Q. 「自分のやりたいことが
どの層に刺さるかわからない」状態で、
広域に仮説検証を実施するのは良くない?
原則として
「先に幸せにしたい人のペルソナを固めるべき」とも
言われるけど、どちらが正しいの?
✔︎ ペルソナを「先に固める」ことが原則とは限らない
✔︎ 「誰に響くかまだ不明」な状態だからこそ、探索的な仮説検証が有効
✔︎ 広域→仮説→ペルソナ特定という“逆順モデル”も、実務では現実的
ペルソナは「仮説検証のあと」に現れることもある
スタートアップ文脈でよく語られる「まず顧客ペルソナを描け」という教え。これは「プロダクト・アウトに陥るな」という戒めとしては正しい。だがそれを金科玉条のように守りすぎると、思考も行動も止まってしまう。
そもそもゼロイチのフェーズにおいては、「誰を幸せにするか」なんて明確に見えていないことの方が圧倒的に多い。だからこそ先に固定化しすぎず、仮説的な問いと検証の往復を通じて「見えてくる」ことのほうが自然だ。
顧客群は、アイデアの構想時点では仮説でしかない。最初のステップとしては“幸せにしたい顧客群の定義”を「調査しながら見つける」という意識で問題ない。
「誰に刺さるか」を探索するための仮説検証
やりたいことが決まっているけれど、「誰に一番響くかがわからない」という状態において重要なのは、“広域な市場探索”による仮説構築である。この段階で行うのは仮説検証ではない。
仮説検証は、この顧客に刺さるだろうという仮説があった上で、狭い層に向けて精緻に行い、仮説がいかに間違っているかを確認することだ。
しかしその仮説がないのであれば、「複数のセグメントに投げてみる」「どこに強い反応があるかを見る」探索的アプローチが有効となる。いわば「市場の反応からターゲットを見つけ出す」作業だ。
「仮説づくり→検証→再定義」のループの一歩目として、仮説構築を行う。ここで大事なのは、“問いを立てる力”と、そのための”気づき”が得られるための”感受性”だ。
広域探索→反応セグメント特定→ペルソナ具体化
「ペルソナ→仮説検証」ではなく、「広域探索→反応分析→ペルソナ特定」。むしろそれが現実的なプロセスであるといっても過言ではない。
たとえば、健康支援アプリの構想をしていたある起業家は、最初は「30代ビジネスパーソン」向けと想定していた。しかし仮説検証を通じて、意外にも「子育て中の40代女性」のセグメントで圧倒的な反応があった。結果としてターゲットペルソナを大きく方向転換した。
初期に顧客を決めすぎると逆に”カスタマー・ロック”に陥り、ピボットができなくなってしまうことにある。重要なのは「誰に響くかを決めてから始める」ことよりも、「誰に響いたかを観察する」ことで、事業の1st PinとしてのN=1を見つけていく姿勢を持つことだ。
仮説検証における“広さ”と“深さ”のバランス
とはいえ、やみくもに広域に打って出ても意味がない。広さは必要だが、それをどう切り分け、どんな問いで反応を探るかに戦略が求められる。
1回目の探索では、属性(年齢・性別・職業など)ごとの“反応傾向”をつかむ。2回目以降は、反応が強かったセグメントに対して“深掘り”する形でインサイトを探る。
この「広く→狭く→深く」のステップが、2歩目に行うべきことだ。アイデア仮説の構築において重要なことは、対象顧客に”刺さる”プロダクト、サービスの仕様を策定することだ。ここで初めて「ペルソナの具体化」を行う。
「正しいプロセス」よりも、「進みながら見つける」柔軟さ
仮説検証は、何かを“証明する”作業ではない。“答えを当てに行く”ためではない。“問いを通じて見えてくるもの”を見出す営みだ。問いを投げ、仮説に反応し、そこから新しい問いや発見を得ていく。
「先にペルソナを固めてからでないといけない」と思い込むと、その柔軟さが失われる。むしろ重要なのは、「見えていないからこそ、動きながら仮説を育てる」という姿勢だ。
広域探索は、やりたいことの“着火点”を見つけるために行う。その結果として「この人たちを幸せにしたい」と心から思える層に出会えたなら、それは最良のペルソナになり得る。
だからこそ、「まだわからない」を恐れずに動き出そう。探索する中で、やりたいことの本質も、幸せにしたい人の顔も、少しずつ輪郭を帯びてくる。
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