Q. 新規事業に挑むには
イノベーティブなマインドセットが重要だと言われます。
ただ、個人の熱意で終わってしまい、
チームや組織には浸透しないという課題があります。
イノベーティブなマインドセットを
「文化」として根づかせていくには、
どうすればいいのでしょうか?
✔︎ 「文化」とは行動パターンが“習慣化”された状態を指す
✔︎ 属人的マインドではなく、チーム全体の“構造”として設計せよ
✔︎ セミナーでは変わらない。仕組みの中でこそ、人は変わる
文化醸成とは「行動パターンの定着」である
「マインドセットを変える」と言うと、つい“個人の意識変革”に焦点が当たりがちだ。だが、本当に組織に浸透させるべきは“意識”ではなく“行動”である。つまり、文化醸成とは「イノベーションに向いた行動パターンが、チームや組織全体に習慣として定着している状態」を指す。
イノベーションの現場では、不確実性を前提に問いを立てること、仮説を構造化して検証に落とし込むこと、顧客に向き合い続けること──そうした“コンピテンシーに基づいた行動様式”こそが求められる。そしてそれが、組織内で“繰り返し再現される状態”になったとき、初めて文化になったと言えるのだ。
個人の感情や思想に頼るのではなく、「どう動くか」を共有し、それを仕組みとして日常に組み込む。文化とは、属人的な熱量のことではない。再現可能な構造としての“思考と行動の型”である。
セミナーや単発研修では、何も変わらない
よくある誤解が、「マインドセットを変えるためにセミナーをやる」「新規事業研修をやったら変わるはずだ」という期待だ。だが、残念ながら単発の座学やワークショップでは、文化は生まれない。なぜなら、“行動”が変わらないからだ。
マインドセットとは、頭で理解するものではなく、行動の中で初めて獲得される。つまり、「理解しました」ではなく、「やってみた」「試してみた」「失敗して気づいた」というプロセスを通じてしか定着しない。
たとえば、ある日研修で「仮説検証が大切だ」と学んだとしても、現場に戻ったときに誰も仮説を語らず、誰も検証に時間を使わないチームであれば、その学びは3日で消える。「現場の空気」が変わらなければ、人は変われないのだ。
ビジネスコンテストは“変革の入口”にはなれる
とはいえ、ビジネスコンテストのように6〜10ヶ月にわたって行動を伴うプログラムは、マインドセットの変革においては有効だ。なぜなら「仮説を立てる」「検証する」「顧客に向き合う」といった行動を“実際にやる”からだ。その中で、個人は思考を磨き、変化を自覚できるようになる。
しかし──問題はその後にある。現場に戻った瞬間、組織の行動パターンが元のままであれば、せっかく変わった人材は、力を発揮することができず、やがて2つのどちらかの選択をするようになる。「元の自分に戻る」か、「その場を離れる」か。
変革されたマインドセットを“定着”させるには、チームの行動パターンそのものを変えるしかない。つまり、個人の火を、組織の薪で燃やせるようにする仕組みが必要なのだ。
チームで行動を変える“仕組み”を設計する
では、どのようにして行動を変えていくのか?──答えは「日常の中に思考と対話の仕組みを埋め込むこと」である。
たとえば、週1回の定例で“仮説の共有”と“検証の結果”を話す時間を設ける。Slackのチャンネルで「最近の顧客インタビュー気づき共有」を投稿させる。意思決定のたびに「仮説は何か?」「その前提はどう検証されたか?」を問うクセをつける。
これらは全て、“イノベーションに必要なマインド”を「行動」として現すトリガーであり、それを仕組みによって反復させることで、チームの行動様式が変わっていく。
重要なのは、「何をするか」ではなく、「何を習慣にするか」である。文化は、ルールではなく、リズムの中で育つ。
文化醸成の起点は、たった一人の“自責”の火である
忘れてはならないのは、文化は“制度”ではつくられないということだ。始まりはいつも、たった一人の「諦めない姿勢」から始まる。「なぜ伝わらないのか?」「どうすれば伝わるのか?」──この問いを投げ続け、行動を続ける者が現れたとき、チームの空気は変わる。
壁を前にして、言い訳を並べるのは簡単だ。「上司が理解してくれない」「社内の制度が古い」──そのすべてを背負って、それでも動く。すべてを「自責」で考える。その態度が、文化の芯をつくる。
文化とは、最初から“ある”ものではない。誰かが日々、問い続け、仕掛け続けることで、いつの間にか“空気”になっているものだ。
マインドセットは伝えるものではなく、“感染”させるもの
最後に。文化とは、“言葉”で伝えるものではない。“ふるまい”で伝染していくものである。
問いを立てる。仮説を語る。検証を共有する。顧客と向き合う。──この繰り返しの中で、周囲の人間が「ああ、ここではそうするのが当たり前なんだな」と自然に行動を変えていくとき、文化が根づいたと言える。
セミナーでもない。マニュアルでもない。誰かの熱量でもない。仕組みと習慣と継続。その積み重ねの中でしか、文化はつくられない。
📖 イノベーション・プロセスの入門書
超・実践! 事業を創出・構築・加速させる
『グランドデザイン大全』
- #01:グランドデザインとは?
