Q. 「ソリューションとプロダクトの違いを
説明してください」と言われると、
なんとなく感覚で捉えてはいるけれど、
明確な違いを言語化できない。
どちらも「顧客に提供するもの」には違いないけれど、
何がどう違うのかを整理して理解しておきたい。
✔︎ ソリューションは「課題解決の設計図」、プロダクトは「それを形にした道具」
✔︎ ソリューション起点で発想すると、ピボットや展開の柔軟性が高まる
✔︎ プロダクトだけでは“なぜ作るのか”の本質を見失いやすい
ソリューションは「抽象度の高い課題解決の方向性」
ソリューションとは、「ある課題に対して、どうアプローチするか」という抽象度の高い“設計思想”であり“コンセプト”である。
顧客が抱える問題構造を解きほぐし、「どうすればこの人はハッピーになるのか?」を構想するもの。
重要なのは、ソリューションは“プロダクトを特定しない”という点だ。
ここではまだ、UIや機能、技術といった具体には踏み込まずに考える。
たとえば「シニアの孤独を解消する」というソリューションに対して、実装手段としてのプロダクトは「コミュニティアプリ」かもしれないし、「見守りロボット」かもしれない。
これらを具体的に考える前に、抽象的な概念として検討をする。だからこそ、プロダクトのピボットの幅が広がり、柔軟な進化が可能になる。
ソリューションは、顧客理解と未来構想の結晶だ。事業の成功は、この段階での“コンセプトの質”にかかっていると言っても過言ではない。
プロダクトは「ソリューションの具現化としてのモノ」
一方のプロダクトは、ソリューションを現実世界で機能させるための“道具”である。
UI、機能、技術仕様、利用フローなどが定義され、顧客が実際に触れる「提供価値を具体化したモノ」をとして立ち上がる。
ここでは、UX設計やエンジニアリング、オペレーション整備などの“実装力”が問われる。ソリューションが「理想の未来への道しるべ」だとすれば、プロダクトはその道を進むための「乗り物」だ。
しかしプロダクト起点で発想すると、つい手段が目的化しやすい。
「この機能を使ってもらうには?」という問いは、「そもそもこの課題をどう解決するか?」という本質的な問いからズレてしまう危険がある。
新規事業の初期においては、顧客課題すら不明確なケースが多い。そんなとき、プロダクトを最初に定めてしまうと、柔軟な軌道修正ができなくなる。
だからこそ、「ソリューション→プロダクト」という順番が重要なのだ。
顧客とどんな未来を実現するか。そのためにどんな価値を届けるか。それがソリューションであり、それをどう形にするかがプロダクトである。
プロダクト思考に偏ることで失われる視点
しかしながら、多くの企業は「まずプロダクトの仕様を考える」ことから始めてしまう。UIを作り込み、機能要件を詰めてから、ようやくユーザーに見せる。
そうすると多くの場合で、こんなことが起こる。
・ズレた仮説のまま開発が進む
・無駄な工数がかかる
・結局ユーザーに刺さらないものができあがる
しかし、それまで投資してきたお金やリソースがあるから、サンクコストバイアスに陥り、ピボットや撤退の判断ができないままズルズルとプロジェクトを続けてしまう。
これは「手段の目的化」そのものであり、イノベーションが生まれない最大の罠だ。
事業創出とは“手段”を作ることではなく、“目的”を達成することだ。そしてその“目的”とは、顧客に“価値”を届け、カスタマー・サクセス、カスタマー・ハピネスを実現することである。
その価値を定義するために、ソリューションが必要なのだ。
ソリューションとプロダクトの往復こそ、事業の進化の源泉
もちろん、「ソリューション→プロダクト」だけでなく、「プロダクト→ソリューション」へとフィードバックする循環思考も重要だ。
実際の顧客接点や利用データから新たなインサイトが得られたとき、ソリューション自体を更新することで、プロダクトも進化していく。
この「循環」こそが、真に顧客に寄り添い、進化し続ける事業の根幹である。
「一度作って終わり」ではなく、「仮説と実証のスプリントを繰り返す」ことで、より良い未来に近づいていく。
プロダクトはあくまでソリューションの“手段”であり、“本質”ではない。
問うべきは、「どんな未来を顧客と共創したいのか?」その問いから始まるソリューションの定義こそ、すべての事業創出の起点となる。
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