Q. 新規事業の立ち上げフェーズで
「ビジョンを描こう」「戦略を立てよう」と言われるが、
正直どこから手をつければいいのかわからない。
理想を描くのがビジョンで、
計画を立てるのが戦略だという話も聞くけれど、
実際のプロジェクトで両者をどう整理し、
どう連動させるべきなのかを知りたい。
✔︎ ビジョンは“未来を定義する力”であり、組織の意志と覚悟を言語化する
✔︎ 戦略は“仮説としての筋書き”であり、ビジョンを現実に引き寄せる手段
✔︎ グランドデザインで両者を接続することで、チーム全体の共感と推進力が生まれる
ビジョンとは、まだ誰も見たことのない“未来の物語”である
ビジョンとは、「どんな社会や顧客の状態を理想とするか」という問いに対する、自分たちなりの答えだ。
それは単なるキャッチコピーではない。ましてや短期の目標でもない。ビジョンとは、その事業が存在すべき理由であり、未来を語る力であり、何よりも人の心を動かす“物語”である。
顧客の今の悩みからではなく、「この顧客は本来どうあるべきか?」という“あるべき姿”から発想することで、既存の延長線では見えない未来が立ち上がる。
実際、優れたビジョンを持つプロジェクトは、共感と推進力を自然に生み出す。「この世界を創るためなら、やってみたい」と思わせる力があるからだ。
ロジックで収益性や市場性だけを語っても人も金も集まらない。人が動くのは、“納得”ではなく“共鳴”だ。そしてその共鳴を起こすのが、ビジョンという火種である。
戦略とは、未来の物語を“現実化する筋書き”である
一方で、戦略はビジョンを実現するための“仮説としての筋書き”である。誰をターゲットにし、何を武器にして、どう市場を拓いていくのか。その道筋を仮説として描くことが、戦略の本質だ。
戦略に完璧は必要ない。むしろ、環境変化の中で前提が崩れることを前提に、仮説検証のスプリントを回しながら柔軟に書き換えていく姿勢が求められる。
ただし、ここで見落としてはならないのは、“仮説”であるがゆえに、その構造がなければ誰も納得しないということだ。新規事業における戦略とは、リソースと信頼を引き出すための「納得装置」でもある。だからこそ、「なぜその順序でやるのか?」「どこで勝負をかけるのか?」を説明可能な構造として設計する必要がある。
順序を誤れば、未来は描けない
多くの大企業の新規事業で見られる典型的な誤りが、“戦略先行”である。たとえば、市場規模の大きさからテーマを選び、KPIから逆算して実行可能性を高める設計をしてしまうケース。これは一見、合理的に見えるが、ビジョンが欠けているために、結局“誰のための、何のための事業か?”が曖昧になる。
逆に、まず理想の未来像を描き、そこから逆算して筋書きを設計すれば、たとえ遠くても、そこに至る道を共に歩もうという“共感と覚悟”が生まれる。順序は絶対に「ビジョン → 戦略」でなければならない。この順序を守ることで、戦略は“手段”ではなく“意志を宿した構造”となる。
グランドデザインという“地図”を描け
グランドデザインとは「理想の未来像から逆算して、いま何をすべきかを設計する地図」だ。ビジョンという山頂と、いま立っている現在地が明示されている。戦略はその間を結ぶルートであり、その地図があることで、チームは迷わず進むことができる。
本質的には、ビジョンとは感情を揺さぶる物語であり、戦略はその物語を現実化する構造である。どちらか一方だけでは、チームや組織は動かない。両者が一体となることで、初めて「納得」と「共鳴」が揃い、事業は動き出す。だからこそ、グランドデザインという概念で両者を統合しなければならない。
熱と構造の両輪が、未来を駆動する
ビジョンがなければ戦略は空回りする。
戦略がなければビジョンは絵空事に終わる。
そして、ビジョンは「熱」、戦略は「構造」である。
熱があるから人が動く。
構造があるから迷わない。
その両者がそろったとき、新規事業は初めて、誰も見たことのない景色へと進み始める。
描け、まだ見ぬ未来を。構築せよ、その未来へのルートを。語れ、胸が熱くなるビジョンを。設計せよ、組織を動かす筋書きを。
あなたの言葉が、あなたの構想が、組織の未来を形づくっていく。それが“戦略なきビジョン”でも“ビジョンなき戦略”でもない、真のグランドデザインである。
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