Q. ビジネスコンテストを終えて、
参加者も事務局も「いい取り組みだった」と
手応えはありますが、具体的に事業化されたものはゼロ。
これって、意味があったと言えるのでしょうか?
✔︎ コンテストの“満足感”と“成果”はまったく別物
✔︎ 本来問うべきは、「何が生まれたか」ではなく「何が生まれるべきだったか」
✔︎ 成果定義のない取り組みは、努力の積み上げに見えて、実は空転している
“やりきった感”に潜む危うさ
ビジネスコンテストが無事に終わると、どうしても「やりきった」という満足感に包まれる。それは当然のことだし、現場を支えたメンバーの努力に水を差すつもりもない。
しかし、新規事業の文脈においては、「やったこと」自体には価値はない。価値があるのは、「何を生み出したか」「どこまで動かしたか」である。
この構造的な認識のズレを放置したままでは、毎年同じ“満足感”を味わうだけで、組織の未来には何も積み上がらない。これはまさに“自転車操業”のようなものであり、走り続けてもどこにも辿り着けない危うさを孕んでいる。
成果定義なき“善意の企画”が組織を弱体化させる
「参加者の学びになったからOK」「社内にイノベーションの空気を作れたから意味があった」──このような言葉は、決して間違いではない。
だが、それを成果と呼ぶなら、その“成果”は最初から合意されていたのか?「何を生み出すことが目的か」を合意せずに取り組んだビジネスコンテストは、どこにも辿り着かない。
むしろ、成果を曖昧なままにすることが、次年度以降の判断を鈍らせ、取り組みの“常態化”を招いてしまう。やがて、「毎年やることに意味がある」という自己目的化が進み、変化を拒む惰性のサイクルに陥る。
成果の定義は“数値”でなくてもよい、だが“問い”は必須
誤解してほしくないのは、「必ず売上を立てろ」「KPIを数字で定めろ」と言っているわけではない。新規事業の初期フェーズでは、数値だけで判断できないことも多く、数値だけで判断しない方が良い側面もある。
それでも、「このビジネスコンテストを通じて、何を問い、何を言語化し、何を可視化したいのか」という“問いの構造”は必要である。問いがなければ、振り返る基準も見つからない。
たとえば、「自社の強みと弱みがどう現れるのかを見極める」「リーダー候補の思考回路を可視化する」「事業部との摩擦ポイントを把握する」など、成果の定義は問いとして表現できる。それは、数値ではなく“組織の変化の兆し”をとらえるものだ。
成果の定義があるからこそ、検証と改善ができる
ビジネスコンテストの取り組みが一過性の“ごっこ遊び”で終わるか、それとも“成長する仕組み”に育つか。その分岐点は、成果の定義の有無にある。
定義された問いがあるからこそ、検証ができる。どの問いに答えられたか、どの仮説が崩れたか、どんな前提がズレていたか──この検証の積み重ねが、次の設計を進化させる。
そして何より、成果を検証することで、関係者の学びも飛躍的に深まる。言語化された成果は、他部門にも共有でき、組織知としての蓄積が始まる。それがビジネスコンテストを“文化”に昇華させる鍵となる。
意味づけの後出しではなく、成果の定義の先出しを
「意味があったかどうか」は、終わった後に決めるものではない。始める前に定義し、途中で問い直し、終わった後に検証するものだ。
“意味づけの後出し”は自己満足にしかならない。成果を出す組織は、あらかじめ“何が生まれるべきか”を定めてから走り出す。
その設計思想があるかどうか。それが、取り組みを“ごっこ遊び”で終わらせるか、“複利の資産”に育てるかの分岐点になる。そして何より、その問いの存在こそが、次なるチャレンジへの土壌となる。
ビジネスコンテストとは、ただのイベントではない。未来の布石であり、組織の問いを炙り出すレンズである。その本質を問い直すことが、次なる成果への第一歩となる。
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