Q. 他社の事業をそのまま真似するのは抵抗があります。
オリジナリティがない気がして
躊躇してしまいますが、
それでも取り組むべきなのでしょうか?
✔︎ 「パクる」こと自体が悪ではなく、進化させる姿勢こそが肝心
✔︎ 競合は仮説検証を先にやってくれた存在と捉えるべき
✔︎ 成功・失敗のエヴィデンスを活かして、独自の勝ち筋を探ることが重要
「パクリ」と「進化」の境界線
多くの人が抱く「パクリ」への抵抗感は、クリエイティブに対する純粋さの裏返しである。「自分のアイデアじゃない」「独創性がない」という罪悪感が胸を締め付ける。しかし、その気持ちこそが、実は最大の足枷になっている。
オリジナルを生み出すことに価値を置きすぎるあまり、他社の事業を模倣することに後ろめたさを感じる。しかし、実際の新規事業の現場では「TTP(徹底的にパクる)」は極めて合理的な手法である。なぜなら、すでに市場で試されたモデルは仮説検証がある程度済んでおり、ゼロから試行錯誤するリスクを大幅に軽減できるからだ。
重要なのは「TTPS(徹底的にパクって進化させる)」という姿勢だ。同じことをやるのではなく、その上で「自分たちだからこそできる付加価値」を積み上げる。進化を前提とした模倣は、むしろ新規事業の成功確率を上げる武器となる。
他社が踏み固めた道を歩きながら、自社ならではの景色を描き出すこと。このバランス感覚が新規事業創出には求められる。
成功事例の「残された課題」を探す
競合の成功事例を研究する際、単に「うまくいっているから追随する」のでは不十分だ。むしろ、その成功の裏側に「まだ解決されていない課題」が必ず存在する。カスタマー・ジャーニーのどこかにある残課題を探そう。
例えば、月額課金で急成長したあるサービスがある。表向きは成功に見えても、実際は「3ヶ月で半数が解約」「利用は最初の1週間だけ」という深刻な課題を抱えていた。そのギャップにこそ、次のイノベーションの種が眠っている。
既存プレイヤーに対して顧客が感じている課題に焦点を当て、顧客体験を一段引き上げることができれば、「単なる後追い」から「進化」へと変わる。
徹底的な分析は時間がかかる。しかし、この「隙間を見つける力」こそ、イノベーターの腕の見せ所である。
失敗の墓場にこそ、宝が眠る
多くの人は、競合の成功事例ばかりに目を向けがちだが、本当の学びは「屍累々の失敗事例」にある。彼らは何に躓いたのか? その答えこそが、あなたの成功への最短ルートを教えてくれる。
なぜ彼らは失敗したのか? 資金繰りの問題か、プロダクト・マーケット・フィットの欠如か、それともスケール戦略の誤りか。失敗の理由を解き明かせば、同じ轍を踏むことを避けられる。
歴史的に見ても、失敗の山を築いた市場こそ、次の成功者が現れる土壌となっている。シェアリングエコノミーやソーシャルゲームの領域でも、最初に挑戦した多くのプレイヤーは消えたが、その失敗の上に巨大企業が生まれた。失敗の蓄積が市場を育てる。その視点を持つことが重要だ。
模倣から始まり、情熱で突き抜ける
新規事業に必要なのは「理想の未来から逆算する」グランドデザイン思考である。競合分析はあくまで参考情報にすぎない。大切なのは、「顧客自身が想像できない未来像」を描き、そこへ至る道筋をデザインすることだ。
したがって、競合を真似ること自体が目的化してはならない。模倣は単なる手段であり、本質は未来に向けた自分たちのパーパスとビジョンを実現することにある。未来に対する確信があれば、模倣はむしろ強力なジャンプ台となる。
進化のプロセスを仕組みにする
模倣を進化につなげるには、偶発的な発想に頼ってはいけない。プロセスを設計する必要がある。たとえば、以下のサイクルを仕組み化することだ。
・競合の「痛い部分」を徹底的に洗い出す
・自社の武器と組み合わせて「これなら勝てる」仮説を作る
・最小限のプロトタイプで顧客の反応を確認する
・予想外の発見を見逃さない
・当初の想定を捨てる勇気を持つ
こうした体系的なプロセスがあれば、単なる「真似」では終わらず、自社ならではの強固な勝ち筋を形成できる。これはまさに「守破離」の思想にも通じる。まずは型を守り、次に破り、最後に離れて独自のスタイルを確立する。この進化の道筋を歩むことが、新規事業における成功の必然である。
「パクリ」に潜む倫理観と覚悟
最後に忘れてはならないのは、模倣には常に倫理的なリスクが伴うということだ。知的財産の侵害や、顧客から「二番煎じ」と見なされるリスクもある。だからこそ、表面的にパクるのではなく、「自分たちは何者で、なぜこの事業をやるのか」という強烈なパーパスを持たなければならない。
パーパスの裏打ちがあるからこそ、模倣は単なるコピーではなく「進化の物語」となる。「パクるか否か」ではなく「どう進化させるか」を問うのだ。情熱と覚悟をもって取り組む限り、模倣は恥ではない。むしろ未来を切り開くための賢明な一手となる。
そのためには、明日から始められることがある。気になる競合を3社選び、彼らの「できていないこと」を洗い出してみよう。そこに、あなただけの勝ち筋が見えてくるはずだ。他社が敷いたレールを利用しながら、自分たちの情熱と独自性で未来を描く。そうすれば、パクリは進化へと変わり、事業は確かな勝ち筋を手に入れることができる。
📖 イノベーション・プロセスの入門書
超・実践! 事業を創出・構築・加速させる
『グランドデザイン大全』
📖 イノベーションに挑むマインドセット(連載中)
『BELIEF』
根拠のない自信が未来を切り拓く
📺 最新セミナー動画
◆Tips: グランドデザイン大全 解説
- #01:グランドデザインとは?
