Q. 新規事業のアイデアは、
最初から完璧であるべきなのでしょうか?
それとも、穴だらけでも構わないのでしょうか?
「未完成な状態のアイデア」に対する向き合い方が
分からず、次の一歩が踏み出せずにいます。
✔︎ 最初から完成されたアイデアは存在しない
✔︎ 「穴」は問題ではなく「伸びしろ」と捉える
✔︎ 未完成のまま走り出し、行動から学ぶことが鍵
アイデアは“完成”ではなく“仮説”から始まる
新規事業におけるアイデアとは「正解」ではなく「仮説」である。だからこそ、完璧である必要はまったくない。むしろ、最初からあらゆる要素が埋まっているアイデアなど存在し得ない。
そもそも未来は予測不可能だ。インターネット以後、スマートフォン以後、そして生成AI以後の現代に不確実性は高まり、予測はより困難になっている。
そんな未来に挑む新規事業においては、「正しいこと」を考え抜くことは不可能だ。それよりも、「正しくなさそうなことを行動から排除する」姿勢のほうが本質的だ。つまり、完成を目指すのではなく、仮説を立てては「仮説のどこが間違っているか」を確認し、それを潰し(改善し)、磨き続けるプロセスが事業創出なのだ。
「未完成の仮説」こそが、試行錯誤の起点となる。つまり未完成であるからこそアイデアなのだ。完璧を求めて立ち止まるより、不完全でもまずは走り出す。これはイノベーターの基本行動規範である。
穴だらけのアイデアこそ、可能性の塊
アイデアに「穴がある」と感じたとき、多くの人は「欠陥」と捉える。しかし、イノベーターなら真逆の見方をする。穴があるということは、まだ埋められていないピースがあり、そこに新たな学びや成長のチャンスが詰まっているということだ。
むしろ、最初から“完璧そう”に見えるアイデアほど危険だ。なぜなら、それは誰のフィードバックも受けていない、思い込みだけで作られた自己完結の可能性が高いからである。顧客の声を反映していないアイデアは、どれだけ論理的でも市場では機能しない。
つまり、穴は「問題」ではなく「伸びしろ」なのだ。その認識を持つことがチームの心理的安全性にもつながる。アイデアを否定せず、掘り下げていける文化が、打席に立つ回数を増やし、成功確率を高めていく。
「未完成でも走る」ことの圧倒的なメリット
アイデアを未完成のまま走り出すことで得られる最大のメリットは「リアルな反応」だ。市場は常に最良のメンターである。机上で練られたどんなアイデアも、実際の顧客と接した途端、想定外の反応に晒される。
このときに大切なのは、「失敗しないこと」ではなく「早く失敗すること」。つまり、Fail Fast, Learn a Lot.(早く失敗して、たくさん学べ)という原則である。
またとはいえ、あまりにも未完成なアイデアを顧客に当てることはまだまだ心理的ハードルが高いだろう。そのためにいるのがメンターである。
メンターは様々な形で顧客と向き合ってきた経験者だ。経験者だからこそ、経験則で判断ができる。顧客になり変わって、そのアイデアをどうブラッシュアップすれば、顧客に受けいられるようなアイデアへと進化させられるかの示唆をくれる。
多くの成功スタートアップも、最初はボロボロのアイデアから始まっている。最初にピッチをしにいったVCからはフルボッコに否定されているものだ。しかし、その否定こそが学びなのである。
未完成だからこそ、学ぶことができる。ならば最短で学べる方法を選択しよう。そして方向修正を重ねていく。最初から完璧なアイデアは作れない。徐々にブラッシュアップしていく以外に方法はないのだ。
グランドデザインも、描きながら進化する
イノベーションの理想の進め方は、実現したい未来を最初に描き、それを描くからこそ現実のギャップが明確になり、そこに必要なソリューションが定義でき、アイデアが具体化することだ。しかし最初から理想通りにアイデアが描けることなどない。
この理想の進め方通りにアイデアが完璧にかけたものは、ものはアイデアでなく「グランドデザイン」だ。完璧主義的にアイデアを書こうとしている人は、アイデアを求められているのに、グランドデザインを描こうとしており、それは過剰な思考・過剰な作業となっていると認識しよう。
アイデアを実現し、より良い未来を実現する地図がグランドデザインだ。将来的にはそれを描くことが求められるし、描けなければイノベーションは実現しない。しかしグランドデザインは最初から描けるものではなく、行動を重ねながら描いていくものであり、行動を重ねながら書き直すものである。
「未完成な地図を持ち、走りながら描き足す」。これが新規事業のリアルな進み方だ。つまりそういう意味においては、アイデアとは、真っ白なキャンバスに地図を描くべく、最初に筆を落とすことだ。落とし方などに決まりはない。好きなところから描き始めればいい。
未完成の魅力を味方にせよ
アイデアが未完成であることを、「不安」と捉えるか「ワクワク」と捉えるか。そこがイノベーターとしての分岐点だ。未完成であるがゆえに、想像の余地がある。新しい発見に出会える。仲間とともに「完成させていく」プロセスにこそ、新規事業の本質的な価値がある。
未完成のまま、走り出す。失敗を糧に、磨き続ける。そしていつか、かつて「穴だらけだったアイデア」が、人々の生活を変えるようなプロダクト、サービスへと成長する。そのとき初めて、あなたは気づくはずだ。「最初が未完成だったからこそ、ここまで来れた」と。
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