【新規事業一問一答】潜在ニーズは本当に見つかるのか?

Q. Product Outではなく
顧客課題起点で考えるべきと言われますが、
そもそも本当に顧客課題から潜在ニーズを
見つけるなんて可能なのでしょうか?

✔︎ 新規事業の始め方は何でもいい。ただし、顧客と向き合わなければ育たない
✔︎ 顧客起点ではなく「顧客行動起点」でなければ、インサイトにはたどり着けない
✔︎ 潜在ニーズは“発見”ではなく、“構築”によって明らかになる


「◯◯から始めるべき」という人は、事業を作ったことがない

「新規事業はProduct Outで始めるべきではない」「顧客の不(課題)から始めるべき」──こうした言説を目にすることは多い。しかし、それを語っている人たちの多くは、事業を実際にゼロから作ったことがない人のように感じる。

実際に事業を生み出す現場では、スタート地点はさまざまだ。単なるアイデアの思いつき、流行りのスタートアップの模倣、技術起点、経営テーマとして与えられた領域、自分や家族の課題──どこからでも始まるし、どこからでも始められる。

大事なのは出発点の「正しさ」は大した問題ではない。それによって事業の可否など決まらない。重要なことは「それを育てていく過程で、どれだけ顧客と向き合い、確信を深め、形にしていくか」にある。

Product Outの落とし穴は“作ってしまった”ことによる呪縛

それでも「Product Outで始めるべきではない」には一定程度理屈が成り立つ。そこにはリスクが存在するからだ。

まずひとつは、プロダクトを先に作ってしまうことによって、意思決定が歪むリスク──すなわちサンクコストバイアス(コンコルド効果)だ。「せっかく作ったのだから、この方向が正しいと思いたい」「顧客の反応が悪いのは使い方を知らないからだ」と、無意識にデータを解釈し、現実を歪めてしまう。仮説検証が“検証”ではなく“正当化”にすり替わると、新規事業の足元は一気に崩れる。

さらにもう一点、プロダクトを開発するというのは、金銭的にも人的にも多くのリソースを要する。つまり、身軽にピボットすることが難しくなり、新規事業における「小さく始めて大きく育てる」という原則に反してしまう。

Product Outは、決して「始め方として間違い」なわけではない。しかし「そのまま進めば危うい」のだ。

顧客起点ではなく、「顧客行動起点」であるべき理由

では、「顧客課題から始める」ことが理想かというと、それもまた十分ではない。なぜなら、多くの顧客課題は「顕在化」しており、本人が言語化している要望のレベルにとどまってしまうからだ。

ヘンリー・フォードの言葉で「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」というものがある。もしそのまま顧客の課題に向き合っていたら、ヘンリー・フォードは馬の品種改良をしていたことだろう。

もちろんそれも立派なイノベーションであるのは確かだ。しかし、顕在化している要望としての課題に向き合っても至ることのできる未来は、顧客体験を抜本的に変え、世界を変えるようなイノベーションではない。

本当に大事なのは、顧客の“行動”を観察すること。行動の裏側にある葛藤や制約、感情の揺れに触れたとき、初めて「本人すら気づいていない『不』」に辿り着くことができる。

「顧客起点」は、顧客の言うことをそのまま受け止めるスタンスであり、課題解決型の思考だ。一方、「顧客行動起点」は、顧客の行動を観察し、言語化されていないニーズ=インサイトを見抜く起点である。

前者が提供できるのは「カスタマーサポート」だが、後者が目指すのは「カスタマーハピネス」や「カスタマーサクセス」である。未来を変えるような事業、つまりイノベーティブな新規事業を目指すなら、問うべきは「顧客の言葉」ではなく、「顧客の行動」なのだ。

潜在ニーズは“構築”されるものである

潜在ニーズは“発見”するものではなく、“構築”するものだ。なぜなら、インサイトとは地面に埋まっているお宝ではなく、観察と対話と仮説によって“意味づけ”されるものだからだ。

顧客の口から自然と現れることはまずない。断片的な情報、ちょっとした違和感、沈黙の裏にある感情。それらを組み合わせて構造化し、「これはこの人が本当に求めていることかもしれない」と意味づける。その営みこそが、潜在ニーズの“構築”に他ならない。

つまり「見つける」のではなく、「見抜き、立ち上げる」ものである。意思を持った問いと仮説こそが、インサイトを形にする出発点になる。

ビジョンから現在を見つめ、ギャップを捉える

潜在ニーズを構築するために最も有効なアプローチが、「ビジョン→現実→ギャップ」という思考だ。

まず、自分たちが信じる“理想の未来”を定義する。そこから逆算するように、顧客の現在地や日常の行動を徹底的に観察する。すると、未来のあるべき姿と現在の姿との間に、明確なギャップが浮かび上がる。

そのギャップこそが、“解決すべき問題”である。そして、その問題をどう解決するかを考えること自体が、イノベーションの本質に他ならない。

今を観察すれば、未来が見えてくる。顧客の行動にこそ、未来の姿が隠れている。そこに執念深く向き合い続けること。それが、潜在ニーズを構築する唯一の方法である。

ビジョンと情熱が、すべての起点になる

結局、新規事業はどこから始めてもいい。Product Outでも、顧客課題でも、なんでもいい。

けれども最終的には、「こういう未来をつくりたい」「こんな社会にしたい」というビジョンがなければ、行き先を見失う。

そのビジョンに、どれだけ自分が情熱を持てるか。そして、そのビジョンを実現するために、どれだけ顧客の行動に向き合い続けられるか。

情熱とは、始まりにあるものではない。動き続けた先に、芽生えるものだ。問い、観察し、仮説を立て、未来を定義し続けた先に、自分だけの確信が生まれる。

新規事業とは、情熱とビジョンの掛け算である。だからこそ、「どこから始めるか」よりも、「どう育てていくか」が何よりも大切だ。



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ビジネスクリエイター、インキュベーター、アクセラレーター、コンサルタント。エンジニアとして、PHP/HTML/CSSのマークアップ言語によるWebサイトの制作、SEOエンジニアリング、アクセス解析アナリストを経験した後、IT領域の技術/潮流をベースとしたエスタブリッシュ企業向けのコンサルタントを経て、複数のIT企業にて、Web/アプリ系、O2O系、IPライツ系の新規事業立ち上げに注力。事業開発から経営企画業務まで、事業および会社立ち上げに関する業務を幅広く経験。また、シードフェーズのベンチャー複数社の立ち上げへの参画や経営戦略・組織戦略・PR戦略へのアドバイザリー、メンター、複数のアクセラレーションプログラムのメンターも手がける。