打席に立つ回数は重要だが、上市しなければそもそも打席に立っていない

打席に立つ回数は重要だが、上市しなければそもそも打席に立っていない

✔︎ 打席=市場に出す経験そのもの。上市して初めて一軍戦が始まる
✔︎ 練習や準備の積み重ねは不可欠だが、それだけでは永遠に二軍止まり
✔︎ 打席に立つ回数を増やすには、まず上市の場数を踏む仕組みが必要


「素振り」で終わっていないか? ― 学びと行動の境界線

新規事業に関わる人の多くが、まずは情報収集やセミナー参加からスタートする。これは野球でいえば「素振り」の段階に相当する。

基礎的なフォームを学び、型を身につける大切なステップだ。しかし、どれだけ素振りを繰り返しても、実戦でヒットは打てない。

「素振りだけしていても、大谷翔平にはなれない」

この一文に尽きる。知識のインプットやインサイト獲得は必要だが、それ自体を「打席に立った」と錯覚してはいけない。

次に多いのが「トスバッティング」、すなわちワークショップだ。安全な環境で球に当てる感覚を掴む練習。これは仲間と共に議論し、アイデアを出す場に似ている。

確かに球を打つ体験は得られる。だが、そこに投げ込まれるのはあくまで練習球だ。現実の市場という「生きた投手」の前に立ってはいないのである。

素振りやトスバッティングは重要な「準備運動」だ。しかし、それを「打席」と呼んではいけない。真の打席は、市場にボールが投げ込まれた瞬間から始まるのである。

バッティングセンター ― ビジコンの限界

多くの大企業が取り組むビジコンやアイデア創出イベント。これらは野球に例えるなら「バッティングセンター」に近い存在だ。

ある程度スピードのあるボールが規則的に飛んでくる。打つ感覚は得られる。初めての人にとっては格好のトレーニング場でもある。

しかし、ここにも大きな限界がある。

ピッチャーは投げ方を変えてこない。球種も単調だ。職業メンターは、バッティングセンターの機械のようなもの。教科書通りの指摘はしてくれるが、それ以上でも以下でもない。

相手チームが存在しない。現場に出ているわけではない。だから、ヒットを打ったところで試合の文脈に繋がらないのだ。

新規事業文脈では「いいアイデアが出た」で満足してしまうケースが多い。そこから実際のPoCや市場検証に進まないまま終わってしまう。

本当に必要なのは「生きた球」に触れることだ。顧客との接点や、実際の課題解決の場に飛び込むこと。バッティングセンターに通い続けるのは、所詮練習の域を出ない。

練習試合の価値と限界 ― PoC/PoIの位置づけ

PoC(概念実証)やPoI(課題実証)は、いわば「練習試合」に当たる。

相手チームは存在し、投げ込まれるのも生きた球だ。ここで初めて、バッティングセンターとは異なる「リアルな難しさ」を体感できる。

ただし、あくまで練習試合である。本番の観客もメディアもいない。勝敗のプレッシャーも限定的だ。

学びは得られるが、それが直接的に事業成果に繋がるわけではない。ここで満足してしまい「一軍に上がった」と錯覚する人たちも多い。

重要なのは、この経験を通じて「学んだこと通りにはいかない」という現実を直視することだ。

うまくいったという事実だけを並べて悦に浸るのではない。うまくいかなかったことにこそ目を背けずに向き合う。それが成長につながる唯一の道である。

そして、そこからさらに進み、次のステージに向かう覚悟を持てるか。それが分岐点となる。

二軍戦 ― MVPとMSPが育てる打撃感覚

MVP(実証可能な最小限の製品)、MSP(最小販売可能な製品)は、二軍戦に相当する。

観客も少しずつ入り、スコアが記録に残る試合。ここでようやく「点を取る=売上を立てる」経験をする。

一発ホームランばかりを狙っても意味がない。むしろ、送りバントや犠牲フライのような「ケースバッティング」が求められる。

市場の反応を細かく観察し、柔軟に戦術を変える力が試される。最初のやり方やアイデアに固執しても、正解には辿り着けない。ケースバイケースでの判断力・決断力が問われるのだ。

そして何よりも大切なのは「継続的に打席に立つ」こと。二軍で結果を積み重ねることで、初めて一軍のチャンスが巡ってくる。

一軍の舞台 ― 上市こそが本当の打席

上市、すなわち市場に出すこと。それが真の意味で「打席に立つ」瞬間である。

ここでは観客が待ち構え、相手ピッチャーも全力で投げ込んでくる。初めての一軍戦は、想像以上のプレッシャーと難易度に満ちている。

PoCやMVP段階での「そこそこ打てた」感覚は、一軍では通用しない。顧客の期待値も競合の実力も桁違いだ。

プレッシャーに負けず打席に立てるか。三振してもまた打席に入ることができるか。それが、新規事業の成否を分けるのである。

つまり、「打席に立とう」という言葉が真に意味するのは「上市を果たし、市場という本番の舞台に立て」ということだ。準備や練習はあくまで通過点にすぎない。

レギュラーを掴む ― 打席数を増やすために

一軍戦で結果を出せば、徐々に打席数は増えていく。代打から始まり、やがてスタメン、そしてレギュラーへ。

新規事業も同じだ。最初は小さな上市から始め、成果を積み重ねることで挑戦の機会が広がっていく。

逆に、上市を果たせなければ「そもそも打席に立っていない」のである。どれだけ準備しても、どれだけ練習しても、実際の試合に出ていない。一軍レベルでの成長には繋がっていないのだ。

打席に立って終わりではない。打席に立った後も何度も打席に立つ。三振や凡打の山を積み重ねながら、少しずつ一軍の試合感を手に入れる。レギュラーになれるような成績を残さなければならない。

言わずもがな、上市はゴールではない。ようやくスタートラインに立ったということなのだ。

大企業の新規事業において必要なのは「打席数を増やす仕組み」である。つまり、小規模でも良いから上市を繰り返す文化だ。そうしてようやく、選手は成長し、チームは勝利に近づいていく。

打席に立つとは、「上市」そのものである

新規事業創出を野球に例えるならば、真の打席とは上市以外にない。PoCやMVPは大切な準備段階だが、それだけでは一軍の選手にはなれないのだ。

大谷翔平だって、素振りや二軍戦で終わっていたら、メジャーの打席には立てなかったはずだ。我々もまた、上市という一軍の舞台に立ち続けなければならない。

その経験を積み重ねて初めて、未来を切り拓く打者としての成長が始まる。

だからこそ、今日もバットを握り、迷わず打席に立つ勇気を持つべきだ。準備や練習はもちろん大切だ。

しかし、打席に立たなければ、何も始まらない。何も始まっていないのだ。



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ビジネスクリエイター、インキュベーター、アクセラレーター、コンサルタント。エンジニアとして、PHP/HTML/CSSのマークアップ言語によるWebサイトの制作、SEOエンジニアリング、アクセス解析アナリストを経験した後、IT領域の技術/潮流をベースとしたエスタブリッシュ企業向けのコンサルタントを経て、複数のIT企業にて、Web/アプリ系、O2O系、IPライツ系の新規事業立ち上げに注力。事業開発から経営企画業務まで、事業および会社立ち上げに関する業務を幅広く経験。また、シードフェーズのベンチャー複数社の立ち上げへの参画や経営戦略・組織戦略・PR戦略へのアドバイザリー、メンター、複数のアクセラレーションプログラムのメンターも手がける。