Q. 「自分の視野が狭いかもしれない」と思ったとき、
どんな行動をとればよいのか?
視座を広げ、成長の起点にするには、
どんなマインドセットが必要なのか?
✔︎ 「無知の知」を起点にすることが、成長のスタート地点である
✔︎ 常識や既成概念を疑う“型破りの思考”が、井戸の外の世界を見せてくれる
✔︎ 行動と知識の反復で、視野は広がり「未来を創る力」になる
「無知の知」を受け入れる勇気を持つ
「自分は何を知らないのか?」を知る。それが、すべての変化のスタート地点である。ソクラテスの言葉にもある通り、賢者とは「自分が愚者であることを知っている人」だ。
自分が“井の中の蛙”であることに気づける人は、実はごくわずか。多くの人は、見えている世界が、世界のすべてだと思い込んでしまう。だからこそ、「あれ、もしかして自分の世界は狭いかもしれない」と思った時点で、あなたはすでに第一歩を踏み出しているといえる。
そのうえで大切なのは、「知らないことを知ろうとする意志」だ。これは単なる知的好奇心ではない。「自分の現状に甘んじず、未来を創りにいく」という強い意思表明である。
型を“守り”、やがて“破り”、最後に“離れる”
何かを学ぶとき、人は往々にして“オリジナリティ”や“自由な発想”を求めがちだ。しかし、最短で視野を広げるためにはまず「型」を守ることが重要だ。
茶道における「守破離」の思想のように、まずは信頼できるメソッドに“素直に”従ってみる。その上で、徐々に自分なりの問いや方法を見出していけばよい。井の中で泳ぐのをやめ、大海を知るには、まず「他者の目線を借りる」ことが早道なのだ。
特にイノベーションの世界では、未知の領域に飛び込むからこそ多くの失敗を経験することになる。しなくて良い失敗を減らすためにこそ、「師匠の型に倣う」。そのプロセスを知ることそのものが視野を広げるトレーニングでもある。
常識を疑い、異なる前提を試す
人間の思考は「前提」に縛られている。だからこそ、自分の“前提”を疑う練習をするべきだ。
例えば、かつ丼の入った器の蓋を開けずに中身を食べるにはどうする?多くの人は「器を壊す」「蓋をずらす」と考える。しかし「器ごと食べる」という発想ができる人は、ごくわずか。つまり、「器は食べられない」という前提が固定観念となっている証拠である。
このような思考の転換こそが、井戸の外に出る鍵だ。既成概念をぶち壊す勇気が、未知の世界を拓く。
「未来は創るもの」というマインドセットを持つ
基本的に今現在を生きるということは「未来は予測可能である」という前提に立っている。対して、イノベーションは「未来は予測不能である」という前提に立たなければならない。だからこそ、未来を“創る”という強いマインドセットが求められる。
「今ある情報で未来を当てる」のではなく、「自分の意思で未来を描き、その実現のために動く」。このパラダイムシフトが、視野を飛躍的に広げる。自分の井戸の底から月を見上げるのではなく、月へ行く方法を描く側に回るということだ。
情報が足りないのではない。必要な情報を選択できていないだけ。それが「月へ行く」というビジョンを掲げた瞬間にできるようになる。無意識の脳が自分に必要な情報を勝手に取捨選択をしてくれるようになるから。イノベーションを実現するためには、普段使っていない脳、無意識下の脳の機能さえも活用することが求められる。
視座を広げるための7つの実践アクション
井戸の外に出るには、思考だけでなく“習慣”が鍵を握る。ここからは、実際に取り組むべきアクションを7つ紹介する。どれも小さな一歩でありながら、積み重ねることで確実に視野は拡張する。
【1】異分野の読書をする
同じ業界・専門書だけを読んでいると、知識は増えても視野は広がらない。たとえば、アート思考、建築、哲学、宗教、民俗学、歴史、宇宙科学など、いったん“今の自分のコンフォート・ゾーンから遠い”と感じるジャンルに飛び込もう。
とくに効果的なのは「異なる世界観に触れる」ことだ。たとえば構造主義の思想に触れれば、普段“当たり前”に思っていた前提すら相対化される。視点を一段引き上げる読書とは、知識の拡張ではなく、世界観の転換をもたらす読書である。
オススメは大型書店にいって、書籍をジャケ買いすることだ。内容を確認しない。チラッとも立ち読みをしない。ただ感性に従って書籍を手に取り、読み耽る。「コンフォート・ゾーンから出る」という意識で本を選ぶのは中々難しいから、自分の感性に従って飛び出てみるのも一興だ。
【2】異業界の人と定期的に対話する
人の思考は、所属するコミュニティの文脈に強く依存する。特に若い世代であればあるほど、そのコミュニティは限りなく狭くなる。だからこそ「自分とは違う論理体系で動いている人」との対話は、強烈な視座転換をもたらす。
