Q. アイディエーションが
マンネリ化しています。
テーマや発想の枠を広げるには、
どうすればよいでしょうか?
✔︎ アイデアの広がりは、「未来を妄想できるか」で決まる
✔︎ ビジョンは独善的に描き、顧客を“未来”に連れていく意志を持つ
✔︎ 妄想→構想→検証の往復が、新しい価値を生む
アイデアが広がらないのは、今に縛られているから
「なかなか新しいアイデアが出てこない」と悩むとき、多くの人は無意識に“現実の延長線”で考えている。いま目の前にあるリソース、既存顧客、自社の強み──それらに縛られた思考からは、過去の焼き直しのようなアイデアしか生まれない。
そこで必要なのが、“未来を妄想する力”だ。社会がどう変わるか、価値観がどう変容するか、常識がどう陳腐化していくか──大胆な仮説を置いて、その変化を前提に発想してみる。そこにこそ、アイデアの幅を飛躍的に広げる鍵がある。
妄想とは逃避ではない。まだ言語化されていない“未来のリアル”を先取りし、そこに顧客を導いていくという強い意志である。
顧客の“あるべき姿”を、独善的に描いていい
良質なアイディエーションの起点は、「顧客のあるべき姿」を描くことにある。だがそれは、“現状の延長”にある必要はない。むしろ大切なのは、「こうあってほしい」「こうあるべきだ」と信じられる未来を、自らの価値観で定義してしまうことだ。
ビジョンはエヴィデンスから導き出されるものではない。正しさではなく、“強さ”で描くものだ。独善的でいい。傲慢でもいい。「顧客は今気づいていないけど、この未来に連れていくべきだ」と言い切ってしまう。そのくらいの熱量と決意がなければ、誰かの心は動かせない。
そして、その未来から逆算して、今なすべきことを考える。これが「バックキャスト」であり、アイデアは“ビジョンを実現するための方法”として生まれてくる。
テーマ設定は“未来仮説”から始めよ
まず着手すべきは、テーマ設定である。ただし、それは社会課題を収集することではない。「未来がこうなっていくのではないか」という変化の仮説を置くこと。テクノロジーの進化、規制の緩和、価値観の転換などを手がかりに、自分なりの“兆し”を仮説として置いてみる。
たとえば、「個人の信用が可視化され、スキルよりも人柄で選ばれる時代が来る」と仮説すれば、「匿名のままでも信頼を築けるプラットフォーム」というアイデアが見えてくる。
ここで重要なのは、「まだ誰も信じていない未来」を、自分だけは信じてみることだ。その妄想が、テーマ設定に命を吹き込む。
アイデアは制約条件の中で輝く
未来を妄想するといっても、何でも自由に考えていいわけではない。むしろ、あえて“制約”を加えることで、思考は鋭くなる。
「5分以内で使える」「サブスクリプションで提供する」「高齢者だけが使う」──制約条件を設けることで、課題の輪郭が浮き彫りになり、具体的な発想が生まれてくる。
これは“余白を塗る”作業ではない。限られた枠のなかで最大限の価値を届けるにはどうすればよいか?という問いに向き合う作業だ。制約は、創造性を加速させる燃料となる。
情報は“越境”して集める
もうひとつ、アイディアの幅を広げる強力な方法が「越境リサーチ」である。他業界のスタートアップ、海外の政策・事例、アート・建築・哲学など、異分野の視点、特許情報や先端テクノロジーの動向など。
ときに飲食業の発想が、宇宙開発の文脈から生まれることすらある。新しい視点は、自分の中にはない。だからこそ、“異物”を取り込む必要がある。
未知の情報との出会いは、“妄想”を構築的に育てるための栄養だ。妄想は放っておけば散漫になるが、リサーチと組み合わせれば構想になる。
ストーリーで未来に意味を与える
アイディエーションを“線”でつなぐ最終工程が、ストーリー設計である。「なぜこの未来を創りたいのか」「この世界に、どんな変化をもたらしたいのか」──それを物語にすることで、バラバラだった情報や思考が一気に収束していく。
たとえば、「すべての人が“余白”を持てる社会にしたい」という想いがあれば、サービスの設計思想も、ユーザー体験も、価格設定も、すべてその文脈で一本化されていく。
ストーリーとは、“意味のネットワーク”である。そして意味が宿ったアイデアは、単なる発明ではなく“ビジョンの断片”として、人の心を打つ。
妄想は、戦略だ
「未来を妄想するなんて、浮ついてないか?」──そう感じる人もいるかもしれない。だが、未来を妄想できない者に、未来は創れない。
それは無責任な空想ではない。
顧客のあるべき姿を、自らの意思で定義し、その未来から逆算して“今なすべきこと”を描く──。
それは、戦略そのものだ。
だからこそ、イノベーションの出発点は“妄想”である。妄想から構想へ。構想から行動へ。すべての着想は、そこから始まる。
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