◆Tips: 新規事業Q&A
◆セミナー: 新規事業の”いろは”シリーズ
- 新規事業のプロジェクト・デザイン 〜活動を始める前に準備すべきこと
- なぜイノベーションが必要なのか 〜両利きの経営概論〜
- 新規事業創出のプロセスを理解する
- イノベーションに挑む「マインドセット」を理解する
◆セミナー: アイデア創出
- イケてる事業アイデアの創出:実践編 〜具体的なツール、量、期間、判断基準〜
- 事業アイデアは「閃く」もの 〜インプットの量が、良質なアイデアへと繋がる
- 新規事業は、顧客の「不」から始めてはいけない
- イケてるアイデアは「越境」から始まる
◆セミナー: 事業企画立案
- あなたの事業は「ニーズ」それとも「シーズ」?〜技術起点のアイデアをデザイン思考で大きくする方法〜
- 企画止まりの事業を「実行」に移すには? 〜アイデア創出で立ち止まらないために〜
- 事業創出と商品開発の違い〜新しいビジネスモデルを考える~
◆セミナー: 事業計画〜事業戦略立案
◆セミナー: 仮説検証〜グロース
◆セミナー: プロジェクト・マネジメント
◆セミナー: 外部パートナー選定方法
◆セミナー: 制度設計・マネジメント
📝 お薦めコラム
- なぜ、ビジネスコンテストから事業が生まれないのか?
- デザイン思考だからといって、アイデアを顧客起点で必ず考える必要はない
- イノベーションは「自責」によってしか成し得ない
- 目的は「イノベーションを成し、世界をより良くする」こと。それ以上でも以下でもない
- 新規事業は「やる気のある無能」がぶち壊す
- 新規事業に取り組むなら、社会課題は解決しようとしてはいけない
- デザイン思考は、イノベーションの万能薬ではない
📕 新規事業Q&Aコラム
- 他社の事業をパクるのは是か非か?
- インタビューをしても、アイデアに確証が持てないのはなぜか?
- 企業文化(コーポレート・カルチャー)とは何か?
- なぜ、ビジネスコンテストから事業が生まれないのか?
- ソリューションとプロダクトの違いとは?
- 仮説検証にお金はかかるのか?
- 正しい外部メンターの選び方とは?
- 反対派や無関心な人に、どう向き合うべきか?
- ビジョンと戦略、どう違う?どう描くべきか?
- MVPは“最小限のプロダクト”ってことですよね?
- 新規事業、まず何から始めればいいのか?
- “人間性”はイノベーションに必要か?
- チームの期待役割の認識ズレはどうするか?
- ビジコンをやった意味は、本当にあったのか?
- 市場規模の推定に「平均値」と「中央値」のどちらを使うべきか?
- 議論が深まらないのはなぜか?
📝 最新コラム
- 打席に立つ回数は重要だが、上市しなければそもそも打席に立っていない
- 失敗は、未来の成功のための学びの場
- イノベーションのためのビジネスデザイン:視野を広げ、経験から学ぶ
- イノベーションとは知性主義に対する、反知性主義の逆襲である
- イノベーションは、Z世代と共に、未来を創る
- 自主性と挑戦を促す「問いかけ」がイノベーティブな文化を創る
- 経営は「新規事業ウォッシュ」をやめ、本気で取り組まねばならない
- 新規事業推進に必要なのは「説得」ではなく、「納得」を得るための「対話」である
- モノづくりに、サービスデザイン、ビジネスデザイン、システムデザインを加えた四輪がイノベーションを加速する
- 世界をより良くするためにこそ、ルールに従わない自由を強く意識すべきだ
- 出島戦略を採るべき理由:既存事業と新規事業は分かり合えないことを前提に、組織を構築する