Q. 新規事業を成功させるには、
どんなメンターを選ぶべきなのでしょうか?
✔︎ メンター不在は思い込みと独善を強化し、事業を歪める
✔︎ 経験なき“職業メンター”は、整理・共感・傾聴で迷路を生む
✔︎ 本物を見抜くチェックリストと配役の仕組みが、勝敗を分ける
メンターがいないと“思い込みの沼”にハマる
新規事業は、仮説と検証を繰り返す探索の旅だ。にもかかわらず、孤立して進めば「自分の見えている範囲」だけがすべてになってしまう。結果として、表層的な課題に終始し、根本的なチャンスを見逃すリスクが高まる。
さらに、外部の視点がないことで、机上の空論から抜け出せず、実行につながらない。「正しさ」よりも「思いつき」に寄りかかった小粒なアイデアが量産されてしまう。
組織内の同調圧力や、意思決定の遅れも加われば、判断は迷走し、スピードは落ち、学びのない検証を繰り返す悪循環に陥る。これが、メンター不在のもっとも大きな弊害だ。
“ダメなメンター”がつくと逆に暴走する
メンターさえいればうまくいく、というのは幻想だ。間違ったメンターは、むしろ起案者を誤った方向に導いてしまう。たとえば、抽象論ばかり語り、具体的な行動に結びつかないアドバイスを繰り返すようなケース。
また、フレームワーク至上主義に陥り、「整理すること」が目的化してしまう。現場を知らない机上の論理では、イノベーションは生まれない。挑戦を止めてしまうようなブレーキ型の助言も危険だ。
さらに厄介なのが、感情的に盛り上げるだけで、思考も行動も伴わないタイプ。「面白いね」「やってみよう」と同調しながら、客観的視点も戦略的示唆も持たずに暴走を助長してしまうメンターは要注意だ。
“良いメンター”は挑戦を支え、意思決定を導く
では、どんなメンターが良いのか。第一に、「問いの質を高めてくれる人」であること。表層の相談に答えるのではなく、課題の本質を見極め、起案者の思考を深く掘り下げてくれる存在だ。
次に重要なのは、「実践知」だ。豊富な事業経験に基づき、戦略的な視点と実行レベルのアドバイスを往復できる人。意思決定の質を高め、リソースの最適配分や事前の壁の回避にも貢献できる。
そして最後に、「挑戦を支えるマインド」を持っていること。失敗を否定せず、そこからの学びを語り、情熱の火が揺らいだときにもう一歩踏み出させてくれる──そんな人こそ、本物のメンターと呼べる。
メンタリングは、フェーズに合わせて“型”を選ばなければならない
メンタリングは事業フェーズごとに適切なメンタリングのスタイルがある。
アイデアを創出する初期フェーズにおいては「リフレクター」が必要だ。アイデアを広げる壁打ち役。類似事例の提示や問いかけを通じて、起案者の発想を拡張してくれる存在だ。
実際に仮説検証を繰り返しながらインサイトに辿り着く、提供価値を明確化しプロダクトを設計するフェーズにおいては、「シェルパ」が必要だ。過去の経験に基づいて、未来に向かう道筋を照らしてくれる案内人。抽象的な理想にリアリティを与え、ワクワク感とともに一歩ずつ伴走してくれる。
実際に事業をロジカルに整理し、戦略や事業計画、アクションプランに収束させるには「コクリエイト」が必要だ。構想を具体化する実務支援者。事業プランの構築を共に推進する。
この3タイプを理解し、フェーズに応じた使い分けが重要となる。
避けるべきは「職業メンター」
もっとも注意すべきは、事業を自ら生み出した経験がない「職業メンター」の存在だ。ビジネスコンテストの運営者やアクセラレーターの事務局、支援機関の担当者などが、“メンター”を肩書きとして名乗ることは少なくない。だが彼らの多くは、自分のリスクで事業を動かした経験がない。現場で何が起きるかを知らない者が、起案者に対して語る言葉は、どうしても表層的にならざるを得ない。
代表的なのが“整理屋”タイプである。3C分析やビジネスモデルキャンバスといったフレームワークを使いこなすことに長けているが、それ自体が目的化してしまい、事業開発の核心である「顧客理解」や「仮説検証」には踏み込まない。議論は知的に盛り上がるが、手を動かす実行が生まれない。整理に満足し、アイデアの血肉化が進まないまま時間だけが過ぎていく。
