Q. アイデアを思いついたとき、
「もうすでに誰かがやっているのでは?」という
不安がよぎります。
ネット検索ではうまく見つからず、調べ方に迷います。
もし既存の事業が見つかった場合や、
後から類似が現れた場合、
どのように立ち振る舞えばよいのでしょうか?
✔︎ 「課題」から検索し、生成AIで構造化して探索せよ
✔︎ 競合の存在はむしろチャンス。価値とポジションで差別化せよ
✔︎ 類似参入は想定内。執念とスピードで勝負せよ
「すでにあるかどうか」を調べるための“正しい検索視点”は「課題」
「自分のアイデアは、すでに誰かがやっていないか?」と不安になったとき、多くの人がまずGoogleで検索してしまう。しかし、この時点で多くの人は“検索視点”を間違えている。
重要なのは、「ソリューション(解決策)」ではなく「課題」から検索すること。たとえば「高齢者向けの買い物代行アプリ」であれば、「高齢者 買い物 困りごと」などと課題側から探すべきだ。
ここで有効なのが、生成AIの活用だ。自分のアイデアをそのまま検索するのではなく、生成AIに「このアイデアをどんな社会課題の解決として位置づけられるか?」とプロンプトを投げてみよう。
例:
「高齢者向けの買い物代行アプリ」というアイデアについて、その背景にある社会課題は何か?また、その社会課題において既に取り組んでいるスタートアップを、VCの観点から投資すべき企業をリストアップせよ。
このように、生成AIに“課題構造の翻訳”を依頼すれば、検索の焦点が明確になり、見落としていた既存プレイヤーにも出会える可能性が高まる。もちろん生成AIに検索までお願いしてしまえば、そのまま競合調査に繋がる。
競合がいたら、それは「マーケットがある」証拠
もし競合がすでに存在していたとしても、決して落胆する必要はない。むしろ、それは「この課題には市場がある」という最高の証左である。
そもそも、世界を変えたサービスのほとんどは「1番手」ではない。
たとえば──
・Windows:世界で7番目のGUI OS
・Google:世界で12番目の検索エンジン
・Facebook:世界で10番目のSNS
・Amazon:世界で5番目の商用ECサイト
・iPhone:世界で5番目のスマートフォン
・iPad:世界で20番目のタブレット
・Tesla:世界で3番目のリチウムイオン電池搭載EV
日本でも──
・LINE:日本で4番目のスマホ向けメッセンジャー
・PayPay:日本で4番目の決済アプリ
・メルカリ:日本で2番目のフリマアプリ
・SmartNews:日本で2番目のニュースキュレーションアプリ
・ファミコン:世界で9番目のカートリッジ式家庭用ゲーム機
つまり、先行者がいるからこそ、後続がその市場を共に育て、さらに洗練された形で浸透させてきた。競合の存在は「終わり」ではなく「チャンスのはじまり」なのだ。
「ポジショニング」は“提供価値”で行う
競合との差別化を考える際、多くの人がやってしまうのが「機能の追加」による差別化だ。しかし、それはすぐに真似され、価格競争に陥り、レッドオーシャン化を招く。
差別化すべきは、「機能」ではなく「提供価値」である。その価値とは、以下の3つの軸に分類できる。
●情緒的価値:安心感・楽しさ・信頼など
●体験的価値:UI/UX・使用体験・導入時の感動
●社会的価値:コミュニティ・繋がり・文化性
例えば、「高齢者向け買い物代行」でも、「孤独を癒す人とのつながり」なら情緒的価値、「カートなしで玄関に届く体験」なら体験的価値、「地域のボランティアが届けるモデル」なら社会的価値となる。
このポジショニングを設計するためには、徹底的な競合分析が必要だ。特に、既存サービスの利用者に徹底的にインタビューを行う。利用し始めたきっかけ・決め手、使ってみてのギャップ・期待とのズレ、利用後も解消されない「残課題」。特にこの“残課題”にこそ、自分が埋めるべき価値の隙間が眠っている。
後発プレイヤーの登場は「想定内」
仮に、自分が始めたあとに類似サービスが出てきたとしても、それは想定内であるべきだ。むしろ「市場があるということは、誰にとってもチャンス」である以上、他者も必ず参入してくる。
むしろ、成長しているからこそ真似される。そのときに備えるべき打ち手は、以下の通りだ。
・圧倒的なスピードでPDCAをまわす
・顧客のエンゲージメントを高めてブランド化する
・エンゲージメントの高い顧客をコミュニティ化する
・ネットワーク外部性を活かし「使うほどに強くなる」設計にする
・ファーストムーバーとして蓄積したデータを武器化し、提供価値に転換する
つまり、他者が追いつけない“非再現性”を持ち込むことが、競合優位性につながる。単なる「早くやった者勝ち」ではなく、「早くやったからこそ構築できる価値」で差をつける。
事業は“独自性”ではなく“執念”で差がつく
競合がいるかいないかは問題ではない。「なぜ、それをあなたがやるのか?」を突き詰めることができるかどうかが、そのまま勝ち筋に繋がる。
誰かに似ていようと、先に誰かがいようと、「自分がやらねばならない」という衝動があるならば、その時点でそれは“あなたの事業”である。そして、その執念がある者だけが、顧客を本当に感動させることができる。
競合がいたから諦めた。──そんな理由で失うには、もったいなさすぎる。信念と情熱を燃やせ。競合がいるからこそ、その市場で“旗”を立てる意味があるのだから。
📖 イノベーション・プロセスの入門書
超・実践! 事業を創出・構築・加速させる
『グランドデザイン大全』
📖 イノベーションに挑むマインドセット(連載中)
『BELIEF』
根拠のない自信が未来を切り拓く
📺 最新セミナー動画
◆Tips: グランドデザイン大全 解説
- #01:グランドデザインとは?
