Q. 当事者意識の主語は自分であるべきは理解した。
でも、どこまで範囲を広げるべきか?
広げすぎると集中が薄れるのではないか?
バランスの取り方が難しい。
✔︎ 当事者意識は「自分で決める習慣」から始まる
✔︎ 「影響できる範囲」と「共感できる範囲」を切り分けよ
✔︎ 熱量の“濃度”を最適化する力こそが、イノベーターの基礎体力
当事者意識とは「境界線の引き方」である
「どこまでが自分の責任範囲か?」この問いに明確に答えられるかが、当事者意識の質を決定する。
当事者意識は、単なる「熱意」や「やる気」ではない。それは自分の影響力が及ぶ領域を見極め、行動責任を自覚する力である。
つまり、自分の役割の“境界線”をどう引くかがすべて。狭すぎれば「他責思考」に陥るし、広すぎれば「無力感」に飲まれる。当事者意識は、「責任と影響力の半径」を正しく設定するデザイン行為なのだ。
この“設計”ができる人が、新規事業の現場では信頼される。何ができて、何ができないか。何に対して意思決定権があり、何は支援を仰ぐべきか。その線引きを明確にしたうえで、全力でやりきる。これが本当の当事者意識である。
当事者意識は「自分で決める習慣」から始まる
どれだけ熱量があっても、当事者意識が“他人任せ”の行動から始まっては意味がない。まずは自分自身が、「自分の判断で決める」という習慣を身につけるべきだ。
たとえば、日常業務の中で、自分で選び、自分で決める。小さなことで構わない。決断する。そして、その決断の責任を、自分の中で引き受ける。この繰り返しによって、当事者意識の“骨格”がつくられていく。
他人に委ねず、自分の選択で一歩を踏み出す人間こそ、未来を描くことができる。新規事業は決断の連続だ。「自分が選んだ」実感のない仕事に、熱は宿らない。
「関わる」と「背負う」を混同しないこと
当事者意識の罠は「全部背負おう」としてしまうことだ。新規事業の現場では、プロダクト、組織、予算、営業……関わる範囲はどうしても広がる。だが、「関わる=背負う」ではない。
むしろ、「関わるが、背負いすぎない」が健全な姿である。たとえばステークホルダーとの信頼構築も、「巻き込む」「共感を得る」ために必要だが、それを“自分が全部やらなければ”と思い込むと、疲弊と焦燥のスパイラルに入ってしまう。
当事者意識を発揮するとは「すべてを自分の手でやること」ではなく、「必要な支援を呼び込むこと」でもある。自分の強み・専門性に集中し、チームとして戦う。そのためのリーダーシップを磨くべきである。
自分ゴトと他人ゴトの“間”にこそ火が灯る
当事者意識は、「自分ゴト化」から始まる。でも、それを本当に意味あるものにするには、「他人ゴトとの間」に火を灯す必要がある。
つまり、「誰の未来のためにこれをやっているのか?」を常に問い続けること。それは、自分が起こしたイノベーションによって幸せになる顧客だ。事業の成果を本気で願える“誰か”がいてはじめて、当事者意識は「覚悟」になる。
そのためには「共感できる範囲」まで当事者意識を広げるべきだ。ただし「責任を果たせる範囲」は冷静に限定すべき。この「共感の幅」と「責任の深さ」の2軸で、自身の当事者意識の重心を定めていこう。
「影響できるか?」を常に問い、狭めすぎず、広げすぎない
スティーブン・R・コヴィーは『7つの習慣』で「関心の輪」と「影響の輪」という概念を説いた。まさに当事者意識の構造に通ずる視点だ。
・関心の輪:自分が気にしていること(例:ビジョン、世の中の変化)
・影響の輪:自分が働きかけられること(例:目の前のプロジェクト、ステークホルダーの巻き込み)
当事者意識は「影響の輪」に集中すべきであり、「関心の輪」に没頭しても成果は出ない。ここを見誤ると、他責思考か、無力感かのどちらかに沈む。
影響できる対象は何か? 自分の行動によって変えられるものは何か?逆に案コントローラブルなものは何か?それを問い続け、自らの“場”を定義し直す。アンコントローラブルなものに意識を奪われて足踏みしない。この繰り返しが、当事者意識のメンテナンスである。
当事者意識は「熱量の使い方」である
当事者意識は「熱量の使い方」だ。広げすぎれば熱は薄まり、狭めすぎれば小さな成果しか得られない。その熱量の“濃度”を最適化するには、「何に火を灯したいのか」を明確にするしかない。あなたが本当に情熱を注げる問い、ワクワクする未来、幸せにしたい顧客、そこに当事者意識を集中させよう。
当事者意識とは、「選び抜いた問いに対して、覚悟を持って行動する姿勢」である。その範囲は、自分の責任を果たしきれるスケールで、かつ誰かの未来に貢献できる広さで、設計し直すことができる。その“調整力”こそが、イノベーターの必須スキルだ。
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