Q. アイデア検討レベルでは
「いくら儲かるか」という
議論はすべきではないのか?
✔︎ デザイン思考のアプローチはアイデア創出に不可欠だが、ビジネスの検討を後回しにして良いわけではない
✔︎ 「儲かるか」という観点からアイデアを検討することは、社内承認の獲得や早期のピボットを可能にする
✔︎ アイデア検討段階からビジネスの実現可能性を同時に考えることで、イノベーションを実現し、アイデアを成功に導くための鍵となる
良いアイデアが良いビジネスとは限らない
世の中には、デザイン思考の広がりとともに、顧客起点でビジネスを創出することが重要であるということが一般常識的に広まりつつあります。
顧客の「不」に注目し耳を傾け、ニーズを知り、それを解決する製品やサービスを開発することが、成功への唯一の道と説かれてきた。
しかしこれによって生じた副作用があります。それはデザイン思考原理主義者による「ビジネス検討は後回しで良い」という風説だ。
この考え方は根本的に誤っている。なぜなら「アイデアがどれだけ顧客の問題を解決できるか」は、同時に「アイデアはビジネスとして成立させることができるか」も同時に検討しなければ、ビジネスにはならないからだ。
理由①:社内承認を得るための必須条件
「新規事業」であれば、当然提案を社内に承認してもらわねばならない。そこには「このアイデアは市場で成功する可能性がある」という強い信念とともに、それを支える論理とデータが必要となる。
「顧客がこう言っています!」という情熱だけでは、社内の資源を動かすことは難しい。予算や人員といったリソースを確保するためには、ビジネスとしての成長見込みを示すことが不可欠だ。
スタートアップが自己資金で運営している場合は、じっくり腰を添えて顧客と何年も向き合うことだけに時間をかけることはできる。会社のリソースを利用する以上、その効果的な使い方を証明する責任があるのだ。
もちろんアイデアの段階でその見込みにすべてのエヴィデンスが揃っているわけではない。ロジックに飛躍があったとしても、フェルミ推定的シミュレーションによって実現可能性を提示しなければならない。
理由②:早期のピボットを可能にする
ビジネスアイデアを検討する際には、ただそのアイデアが魅力的かどうかだけでなく、マネタイズポイント、オペレーション設計、コスト構造など、ビジネスとしての実現可能性を幅広くシミュレーションすることが重要だ。
このシミュレーションを通じて、検証すべきポイントを明確にし、必要に応じて早期にピボットする選択肢を考え出すことができる。
リボン型ビジネスがわかりやすい例となる。あるビジネスが供給側にはニーズがあるものの、需要側にニーズがない場合、そのビジネスは成立しない。にも関わらず、片方にしかインタビューをしていないのであれば、それはビジネスアイデアとして成立しているとはいえない。
アイデアの段階でビジネスの検討をせずにただ顧客(この場合は供給側)だけに向き合い続けていて、しばらく経ってからリボン型のビジネスを選択しようとなっても、相当に予算や時間を無駄遣いすることに他ならない。
シミュレーションをすることで早期に検証ポイントを洗い出し、早期にピボットの選択肢を頭に入れ、早期にビジネスを成立する上での課題を発見することで、大きな損失を避け、歩みを止めずに進め続けることができる。
アイデア検討段階でも、ビジネスは同時に考える
ビジネスアイデアを検討する際に、「いくら儲かるか」という観点を同時に考えることは、早期にビジネス化を実現するために必要不可欠な観点だ。
デザイン思考は非常に重要だが、デザイン思考原理主義に陥ってそれだけに依存することなく、多角的な観点で検討を進めなければ、イノベーションを実現することはできない。
顧客が何を欲しいかを知るのは我々の仕事であって、顧客に問うてはならない。それはニーズに関してだけでなく、ビジネスに対しても同様だ。
アイデアが持つポテンシャルを最大限に引き出し、成功に導くためには、「良いアイデアであるか」と同時に、「儲かるか」を問うことから始めることは重要なのだ。
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