Q. よく「他部署を巻き込め」と言われますが、
実際には皆忙しそうで、
自分の話なんてまともに聞いてもらえません。
どうすれば、他部署と協力関係を築けるのでしょうか?
✔︎ 「巻き込み力」とは、“熱量+構造”である
✔︎ 自分のKPIでは動かない人を、どう動かすかが鍵
✔︎ 共創とは“摩擦”をデザインすること
他部署は、あなたのビジョンを生きていない
まず知っておかなければならないのは、「他部署の人は、あなたのビジョンのために生きていない」という事実だ。新規事業に燃えるあなたの情熱は、他部署にとっては“ノイズ”でしかないことが多い。
特に大企業では、各部署にそれぞれのKPIと目標があり、評価基準が異なる。新規事業の進捗が、相手の評価に1ミリも関係しない限り、「手伝う理由がない」のは当然だ。だからこそ、「なぜ自分のプロジェクトが、相手にとっての価値になるのか」を丁寧に翻訳することから始める必要がある。
巻き込みとは、強引な協力要請ではなく、“相手の目的地と自分の目的地の交差点を探す作業”そのものなのだ。だから「対話」を重ねることが巻き込みには必要となるのだ。
「共感」だけで人は動かない。「構造」が人を動かす
情熱は大切だが、それだけでは人は動かない。重要なのは、「巻き込みやすい構造」を用意することだ。
たとえば、「打ち合わせに1時間出てもらえますか?」ではなく、「5分でこのスライドだけ見てください」など、関わるハードルを極限まで下げる。あるいは、巻き込む前に“先に成果を出しておく”ことで、「これなら乗ってもいいかも」と思わせる。
また、部門間で予算や評価の構造が異なるなら、個人ではなく“部署同士”で握ってもらう。形式上の合意ではなく、組織的な協力関係に持ち込めるかどうかが、共創の成否を分ける。
「情熱を伝えれば通じる」は幻想だ。情熱を持って背中で語ることは前提として、その上で現実的なアプローチをしっかり重ねることが重要となる。現実を動かすのは、「熱量」と「構造」のかけ算である。
共創とは、「摩擦」を乗り越える前提で始めること
他部署と組むときに必ず起こるのが、“価値観の摩擦”である。スピード感、言葉の定義、意思決定の仕方、目指すゴール──あらゆるものが違う。
共創を本気で進めるなら、「最初から摩擦がある前提」で設計すること。たとえば、ファシリテーターを立てる、共通言語を言語化する、最初に合意形成のルールを決めておく──こうした工夫が、協業の摩耗を最小化する。
また、「相手に理解してもらう」のではなく、「相手が自分で決めた」と思えるように、“問いの出し方”を変えることも有効だ。共創とは、調整ではなく“設計”である。共に創るなら、土台を整えるところから始めよう。
「巻き込めない」のではない。「巻き込める構造にしていない」だけだ
新規事業の本質は、“個人ではできないこと”に挑む営みだ。だからこそ、誰かと共に歩む力が求められる。「巻き込み力」とは、相手の感情を動かし、組織の構造を動かす力である。
人が動かないのは、あなたの熱が足りないからではない。熱はあるのに動かないのなら、それは構造設計の問題だ。共感されるまで話し続けるのではなく、共感される言語と構造を整えること。それが“現場で人を動かす”ということだ。
「皆が忙しい」と嘆く前に、「皆が動きたくなる構造」をつくろう。そこから、新規事業は本当に始まる。
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