Q. 外部メンターを導入しようと検討しています。
ただ、周囲の事例を見ていても
「思ったより効果がなかった」とか
「合わなかった」と聞くことが多く、
どう選べばいいのか分からりません。
よくある失敗とその回避策を教えてほしいです。
✔︎ 「人柄重視」で選ぶと期待と実態のギャップが生まれる
✔︎ 機能不全の8割は「知見」「動機」「役割」「関与度」のミスマッチが原因
✔︎ 成功の鍵は、情熱を共有できる「共創関係」の構築
「人柄重視」で選んだメンターが、なぜ機能しないのか
「あの人、業界で有名だし人柄も良さそうだから」——こんな理由でメンターを選んでいないだろうか。そして、結果的に「なんか期待と違った」という消化不良感を抱いた経験も。
外部メンター導入の失敗事例を紐解いていくと、ある共通した構造的な罠が見えてくる。それは「期待と実態のギャップ」だ。つまり、依頼する側が「何をお願いしたいのか」を明確にしないまま、なんとなく依頼し、結果として「なんか違う」という失望を生んでしまう。
これは人材のミスマッチというよりも、むしろプロジェクト側の準備不足と言った方が正確だ。失敗の8割は、選ぶ相手が悪いのではなく、選ぶ前の「期待設計」が甘いことに起因している。
よくある「期待のズレ」、あなたは大丈夫?
メンターに対する期待のズレは、大きく4パターンに分類できる。
最もよく見かける失敗は、まず「知見ミスマッチ」だ。業界経験は確かに豊富だが、イノベーションの思考には不慣れな、いわば「守りの専門家」だったというケース。安定した大企業の論理で物事を考える人に、スタートアップの不確実性を相談しても、噛み合わないのは当然だろう。
次に「動機ミスマッチ」。メンター本人にとって、そのプロジェクトは「お付き合い」程度の位置づけでしかなく、本気度に温度差があるパターン。社長の人脈で紹介された偉い人が、義理で引き受けてくれたものの、実際にはマインドシェア的には片手間でしか関わってくれないというケースだ。
さらに「役割ミスマッチ」もある。戦略的な助言を期待していたのに、オペレーションの細かい話ばかりされる。あるいは逆に、実行面での支援を期待したのに、抽象的なアドバイスで終わってしまう。
そして「関与度ミスマッチ」——月に1回の定例ミーティングでは、プロジェクトの進化スピードについていけず、いつも「ちょっと前の話」をしている状態になってしまうということも起こり得る。
こうして見ると、ズレの原因は選定そのものではなく、事前の「期待の構造」にあることがわかる。
「誰を選ぶか」から「どう設計するか」へ
外部メンター選定の本質は「知見のある人を探すこと」ではない。むしろ「プロジェクトとそのメンターが、どういう関係性を築くか」を設計することにある。
まず「知見」について。どの領域における専門性が、今のプロジェクトにとって本当に欠かせないのか?単に「マーケティングに詳しい人」ではなく、「BtoBサービスの初期顧客開拓に詳しい人」なのか、「ブランディングに詳しい人」なのか。解像度を上げて定義する必要がある。
そして「動機」。なぜその人は、あなたのプロジェクトに関わりたいと思うのか?金銭的な報酬だけでなく、その人自身にとっての学びや価値があるかどうか。実は、最も力を発揮するメンターは、「自分にとっても面白い挑戦」と感じてくれる人だったりする。
「役割」についても曖昧さは禁物だ。戦略設計を担ってもらうのか、意思決定の壁打ち相手になってもらうのか、それとも実務の一部を代行してもらうのか。
そして「関与度」——どの頻度で、どの密度で関わってもらう設計が、そのプロジェクトにとって適切なのか。
これらを明確にしないまま「なんとなく良さそう」で決めると、高確率で温度差が生まれる。そしてその温度差は、プロジェクトにとって命取りになってしまうこともあり得る。
一方的な「オファー」ではなく「共創」の意識を持つ
理想的なメンター選定のプロセスは、「お願いします」という一方的なオファーではなく、「共創」の関係が構築できるかどうかだ。つまり、候補者とじっくり対話を重ね、相手の価値観とプロジェクトの方向性をすり合わせていく。
単に「知見があるかどうか」だけでなく、「この人は、今の課題にどんな角度で切り込んでくるか?」を見極める。できれば、その人に小さなテーマでの”トライアル助言”をしてもらい、実際のフィット感を確かめてみるのも良いだろう。
選定とは、「お願いするかどうか」だけではなく、「一緒にやれるかどうか」を確かめる行為だ。単なる外注先ではなく、共に山を登る仲間を探す感覚で臨むべきなのだ。
メンターの選び方は、事業への本気度を映す鏡
外部メンターをどう選ぶか——この問いにどう向き合うかは、あなた自身が新規事業にどれだけ本気かを映す鏡でもある。
なぜなら、真に必要なのは「アドバイザーの肩書き」ではないからだ。「この事業をどうしても実現させたい」という情熱を共有できる共犯者を見つけることなのだ。
だからこそ、選定は慎重に、かつ戦略的に。そして何より、選定する自分たち自身の問いの解像度を、徹底的に高めること。それが、外部メンターを本当に機能させる最も確実な道なのである。
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