Q. 座組やビジネスモデルをどう組めば良いのか、
判断の出発点がいつも曖昧で、
自信が持てません。
そもそも、どこから考えるべきなのでしょうか?
✔︎ ビジネスモデルは「届けたい変化」から逆算して設計する
✔︎ 良い座組とは、「実現に必要な力」を最小の摩擦で束ねた状態
✔︎ 「構造の完成度」ではなく、「変化の実現性」で評価せよ
ビジネスモデルは「変化」から逆算せよ
多くの人が、ビジネスモデルを“枠組み”として捉えてしまっている。ビジネスモデルを構造として捉えすぎると、スキームを埋めることが目的になってしまう。そして、「どう収益化するか」「どうマネタイズするか」から入ってしまい、目の前の制度や業界構造に縛られる。
だが、本来のイノベーションの出発点は「誰に、どんな変化を起こすか?」である。変化がなければ、顧客はお金を払ってくれない。加えて、重要なのは「誰が、どんな価値を生み出し、誰がそれを享受し、対価として何が返ってくるか」という「価値の流れ」を言語化することだ。
まず定義すべきは「提供価値の発生点」だ。その変化を起こすために、自社だけでは足りないリソースは何か? 誰と組めばそのギャップを埋められるか?
その上で、その後の「価値の流れ」に対して、座組を検討する。なぜこの人と組むのか、なぜこのステップが必要なのか──すべては「価値を動かす」ための設計として整理されていく。
座組の良し悪しは「力の束ね方」で決まる
良い座組とは、構造が美しいものではない。それは、届けたい変化に対して「必要な力が、最小の摩擦で束ねられている状態」である。つまり、「実現に必要なアセットが、誰のどの役割として担保されているか」が明快かつ合理的かどうかが重要だ。
たとえば、ユーザー獲得のために地場ネットワークが必要なのであれば、信頼ある地域事業者と組む選択が現実解になる。または、技術的優位性を実装するために特定領域の研究機関と組むべきなら、その関係性が初期から設計に組み込まれているかを見極める。
座組を考えるとき、よくある落とし穴が「綺麗な三者連携」や「ステークホルダーの網羅性」に満足してしまうことだ。だが、どれだけステークホルダーを集めたとしても、「誰が、何の力を、どのように提供し合っているのか」が機能的に整理されていなければ、ただの名ばかりアライアンスで終わってしまう。
構造の「完成度」ではなく、「変化の実現性」そして「提供価値の増幅」で座組を評価する。理想的なビジネスモデルとは、関係者が“同じ未来”を描き、その未来に向かって各自の役割を果たせる構造である。共通の意志がなければ、座組は動かない。
仮説検証の焦点は「構造」ではなく「接続点」
座組を考えるときに、必要なのは「すべてを決めること」ではなく、「接続点を確認すること」だ。つまり、「誰と、どの段階で、何を共創できるか?」を見極めるために、小さく検証を始める。
たとえば、共創候補の事業者とともにミニPoCを実施してみる。ユーザーインタビューに一緒に同席してもらう。提案資料のたたきを一緒に作ってみる──このような小さな“接続”の中で、「共通の解釈が成立するか」「未来への熱量が共有できるか」を観察していく。
ゼロから考えるな、「徹底的にパクれ」
ビジネスモデルは、提供価値の発生点にしても、価値の流れにしても、ゼロから生み出す必要はない。“他から持ってくる”発想で良い。「X for Y(XのY版)」──すなわち「Uber for ペット」「Airbnb for オフィス」など、別市場で成功したビジネスモデルを構造として理解し、自分たちの参入領域に転用してみる。この型は非常に有効である。
「TTP(徹底的にパクる)」。ただし、そのまま真似するだけでは限界がある。そこから「TTPS(徹底的にパクって進化させる)」思考が求められる。モデルをトレースすることで“構造”を理解し、自社の価値仮説や顧客構造にあわせて最適化・再構築していくのだ。
ベンチマークすべきは成功事例のアイデアそのものではなく、その背後にあるロジック、収益ポイント、価値の流れ、価値の循環である。多くの先行事例を“構造レベル”でパクり倒し、そこに自分たちならではの変数を掛け合わせる。その積み重ねが、新しいビジネスモデルの核をつくる。
ビジネスモデルの完成度よりも、「問い」と「価値」から始めよう
結局のところ、ビジネスモデルは“手段”でしかない。価値を届けるために、どういう構造にすれば顧客が喜び、社会が動き、利益が生まれるか。その構造を生むために必要なのは、「そもそも誰に、何を届けたいのか?」という問いの強度である。
手段は後からいくらでも洗練できる。だが、問いの弱さは、どれだけ洗練された構造を持ってしてもカバーできない。だからこそ、まず届けたい変化を描こう。そしてその変化を起こすために、どんな構造・どんな仲間・どんな手段が必要なのか──そこから逆算して考えよう。
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