📖 イノベーションに挑むマインドセット(連載中)
『BELIEF』
根拠のない自信が未来を切り拓く
📺 最新セミナー動画
- 脱・フレームワーク症候群〜形式より成果に集中して事業創出を〜
- 事業創出と商品開発の違い〜新しいビジネスモデルを考える~
- イケてる事業アイデアの創出:実践編 〜具体的なツール、量、期間、判断基準〜
- 事業アイデアは「閃く」もの 〜インプットの量が、良質なアイデアへと繋がる
- 事業プロジェクトの判断基準
- 事業創出の「文化醸成」〜みんながチャレンジしたくなる制度作りとは?〜
- 新規事業は、顧客の「不」から始めてはいけない
- 新規事業プロジェクトの最適な役割分担とは?
- イケてるアイデアは「越境」から始まる
- 外部メンターの”上手な”選び方
- ビジネスコンテスト運営会社の”うまい”選び方、使い方、切り替え方
- 年度残予算を来期に活かす上手な使い方
📺 新規事業Q&A動画
📝 お薦めコラム
- デザイン思考だからといって、アイデアを顧客起点で必ず考える必要はない
- イノベーションは「自責」によってしか成し得ない
- 目的は「イノベーションを成し、世界をより良くする」こと。それ以上でも以下でもない
- 新規事業は「やる気のある無能」がぶち壊す
- 新規事業に取り組むなら、社会課題は解決しようとしてはいけない
- デザイン思考は、イノベーションの万能薬ではない
📕 新規事業Q&Aコラム
- イノベーティブなマインドセットを、どう文化醸成するか?
- 経営層が理解してくれなくても、うまく回すには?
- リアリティある事業計画って、どう作る?
- ビジネスモデルって、そこまで詳しくなる必要ある?
- 現場に入れないとき、どうやって“現場視点”を持つ?
- N=1の熱狂に、どこまで賭けるべきか?
- ビジネスモデルはどこから考える?
- ビジコンで「大玉」を見極めるには?
- 顧客インタビューで“都合のいい答え”ばかり拾ってしまうとき、どうすればいい?
- 新価値創出と自社ケイパビリティはどう結びつける?
- 「デザイン思考」って結局何なの?
📝 最新コラム
- 失敗は、未来の成功のための学びの場
- イノベーションのためのビジネスデザイン:視野を広げ、経験から学ぶ
- イノベーションとは知性主義に対する、反知性主義の逆襲である
- イノベーションは、Z世代と共に、未来を創る
- 自主性と挑戦を促す「問いかけ」がイノベーティブな文化を創る
- 経営は「新規事業ウォッシュ」をやめ、本気で取り組まねばならない
- 新規事業推進に必要なのは「説得」ではなく、「納得」を得るための「対話」である
- モノづくりに、サービスデザイン、ビジネスデザイン、システムデザインを加えた四輪がイノベーションを加速する
- 世界をより良くするためにこそ、ルールに従わない自由を強く意識すべきだ
- 出島戦略を採るべき理由:既存事業と新規事業は分かり合えないことを前提に、組織を構築する