Q. 新規事業に取り組むことになりましたが、
まだ手探り状態で、
何から手をつけていいのか分かりません。
具体的な行動ステップや、
準備段階で意識すべき考え方など、
初心者としての「最初の一歩」を教えてください。
✔︎ 新規事業は「型」から始めよう
✔︎ 「準備」が甘いと、どんなアイデアも立ち上がらない
✔︎ 最初にやるべきは「仮の地図」を描いて行動の起点をつくること
「新規事業=自由」ではなく、「不確実性との戦い」だと理解せよ
新規事業と聞くと、多くの人は「自由にアイデアを出して、ワクワクしながら新しいことを始められる」というイメージを抱く。そうやって上司から指示を受けている人もそれなりにいるだろう。
しかし現実は違う。新規事業は「既存の枠組みを超えなければならない」という意味で、自由どころか極度の不確実性の中を進まなければならない試行錯誤の連続なのだ。
既存事業は「予測→計画→実行」の世界だが、新規事業は「妄想→行動→戦略(再定義)」を繰り返す世界。予測できない未来に向けて、一歩一歩、自分で地図を描きながら進まなければならない。
だからこそまず必要なのは「自由にやるぞ!」というノリではなく、「未来は予測できない。だから地図を描こう」という意志だ。新規事業の最初の一歩は「構える」ことではなく、「構え直す」ことなのだ。
アンラーニングとリスキリングからすべてが始まる
多くの人は、既存事業で身につけた成功体験を、新規事業にもそのまま当てはめようとする。しかしそのアプローチこそが、初期フェーズにおける最大の罠である。
必要なのは、「今までの常識を一度、脱ぎ捨てること」だ。つまり、「アンラーニング(学びほぐし)」と「リスキリング(学び直し)」である。
既存事業の常識=「正解がある」「確実に成功する方法がある」「リスクはゼロにする」といった信念をいったん捨て、「不確実な未来に対して、仮説を立てて行動し、失敗しながら学ぶ」という新しい価値観に自分をシフトさせる必要がある。
その転換がなされていないまま「どんなアイデアがいいか?」を考えても、思考の前提がずれているので、ズレたアイデアしか出てこず、ズレた行動を続けてしまうことになる。
「なぜ新規事業をやるのか?」を言語化せよ
最も初歩的かつ本質的な問いは、「なぜ、自社は、いま、新規事業をやるのか?」だ。まずはその最初の問いにしっかりと向き合おう。
この問いは、「経営層がどう考えているか?」を知るためでもあり、また「あなたがどう考えるか?」を問うためにある。会社が明確な方針を示していないのであれば、あなたが定義すればいい。むしろそのくらいの主体性がなければ、新規事業という不確実性の森を進むことは難しい。
自社の中長期戦略や事業ポートフォリオにおける新規事業の役割を自分の言葉で定義し、「これが我が社の次なる挑戦である」と言える構想力を磨いていこう。
後々サービスを提供する際の協力者となるステークホルダーとの対話においても強力な武器となる。
自社の「パーパス」と「ビジョン」を再定義せよ
事業アイデアは空から降ってくるものではない。それは「自社の社会における存在意義(パーパス)」「顧客のあるべき未来像(ビジョン)」といった、大きな文脈から逆算して見出されるものだ。
たとえばライオンという会社は、単に「歯磨き粉の会社」ではない。「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」というパーパスを持つ「習慣づくり屋さん」である。その発想に立てば、「新しい習慣」をテーマにした新規事業のタネが無数に浮かんでくる。
自社は何屋なのか?
その本質的な価値は何なのか?
顧客をどんな未来へ導きたいのか?
この問いへの答えが、アイデア創出の土壌を耕してくれる。
SWOTとエクストリームユーザーで未来を逆算せよ
とはいえ、内省ばかりでは足りない。現実の変化にアンテナを張ることも欠かせない。そこで重要になるのが、SWOT分析とエクストリームユーザー観察である。
まずSWOTでは、自社の強み・弱みだけでなく、未来に訪れるであろう「脅威(Threat)」と「機会(Opportunity)」を大胆に予測する。特に「未来に我が社がディスラプトされるとしたら、それはどんな状況か?」という問いは、自社の変革可能性を見極めるうえで極めて重要だ。
さらに、すでに未来を先取りして生きているエクストリームユーザーの行動を観察する。たとえば歯をまったく磨かない人、逆に7種類の歯磨き粉を使い分ける人。その両極端の行動にこそ、未来の兆しが潜んでいる。
最初の1歩は「地図を描くこと」。そこからすべてが始まる
結局のところ、最初の一歩とは「仮の地図を描くこと」である。
この地図は正しくなくていい。むしろ、最初は間違っている前提でよい。重要なのは、地図があるからこそ次の行動が決まり、行動するからこそ軌道修正できるという点にある。
その意味で、新規事業とは「妄想→行動→戦略(再定義)」の連続であり、完成されたプランではなく、成長し続けるグランドデザインこそが羅針盤となる。
さあ、まずは“描く”ことから始めよう。新規事業は、ワクワクしながら未来を構想するところから始まるのだから。
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