Q. 表面的な課題は
インタビューで聞けるのですが、
その奥にある「本質的な顧客課題」に
どうすれば辿り着けますか?
✔︎ 顧客の“答え”ではなく、行動と感情に宿る“兆し”を読み取ることが鍵
✔︎ 本質的な課題は、「行動」「代替手段」「感情の前後」から浮かび上がる
✔︎ 顧客の部屋が見えるほど“憑依”し、課題を“推察”する視点を持て
顧客が語るのは“症状”であって、“原因”ではない
インタビューで「課題はなんですか?」と尋ねれば、多くの人が自覚している困りごとを語ってくれる。けれどもそれは、あくまで表面的な“症状”にすぎない。真に解くべきは、その背後にある“構造”であり、“根本的な原因”だ。
例えば「手間がかかって面倒」と言う人がいるとしよう。だが、なぜ面倒だと感じるのか? 本当にそれは“手間”の問題なのか? 実はその背景には「家族に気を遣って自分の時間が取りづらい」という心理的構造が隠れているかもしれない。ここまで掘らなければ、インサイトには辿り着けない。
本質的な課題とは、顧客の行動と感情の奥に潜んでいる。顧客が言葉にしない領域──無意識の欲望、葛藤、諦め、希望。それらを掘り起こすことこそが、インタビューの本当の目的である。
「行動」「代替手段」「感情の前後」を深掘る
では、どうやって深掘ればよいのか? 鍵は次の3点にある。
① 行動を聞く
「どんなときにその悩みを感じますか?」「そのとき、直前には何をしていましたか?」──こうした具体的な行動の流れを確認することで、課題の文脈と深さが浮かび上がる。
② 代替手段を聞く
「今、その悩みに対して何か解決策を講じていますか?」と問うことで、本人がすでに試した手段と、そこにかけた時間やコストが見えてくる。そのうえで「それを使っても残っている課題はありますか?」と続けると、“今も解決されていない真の問題”にたどり着く。
③ 感情の前後を聞く
「その悩みが起きた直前に何をしていましたか?」「それを解決したとき、どんな気持ちになりましたか?」──行動の前後にある感情を辿ることで、本人も自覚していなかったインサイトが見えてくる。
これらの問いを繰り返し、相手の生活や感情の流れを“ストーリー”として再構築することで、言語化されていないニーズを発見できるようになる。
「インサイト」は“聞き出す”のではなく“推察する”
多くの人が陥る誤解がある。それは「インサイトは顧客から聞けるもの」と思い込むことだ。だがそれは違う。インサイトとは、“聞き出す”のではなく“推察する”ものだ。
顧客が語る言葉、行動、感情。その断片を点として捉え、それを結び、意味づけるのが私たちの仕事だ。そのためには、顧客の言葉を鵜呑みにせず、「なぜこの人はそう言ったのか?」「どんな価値観や経験がその言葉の背景にあるのか?」を想像することが不可欠になる。
深掘りとは、質問を重ねることではない。顧客の生活を丸ごと想像し、価値観を理解し、感情に“憑依”することだ。目指すのは「その人の部屋が見える」レベルの理解である。
“何が欲しいか”ではなく、“なぜそう行動したのか”を問え
イノベーションにおいて、顧客に「何が欲しいですか?」と聞くことはタブーだ。なぜなら、潜在的なニーズは本人すら自覚できていないからだ。重要なのは、「なぜそう行動したのか?」「なぜそれを選んだのか?」という“動機”を問うことだ。
例えば、「この人は毎朝コンビニで栄養ドリンクを買っている」という事実があるとしよう。その人は「元気が出るから」と言うかもしれない。だが深掘ってみると、仕事でのプレッシャーや家庭の孤独を少しでも癒やしたい、という心理が隠れていることもある。
事実はただの行動であり、そこに意味を与えるのがインサイトだ。意味は“聞く”のではなく、“見抜く”ものだ。そのための視点と訓練が、インサイト探索の鍵となる。
「聞き方」ではなく「見え方」を変える
本質的な顧客課題にたどり着くためには、テクニックよりも“世界の見方”を変えることだ。顧客の言葉を“ヒント”と捉え、その奥にある動機と背景を想像する。言い換えれば、インタビューとは「観察」であり、「仮説検証」であり、「愛」である。
他者の人生に真剣に向き合い、「この人は何を大事にしているのか?」「なぜそれがうまくいかないのか?」と問い続けること。それができたとき、あなたの目には、表面の言葉の奥にある“本質的な課題”が浮かび上がって見えてくる。
それはまるで、霧の向こうに輪郭が現れるような瞬間だ。その輪郭こそが、イノベーションの種である。
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