Q. 新たな価値を生み出そうとする時、
自社が持つケイパビリティと
どうマッチさせていくのがよいのでしょうか?
✔︎ 提供すべき価値は「顧客(候補)の変化」から逆算して定義する
✔︎ ケイパビリティは“活かす”のではなく、“問い直し・転用”するもの
✔︎ 「まず価値の仮説を描き、あとから接続する」のが正しい順序
新価値創出は「顧客(候補)の変化」から始まる
新しい価値をつくるというと、どうしても「自分たちに何ができるか?」から考えてしまいがちだ。特に昨今エフェクチュエーションがバズワードになっていることもあり、「手中の鳥」の原則からそうすべきという間違った言説も一部で流布されている。
だが、イノベーションの本来の出発点はそこにはない。問いは常に「誰の、どんな変化を起こしたいのか?」から始まるべきだ。提供すべき価値とは、“顧客にとっての望ましい変化”であり、それが実現された時に「お金を払ってでも得たい」と感じるものになる。つまり、「顧客(候補)が変わる」ことが価値なのだ。
だからこそ、まず定義すべきは“変化”である。その変化を誰に起こすのか? その変化はなぜ必要なのか? それを明確にした上で初めて、「その変化を生む手段として、自分たちのケイパビリティは使えるか?」と逆算して考えることが重要である。
ケイパビリティは“起点”ではなく“媒介”である
多くの企業では、「せっかく保有している技術や資産を活かしたい」という発想から事業開発がスタートすることが多い。それ自体が間違っているわけではない。しかし、それが「ケイパビリティ起点のプロダクトアウト」に陥ってしまうことが問題なのだ。
ケイパビリティは、事業アイデアを考える起点ではなく、“価値実現のための媒介”として捉えるべきだ。たとえば「ある顧客行動を変えたい」「ある社会課題を解決したい」という意志が先にあり、そのための手段として技術・人材・アセットを活用する。そういう順序で発想を整理し直す必要がある。
重要なのは、「この技術をどう活かすか?」ではなく、「この変化を起こすために、どんな資源が活用可能か?」と捉えること。その発想転換が、意味のある事業を生む起点になる。
「ケイパビリティ起点のアイデア創出」であっても良い。しかし一度それを「誰のために、どんな変化を起こすのか」ということを捉え直した上で、その手段としてそのケイパビリティが正しい手段なのかを問い直すことが必要だ。仮にケイパビリティが最適な手段でないのであれば、手段を変えるか、アイデア・コンセプトを変えるかのピボットしなければならない。
ケイパビリティは“そのまま”では使えない
自社が持つケイパビリティは、既存のビジネスモデルの中で最適化されてきたものだ。ゆえに、新たな事業にそのまま転用しようとしても、多くの場合はフィットしない。むしろ、“捨てる覚悟”や“つくり直す勇気”が求められる。
たとえば、自動車会社が持つ“安全性の設計技術”は、高齢者の転倒防止ウェアに応用できるかもしれない。だがそのためには、材料選定からユーザーインタフェースまでをゼロから考え直さなければならない。つまり、「ケイパビリティを変化させる力」こそが新規事業には必要なのだ。
だからこそ、問いはこうあるべきだ──「この変化を実現するために、自社の何を“転用”できるか?」。
最初に“価値の仮説”を描き、あとからケイパビリティを照らす
価値創出において最もやってはいけないのは、「できることの棚卸しから始める」ことだ。そこから出てくるのは、既存事業の焼き直しや、スケールしない小粒なサービスばかりになってしまう。エフェクチュエーションは、あくまで起業家の行動様式であって、社内新規事業にそのまま当てはめてしまうと、矮小な事業アイデアしか出てこないことに留意しなければならない。
「この変化が社会に必要である」「この未来が来るべきである」「顧客(候補)にとってのあるべき未来の姿はこれである」という確信に基づいた価値の仮説を描くことが先決だ。その仮説を描いた上で、自社のケイパビリティと接続点があるかを検討する。
もし仮にそこに接続点がないことがわかったとしても、その未来を創ることが我が社にとって、何より顧客にとって必要なものなのであれば、そのケイパビリティは他から持ってくれば良い。そう、誰かと組めばいいのだ。価値の仮説さえ魅力的であれば、社外パートナーや技術提供者は見つかる。
オープン・イノベーションという薄っぺらい言葉を使って、アクセラレーター・プログラムのような薄っぺらい仕組みに頼っていては、真の価値創造につながる共創はできない。未来に対して覚悟と意志をもって価値を描ききった人にしか、真の共創は起こせないのだ。
「自分たちのアセットをどう活かすか?」という問いに立たない
最後にもう一度強調したいのは、価値創出とは「活かす」発想からではなく、「問い直す」発想から始まるということだ。自社の強みやアセットは、それを問い直し、使い方を変えたときに初めて可能性が開く。「この資産を守りながら、新しいことをやりたい」という発想では、新規事業は決して生まれないのだ。
未来にとって必要な変化とは何か? その変化の実現に、自分たちがどう貢献できるか? その問いを原点にすることで、ケイパビリティは“守るべき資源”から“未来をつくる武器”へと変わっていく。
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