Q. 「鶏と卵」の課題に直面しています。
例えばサプライヤーと顧客を繋げる
マッチングサービスのPoCを行う際に、
サプライヤーと顧客のどちらへの検証を
優先的にするべきでしょうか。
お金を頂くのはサプライヤー側を想定しているので
先ずはサプライヤー側と考えましたが、
顧客が集まらないとサプライヤー側へ
正しい検証もできないのではと考えています。
✔︎ 「誰にとっての価値か」を起点に、まず顧客を見極めよ
✔︎ 「PoCの定義」によって、検証優先の対象は変わる
✔︎ ソリューション思考を疑え、インサイト起点で再設計せよ
PoCの目的を明確にせよ:「誰にとって何を証明したいのか?」
PoC(Proof of Concept)で検証するのは、「プロダクトの完成度を試す」ことではなく、「このコンセプトは有効か?」を証明するフェーズである。つまり、まず実証すべきは「マッチングという提供手段が、顧客の課題を本当に解決するのか?」である。お金を払うのがサプライヤーだからといって、先にサプライヤーに行くのは順番が逆だ。B向けでもC向けでも、「最終的に価値を受け取るエンドユーザー(最終消費者、最終受益者)」が起点であるべきだ。
エンドユーザーがそのサービスを必要としているか、他にどんな代替手段で解決しているか。彼らの現在の行動パターンを理解しないまま、サプライヤーの巻き込みを進めても、そのPoCは「的外れなコンセプト」を磨いている可能性が高い。
PoCで重要なのは「構想の検証」であり、「構築の精度」ではない。この違いを理解せずにPoCを進めると、後で大きなピボットを強いられる。
「エンドユーザー→供給者」の順序が鉄則:インサイト起点で価値検証を始めよ
BtoBtoCのような両面市場においては、「どちらを先に巻き込むべきか」で悩むのは当然のこと。しかし、答えは明確。「価値が立ち上がる順」である。
仮にあなたが顧客側のインサイトを十分に掴めておらず、需要の確からしさが不明であるならば、供給者(サプライヤー)への訴求材料が揃わない。逆に、「こんな顧客が、こういう困りごとを抱えていて、既存の手段ではこれこれこういう不便を感じている」と確信を持って語れるなら、供給者はその顧客にアクセスするメリットを感じる。
つまり、「顧客の解像度が、供給者の意思決定に直結する」のだ。先に顧客理解を深めよ。それが優先順序を決める確固たる理由である。
ソリューション・ロックに注意せよ:マッチングサービス前提を疑う
PoC初期で特に危険なのは、「マッチングサービスありき」で物事を設計してしまうこと。これは典型的な「ソリューション・ロック」だ。マッチングが有効だという前提で進めてしまうと、「それ以外の可能性」を潰してしまう。
エンドユーザーが実際に何に困っていて、どのようなタイミングで、どんな手段を選んでいるのか。デプス・インタビューを行い、カスタマー・ジャーニーマップ、ユーザーシナリオ、ジョブストーリーを整理し、まずはエンドユーザーの「意思決定」の構造を紐解くべきである。そこからインサイトを引き出し、適切なソリューションを推定する。
「マッチングサービス」というのは手段にすぎない。本質は、「供給と需要の断絶をどう埋めるか」。そこに至る最適な経路が何なのかは、インサイトによって決めるべきだ。
PoC=MVPの意味なら、両面検証が必要になる
一方で、あなたの言う「PoC」が、実際には「MVP(Minimum Viable Product)での仮説検証」を意味しているなら話は別だ。この段階では、「プロダクトが最低限機能するかどうか」「両者が実際に動くかどうか」を見る必要があるため、顧客とサプライヤーを同時に巻き込む必要がある。
だがこのときも、前提となるのは「顧客側に確実なニーズがある」という信念であるべきだ。その信念のもとに、「だからこのPoCで成立するはずだ」と自信を持ってサプライヤーに声をかけられる。
つまりPoC≠MVPなら「顧客から先」、PoC=MVPなら「両方を同時に」——この判断軸を持とう。
N=1の確信がPoCの道を照らす:まずはたった一人の顧客に深く向き合え
ツー・サイド・プラットフォームのジレンマを解く鍵は、N=1の確信にある。自分たちが価値提供できる「たったひとりの顧客」を見つけ、その顧客の生活を深く解像し、「この人にとってこのサービスが救いになる」と言い切れる状態をつくる。
その確信を持って、類似顧客を増やす計画を立てれば、供給側の納得も得られる。N=1は全体の起点であり、PoCの進行方向を照らす灯台である。
PoC初期に鶏と卵の罠に陥ったなら、「どちらが大事か?」ではなく、「どちらが先か?」で考える。そしてその順序を決めるのは、常に顧客の解像度と確信の有無だ。迷ったら、まず顧客に深く向き合おう。それが未来の供給者を惹きつける最短ルートである。
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