◆Tips: 新規事業Q&A
◆セミナー: 新規事業の”いろは”シリーズ
- 新規事業のプロジェクト・デザイン 〜活動を始める前に準備すべきこと
- なぜイノベーションが必要なのか 〜両利きの経営概論〜
- 新規事業創出のプロセスを理解する
- イノベーションに挑む「マインドセット」を理解する
◆セミナー: アイデア創出〜事業企画立案
- あなたの事業は「ニーズ」それとも「シーズ」?〜技術起点のアイデアをデザイン思考で大きくする方法〜
- 企画止まりの事業を「実行」に移すには? 〜アイデア創出で立ち止まらないために〜
- 事業創出と商品開発の違い〜新しいビジネスモデルを考える~
- イケてる事業アイデアの創出:実践編 〜具体的なツール、量、期間、判断基準〜
- 事業アイデアは「閃く」もの 〜インプットの量が、良質なアイデアへと繋がる
- 新規事業は、顧客の「不」から始めてはいけない
- イケてるアイデアは「越境」から始まる
◆セミナー: プロジェクト・マネジメント
◆セミナー: 外部パートナー選定方法
◆セミナー: 制度設計・マネジメント
📝 お薦めコラム
- デザイン思考だからといって、アイデアを顧客起点で必ず考える必要はない
- イノベーションは「自責」によってしか成し得ない
- 目的は「イノベーションを成し、世界をより良くする」こと。それ以上でも以下でもない
- 新規事業は「やる気のある無能」がぶち壊す
- 新規事業に取り組むなら、社会課題は解決しようとしてはいけない
- デザイン思考は、イノベーションの万能薬ではない
📕 新規事業Q&Aコラム
- このアイデアすでにある?──既存事業の見極めと差別化の思考法とは?
- 自分が“井の中の蛙”であることを自覚するには?
- アイデアを完成させるのが難しい。完璧じゃないとだめ?
- PoCやMVPの検証って、何をどう見極めるべきか?
- モヤモヤだけで、新規事業の公募に応募してもいいの?
- マッチングサービスのPoC初期に陥る「鶏と卵」問題、どう突破する?
- ビジョンが合わないメンバーは、チームから外すべきですか?
- ビジョンは、アイデアの“あと”でもいいのでは?
- なぜ、まずサウンディングから始めるべきなのか?
- 他部署は、なぜ巻き込めないのか?
- 「前例がないからダメ」と言われたら?
📝 最新コラム
- 失敗は、未来の成功のための学びの場
- イノベーションのためのビジネスデザイン:視野を広げ、経験から学ぶ
- イノベーションとは知性主義に対する、反知性主義の逆襲である
- イノベーションは、Z世代と共に、未来を創る
- 自主性と挑戦を促す「問いかけ」がイノベーティブな文化を創る
- 経営は「新規事業ウォッシュ」をやめ、本気で取り組まねばならない
- 新規事業推進に必要なのは「説得」ではなく、「納得」を得るための「対話」である
- モノづくりに、サービスデザイン、ビジネスデザイン、システムデザインを加えた四輪がイノベーションを加速する
- 世界をより良くするためにこそ、ルールに従わない自由を強く意識すべきだ
- 出島戦略を採るべき理由:既存事業と新規事業は分かり合えないことを前提に、組織を構築する