Q. 顧客インタビューをしたのに、
自分のアイデアに確証が持てません。
インサイトはある気がするけれど、
確かな裏付けがないと前に進めない気がしています。
こんなとき、どうすればよいのでしょうか。
✔︎ アイデアに「確証」は存在しない。あるべきは「確信」だ
✔︎ N=1が「絶対に欲しい」と言う瞬間こそ突破口になる
✔︎ 到達できなければ、ターゲットかアイデアをピボットすべき
確証は存在せず、求めるべきは「確信」
新規事業において「確証」を探し求めるのは、砂漠で蜃気楼を追うようなものである。どれだけ走っても辿り着けず、気がつけば体力だけが削られている。
その旅路において、すべてのエヴィデンスが揃い、完全に間違いのないアイデアに到達することはない。
では、代わりに何を求めるべきか。それは「確信」だ。「確かに信じる」ことのできるインサイト。顧客とのやりとりのなかで、自分の内側に火が灯る瞬間を掴むことが、前進の唯一の力となる。
多くの担当者は「もっとデータが欲しい」という。しかし定量を追いかけるには早々に限界がくる。
事業の初期に必要なのは、数字ではなく生身の声だ。定性的に可能性があるかどうかを追い求めることにフォーカスする。特に「絶対に欲しい」と訴える顧客の言葉こそが、あなたに確信を与える最初の証拠なのだ。
この確信は、論理ではなく情熱を伴う直感に近いものである。
論理を固めすぎると硬直する。感情に寄りすぎると盲信する。両者を行き来しながら「これだ」と言える一点を見出すこと。それが最初の突破口になる。
N=1の「絶対に欲しい」を探し出す
新規事業の初動で最も重要なのは「N=1」、つまりたったひとりの顧客である。統計的に有意な数は必要ない。最初に探すべきは、名前で呼べるレベルの具体的な個人である。
ある起業家は、プロトタイプを見せた瞬間に顧客の目が輝き、「これ、いつから使えるの?今すぐ欲しい!」と身を乗り出して言われた時、全身に鳥肌が立ったという。
その瞬間、数ヶ月の迷いが一気に晴れたのである。それは数百人の「まあ欲しいかも」という声よりも、圧倒的に強いエヴィデンスになった。
重要なのは、その顧客の熱量である。彼らが「今すぐ欲しい」と言っているか。「お金を払ってでも使いたい」と表明しているか。こうした明確な欲求を持つ顧客を見つけることが、事業の最初の起点となる。
言い換えるなら、N=1が見つかった瞬間に「事業化の可能性がゼロではない」ことの実証となるのだ。誰がなんと言おうと、その1に辿り着けることは大きい。
確証バイアスの罠に陥らない
インタビューでは「確証バイアス」の罠に注意しなければならない。つまり、自分が信じたい答えばかりを拾ってしまう現象である。それは「確証」とは異なることを理解しなければならない。
インタビューイーの「いいね」という言葉は信用できない。なぜなら顧客は往々にして、インタビューワーを傷つけないように答えてくれるものだから。
本当に価値があるのは「ノー」の意見である。否定の理由は明確であり、その改善点こそが次の成長の種になる。
だからこそ、求めるのは「多数のイエス」ではなく「たったひとりの強烈なイエス」なのである。そしてそれこそが「確信」だ。
インタビューを続けても、確信に至らないのなら、その時点でアイデアかターゲットがずれている可能性が高い。勇気を持ってピボットを検討すべきである。
ターゲット設定の見直しとピボット
確信を得られないとき、多くの場合はターゲット設定が間違っている。顧客像を実在の人物に基づいて描き直し、その人物に会いに行くことが必要である。
さらに重要なのは「仮説に固執しない」ことである。検証を進めた結果、当初想定したターゲットが不適合であれば、速やかに別のセグメントにシフトするべきである。それは敗北ではなく、進化のプロセスである。
ピボットは痛みを伴う。自分の愛着あるアイデアを否定することになるからである。しかし真に執念を燃やすべきは「アイデア」ではなく「ビジョン」である。
ビジョンに忠実であるために、手段としてのアイデアは変え続けるべきなのだ。
インサイトが確信に変わる瞬間
最後に強調したいのは、「インサイトが確信に変わる瞬間」が訪れるということだ。
それは論理的な検証を積み重ねた末に訪れることもあれば、顧客の強烈な一言で訪れることもある。
例えば、「これがあるなら、明日から人生が変わる」と涙を浮かべて言った顧客がいた。その瞬間、事業チームの迷いは消え去った。会議室の空気が一変し、全員が同じ方向を向いたのである。それが確信を掴むということである。
確証を求める姿勢は安全そうに見えて、実はリスクである。動けないまま時間を浪費するからである。確信を掴んだら、一気に歩みを進める。そこからしか道は拓けない。
今すぐできる確信への第一歩
確信を掴むために、今日からできることがある。
まず、あなたのアイデアを最もリアルに伝えられる方法を考えてみよう。そして、最も期待している顧客候補に会いに行く
彼らの反応を見て、あなたの胸が高鳴るか。それとも冷めてしまうか。その感覚こそが、次に進むべき道を教えてくれるだろう。
完璧な確証など存在しない。だからこそ、不完全でも確信を持って歩き続けることが、イノベーションの本質だ。
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