“夢語り屋”もまた、起案者を惑わせる存在だ。ビジョンや理想に共感し、情熱を「いいね!」と後押ししてくれるが、現実に向き合う視点が決定的に欠けている。儲ける仕組みはどうするのか、どこが顧客の心を動かすのか。そうした「現実に立脚した問いかけ」がなければ、メンタリングは単なる自己満足の応援になる。夢に寄り添うことと、夢で終わらせないことは別物である。
そして“コーチング屋”も、初学者を導くには不向きである。傾聴し、問いかけ、本人の中にある答えを引き出す──それがコーチングの技法だが、そもそも起案者の中に「答えがない」段階では何も引き出せない。むしろ必要なのは、経験に基づいたインプットや構造的な視点の提示だ。ティーチングもトレーニングも不足したまま、「あなたはどうしたいの?」と問うだけでは、起案者を迷路に放り込むだけになる。
“職業メンター”に陥りがちなこの類型には、構造的な限界がある。事業創造の経験なき支援は、善意であっても罪深い。
「本物のメンター」を見極めるチェックリスト
上手なメンター選びには、冷静な視点と具体的な基準が必要だ。以下のチェックリストをもとに、感覚ではなく“構造”で見極めよう。
✅ゼロから立ち上げた経験があるか?
・アイデア段階から事業化までのプロセスを経験しているか?
・単なる支援者ではなく、自ら事業を推進した実績があるか?
・自分のリスクで事業を動かした経験があるか?
✅大企業新規事業の経験があるか?
・大企業の新規事業立ち上げに関わった経験があるか?
・社内調整や意思決定プロセスを理解し、適切な助言ができるか?
・大企業の制度やカルチャーに対して現実的なアドバイスができるか?
✅何回事業創出に挑戦しているか?
・単発の成功体験ではなく、複数回チャレンジしているか?
・既に諦めたのではなく、継続的に挑戦し続けているか?
・業界や市場が異なる環境でも事業を創出した経験があるか?
✅失敗経験を語れるか?
・成功体験ばかりではなく、失敗の要因を明確に話せるか?
・「なぜ失敗したのか」「どう乗り越えたのか」を具体的に語れるか?
・失敗の学びを次の挑戦にどう活かしたかを説明できるか?
✅具体的な事業実績を語れるか?
・「関わった」ではなく「どのような役割を果たしたか」を説明できるか?
・売上・成長率・市場での影響など、定量的な実績を語れるか?
・事業のピボットやスケールの過程を具体的に話せるか?
✅現在のテーマに知見があるか?
・同じ業界での事業創出を経験しているか?
・同じフェーズでの事業創出を経験しているか?
✅幅広い知識を持っているか?
・自分の専門領域外ののトレンドや技術動向にもアンテナを張っているか?
・市場や競争環境を広い視点で捉え、他領域との接点を見出せるか?
・最新のスタートアップ動向や資金調達環境についても理解があるか?
✅アメとムチを使い分けられるか?
・励ますだけでなく、厳しく指摘すべきポイントを理解しているか?
・単なる応援団ではなく、実行につながるフィードバックを提供できるか?
・起案者の成長を促すため、バランスの取れたメンタリングができるか?
このチェックリストを満たす人物こそ、戦略思考・実行支援・人間的支え──そのすべてを担える「良き伴走者」である。
メンターは“仕組み”で選ぶ。偶然に頼らない
新規事業の成功確率は、良質なメンタリングの有無で大きく変わる。だからこそ、メンター選びは「感覚」でなく、「仕組み」で行うべきだ。
チェックリストをもとに適切なメンターを選択しよう。そしてその特性を理解し、フェーズごとにあう人を割り当てる。
優れた特定の個人ではなく、適切なメンターの「プール」と、それを「適材適所する判断」がセットになった、優れた仕組みによって、メンターが事業の質を引き上げることができる制度が完成する。
短絡的かつ偶然の相性だけに頼らず、戦略的に「勝てるチーム」を設計しよう。それが、上手なメンター選びの本質である。
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