おすすめは、異業種の勉強会、メンタリング・プログラム、ワークショップ、イベント、交流会への参加。特にスタートアップ・創業支援系の場には、日々違う常識で動く人が集まっている。「そんな考え方があるのか!」という衝撃が、自分の“思考の井戸”を打ち破るきっかけになる。
【3】いつもと違うことを「体験」する
単に“知る”だけでは視野は広がらない。重要なのは“体験”である。
たとえば、生成AIやメタバース、ロボティクス、ブロックチェーン、宇宙ビジネスなどの最新技術・トレンドに、実際に触れてみる。触れることで初めて「これが当たり前になる世界とは何か?」という問いが立ち上がる。
海外旅行にも積極的に行こう。視察ではなく旅行で十分だ。ただし「ザ・観光地」を巡る旅ではなく、現地の人たちが訪れる場所に行き、現地の人たちと対話をすることを意識する。それだけで十分自分の価値観を根底から覆すような体験ができるだろう。
井の中から飛び出る視座を身につけるためには、物理的・肉体的に飛び出る体験をするのが近道でもある。
【4】失敗談を「自ら」オープンに語る
井の中に留まりやすい人の特徴に「恥をかきたくない」「弱みを見せたくない」という傾向がある。しかし、他者の失敗談には耳を傾けるのに、自分の失敗は隠す——これは視野拡張の大きなブレーキである。
恥をかくことに耐えられる力は、“自己防衛モード”を解除し、“探索モード”に入る条件である。思考の探索性を高めるためには、自らの失敗を語れる「自省と開示の習慣」が必須なのだ。
「パンツを脱げ」というような表現を使うこともあるが、自分の恥ずかしい部分を積極的に晒す。それができるからこそ、視野拡張にも繋がるし、同時に他人からの信頼を獲得することもできる。メリットは大きい。
【5】「自分が間違っているとしたら?」と問いかける
最も日常的で、かつ最強のアクションが「自問」である。意思決定や判断をするたびに、「自分が間違っているとしたら?」と一度は疑ってみる。
この問いがもたらすのは、“メタ認知の視点”である。つまり、自分の思考そのものを俯瞰して見つめる目線。メタ認知の習慣がある人ほど、柔軟な学習者であり続けられる。常に“絶対正しい思考”は存在しないと自覚する者だけが、井戸の外へ飛び出せる。
日記をつけることをオススメする。単にその日に起こった出来事を書くのではなく、必ず「リフレクション」する。今日の出来事に対して、どのような状況で、どのような行動をし、どのように感じたか。それに対してどのような教訓を得て、今後どのような行動に活かしていくのか。
日々「リフレクション」「自分が間違っているとしたら?」を習慣化できれば、コンフォート・ゾーンから飛び出すことに何ら心理的障壁を感じることもなくなるだろう。
【6】“自分の外”に師匠を持つ
自分の「メンター」となる人を見つけよう。メンターとは、人生の目標や価値観を明確にするための、経験豊富な指導者や相談相手のこと。「自分より高い視座の人」に定期的に学び続けることで、自分の世界が拡張していく。
もちろん「相談」までできれば良いけれど、物理的に会えない人でも良い。尊敬する人の書籍、音声、映像講義などでも十分だ。ただし大事なのは、繰り返し触れ続けること。
また理想は「アンカー」を持つことだ。そのメンターとの思い出の品や思い出の場所だ。一緒に撮った写真などもアンカーになる。メンターからの教えを定期的に思い出すことが重要なのだ。
また、もし直接会ったことがないのであれば、例えば、「毎日欠かさず運動する」というメンターの言葉に心が動いたのであれば、毎日のランニングや、運動後に飲むプロテインなども「アンカー」となり得る。
この感情と行動の反復によって「思考の型」が内面化されていく。自分より“半歩先”のメンターから学び、目線を内在化することで、“井戸”は多元的に広がっていく。
【7】“越境プロジェクト”に飛び込む
視野を一気に広げるために、環境自体を変えよう。いわゆる“越境学習”と呼ばれるもので、普段のコンフォート・ゾーンから飛び出て、異なる文脈のプロジェクトに参加する。
たとえば、NPO、教育、地域活性、アート、海外ボランティアなど。重要なのは、自分の“当たり前”が通用しない場所で活動すること。慣れた井戸を抜け出し、“文脈の異なる世界”に身を置くことで、思考のバイアスに気づき、新しい価値観を手に入れられる。
始められることから始めよう
この7つのアクションは、どれも特別な才能や環境を必要としない。ただ一方でどれが簡単に始められるかは人によって差異があるだろう。だから自分ができることから1つでも行動し始めよう。
どの一歩を踏み出したとしても、思考の柔軟性、感度、俯瞰力といった「イノベーション人材としての素地」を育ててくれる一助には必ずなる。
小さな行動の繰り返しが「井の中の蛙」から脱する鍵となる。大きな成長、大きな成果に至る道は、どんなものでも小さな行動の積み重ねの先にしかないのだから。
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