Q. イノベーションにおいて「人間性」は
どこまで重視すべきなのか?
適性やスキルよりも、
結局“人”がものを言う気がするけれど、
「心」や「情」のような感情論は
どこまで信じていいのか。
✔︎ イノベーションは“心の火”から始まる。理論と同じくらい、情熱と共感が駆動力。
✔︎ チームビルドは適性よりも「伸び代」に賭ける。「人間性」は育つし、育てられる。
✔︎ 「感情論」は軽視されがちだが、実は“意志”こそが不確実性に立ち向かう力になる。
「人間性」とは、スキルよりも強い推進力
イノベーションにおいて、最も重要なのは「確実な未来を実現すること」ではなく、「誰も見たことのない未来を創造すること」である。これは「あるべき理想の未来を描き、そこに近づける」営みだ。その出発点は、スキルやロジックではなく、「信じる心」や「実現したい衝動」に宿る。
特に初期フェーズでは、ロジックが通らないことが多い。市場も未成熟、顧客も未定義、プロダクトも未完成。そんな不確実な状況下で、唯一の拠り所になるのは「この事業をやり切りたい」という意志だ。その意志は、“人間性”から生まれる。
また、初期の仲間づくりも同様である。専門スキルがあっても情熱がない人より、不器用でも諦めない人のほうが、結局チームを引っ張ってくれる。だからこそ、人材を見るときに「情熱の火種があるか?」を必ず確認することは不可欠だ。
「心の成熟」は育てられる。組織が鍛えるべきは“意志力”
「人間性は後から育つのか?」という問いに、はっきり「YES」と答える。なぜなら、“心の成熟”とは、環境と経験によって育まれるものだからだ。
イノベーションに必要なマインドセットには「素直さ」「巻き込み力」「既成概念を壊す勇気」などがある。これらはすべて“スキル”ではなく、“姿勢”の問題であり、訓練と支援によって育てることができる。
そのためには、組織の側にも責任がある。情熱を育てる土壌が必要であり、挑戦と失敗を肯定する風土が不可欠だ。情熱は内発的なものだが、それを表現し続けられる環境は外発的にデザインされるべきなのだ。
チームビルドには「適性」よりも「覚悟と成長性」
チームを組成する場面では、当然スキルや適性のマッチングも重要だ。しかし、初期のチームならば、「今のスキル」よりも「未来の伸び代」に賭けた方が良い。なぜなら、事業も人も、変化し続けるからだ。
むしろイノベーションでは、「未経験の荒野に飛び込む勇気」と「何があってもやり切る執念」を持つ人材こそが最も価値を持つ。スキルは補えるし、努力で伸ばすことができるが、覚悟は努力で手に入れるものではなく、代替できない。
チームビルドの本質は「共に未来を信じ合える関係性」を築くことにある。その関係性の中で、人は磨かれ、成長し、やがて事業を引っ張る存在になる。
「感情論」は、イノベーションの羅針盤になりうる
ロジックと感情を二項対立に捉えるのは、そもそも誤解だ。イノベーションにおいては、むしろ「感情」こそが方向を定め、「論理」がそれを補完する役割を果たす。古くは「浪漫」と「そろばん」という言い方もした。
不確実性の高い状況では、「何が正しいか」よりも「何を信じたいか」の方が重要になる。そしてその“信じる力”を裏打ちするのが、「心の動き」や「共感」なのだ。
感情論は確かに扱いが難しい。しかし、丁寧に言語化し、ストーリーとして昇華することで、チームの指針にも、投資家への説得力にもなる。それが「パーパスデザイン」であり、「情熱を設計する力」なのだ。
“人”に賭ける。それがイノベーション
最終的に成功に至の鍵を握るのはいつも“人”だ。ロジックで磨かれた事業も、人の熱量がなければ続かない。逆に、論理が破綻していても、情熱があれば突破できる局面は多い。
イノベーションは不確実性との闘いだ。その闘いを乗り越える武器は、理論ではなく、意志と情熱と執念だ
だからこそ、あなたが「この人とやりたい」と思ったなら、その直感を大切にしてほしい。そして、自分自身の中にある「何としてもやり切りたい」という感情を、誰よりも信じ抜いてほしい。
それが、誰も見たことのない未来を創る最初の一歩になるのだから。
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