案であったとしても、「この構造は他の業界にも転用できそう」「この体験価値は、横展開すれば別市場にも刺さる」といった“面への拡張仮説”が立てられているか。
あるいは、「このプロダクトが起点になって、顧客との関係性が深化し、次のビジネスが派生する」──そんな二手三手の発展性が語れるか。
将来の売上の“ミルフィーユ構造”が頭に描けているとすれば、それは筋のいいアイデアだ。
「検証可能性」もまた、筋の良さの一部である
筋がいいアイデアとは、ロマンがあるだけではなく、最初の一歩として「小さく確かめられる仮説」がセットでついているものだ。
「どこを切り取れば、小さくPoCができるか?」「誰にヒアリングすれば、仮説の精度が上がるか?」──このように、現実への接続性が明確であることも、筋の良さを決定づける重要な要素となる。
夢を語るだけで終わらせず、明日から動ける一歩があるか。検証シナリオを描けるか。未来の当たり前を語りながら、“今日の検証”にまでブレイクダウンできているか。ここまで設計されているものが、筋のいいアイデアである。
最終的に問うべきは、「これ、育つよね?」の感覚
筋の良さを論理的に分解すれば、上記のような構造になる。しかし最終的には、構造を踏まえた上で、「これ、育つよね?」という“直感に近い確信”を持てるかが重要だ。
それは、顧客像が立体的に描けていて、行動の変化に物語があること。提供価値がその行動にフィットしていて、ビジョンが自然と湧いてくること。そして、「この価値が社会に広がっていく姿」が想像できること。
それらが揃ったとき、アイデアは“種”ではなく、“伸びていく幹”として立ち上がる。それこそが、「筋がいいアイデア」の正体である。
📖 イノベーション・プロセスの入門書
超・実践! 事業を創出・構築・加速させる
『グランドデザイン大全』
- #01:グランドデザインとは?
📖 イノベーションに挑むマインドセット(連載中)
『BELIEF』
根拠のない自信が未来を切り拓く
📺 最新セミナー動画
- 【新規事業のいろは】イノベーションに挑む「マインドセット」を理解する
- 事業創出の「文化醸成」〜みんながチャレンジしたくなる制度作りとは?〜
- 脱・フレームワーク症候群〜形式より成果に集中して事業創出を〜
- 事業創出と商品開発の違い〜新しいビジネスモデルを考える~
- イケてる事業アイデアの創出:実践編 〜具体的なツール、量、期間、判断基準〜
- 事業アイデアは「閃く」もの 〜インプットの量が、良質なアイデアへと繋がる
- 事業プロジェクトの判断基準
- 事業創出の「文化醸成」〜みんながチャレンジしたくなる制度作りとは?〜
- 新規事業は、顧客の「不」から始めてはいけない
- 新規事業プロジェクトの最適な役割分担とは?
- イケてるアイデアは「越境」から始まる
- 外部メンターの”上手な”選び方
- ビジネスコンテスト運営会社の”うまい”選び方、使い方、切り替え方
- 年度残予算を来期に活かす上手な使い方
📺 新規事業Q&A動画
📝 お薦めコラム
- デザイン思考だからといって、アイデアを顧客起点で必ず考える必要はない
- イノベーションは「自責」によってしか成し得ない
- 目的は「イノベーションを成し、世界をより良くする」こと。それ以上でも以下でもない
- 新規事業は「やる気のある無能」がぶち壊す
- 新規事業に取り組むなら、社会課題は解決しようとしてはいけない
- デザイン思考は、イノベーションの万能薬ではない
📕 新規事業Q&Aコラム
- アイデアの“筋がいい”とは何か?
- 顧客に引っ張られず、破壊的アイデアを生むには?
- “飛び地領域”で、顧客課題をどう見つける?
- “共感できないビジョン”を掲げる上司と、どう付き合う?
- 異業界にゼロから挑むには、何から始めるべきか?
- 「小さく始める」と「小粒アイデア」の違いとは?
- 「越境」の重要性をメンバーや経営層にどう理解してもらうか?
- イノベーティブなマインドセットを、どう文化醸成するか?
- 経営層が理解してくれなくても、うまく回すには?
- リアリティある事業計画って、どう作る?
📝 最新コラム
- 失敗は、未来の成功のための学びの場
- イノベーションのためのビジネスデザイン:視野を広げ、経験から学ぶ
- イノベーションとは知性主義に対する、反知性主義の逆襲である
- イノベーションは、Z世代と共に、未来を創る
- 自主性と挑戦を促す「問いかけ」がイノベーティブな文化を創る
- 経営は「新規事業ウォッシュ」をやめ、本気で取り組まねばならない
- 新規事業推進に必要なのは「説得」ではなく、「納得」を得るための「対話」である
- モノづくりに、サービスデザイン、ビジネスデザイン、システムデザインを加えた四輪がイノベーションを加速する
- 世界をより良くするためにこそ、ルールに従わない自由を強く意識すべきだ
- 出島戦略を採るべき理由:既存事業と新規事業は分かり合えないことを前提に、組織を構築する