Q. アイデアはカタチだけではなく
実行が全てだという言説を聞きます。
しかし初心者にとっては、
アイデアを出す意欲をくじかないことも
大切なように思えます。
どのように考えれば良いでしょうか?
✔︎ アイデア単体には価値はないが、“発想の火種”としては重要
✔︎ 初心者には「アイデアを出す行為」自体を肯定することが先
✔︎ 否定ではなく、「育て方」を教えることが次への成長につながる
アイデア単体の価値は低い。しかし火種としては重要
経験を積んだ人なら、「アイデア単体には大した価値がない」という現実を理解しているだろう。実際、世の中に存在するほぼすべてのアイデアは、すでに誰かが思いついているものだ。
「アイデアを出したか」ではなく、「どう育て、どう現実に落とし込んだか」である。アイデア単体には価値があるのではなく、そこから未来を創ろうとする行為に価値があるのだ。
ただし、それはアイデア自体が無意味だということではない。アイデアは、発想の火種であり、挑戦のきっかけだ。
初心者にとっては、まず「アイデアを生み出す」「アイデアにワクワクする」という感覚こそが、次の行動への原動力になる。だから、最初からアイデアを軽視してしまうと、せっかく芽生えた探究心や創造意欲の火を消してしまいかねない。
初心者に必要なのは「否定」ではなく「拡張」である
初心者が出すアイデアに対して、「それは無価値だ」と冷たく斬り捨てるのは最悪の対応だ。発想の芽は、最初はどんなに小さくても、育て方次第で大きな可能性を持つ。可能性でいえば、どんなアイデアも可能性はゼロではないのだ。
重要なのは、アイデアの是非をジャッジすることではない。そのアイデアを起点に、「さらにどう広げられるか」「どんな背景がありうるか」を一緒に考えていく姿勢だ。
「いいね、それをもっと深掘りするとしたら?」「もしその世界が本当にあったら、何が変わると思う?」──そうした問いかけによって、アイデアは初めて意味のある構想へと成長していく。
アイデアを肯定することは、思考停止を促すことではない。むしろ「拡張する力」を育てる起点だ。だから、初心者に対しては「面白い、その先を一緒に考えよう」というスタンスが重要になる。
「アイデアの種まき」と「アイデアの育成」は別のフェーズ
アイデア出しとアイデアの実行可能性の検証は、本来まったく違うフェーズに位置する。最初から「実現性はあるのか?」というフィルターをかけると、ほとんどの発想は芽吹く前に摘み取られてしまう。
だからこそ、最初は量を出す。質は後から磨けばいい。初心者には「出してもいいんだ」「たくさん出す中に必ず光るものがある」という感覚を持たせることが先決だ。そのうえで、十分に種をまいた後、次のフェーズで「選別と育成」を始める。つまり、「発想を肯定するフェーズ」と「現実に向けて磨き込むフェーズ」を、意図的に分けることが重要になる。
「今は種まきだから、まずは自由にやろう」「この後、育てるときに厳しく見るからね」と最初に合意しておくと、双方にストレスが少ない。
「アイデアを否定しない」と「甘やかす」は違う
注意すべきは、「アイデアを否定しない」ことと、「何でもOKにする」ことは全く違うということだ。全肯定してしまえば、成長機会を奪う。甘やかすのではなく、あくまで「問いを返す」ことで思考を促す。
たとえば、アイデアに対して「そのアイデアはどんな顧客行動に基づいてる?」「その未来が本当に来るとしたら、何がボトルネックになると思う?」と問い返すことで、発想を深めさせる。初心者には、否定ではなく問いによるフィードバックが最適だ。
このプロセスによって、彼らは自然と「アイデアの育て方」を学び、次第に“発想から仮説設計”へと成長していく。
最終的には「育てきる力」が問われる
もちろん、最終的には「アイデアを育てきる力」が必要だ。新規事業の世界では、99%のアイデアが実現しない。だが、実現できた1%でさえも、最初から完璧な発想だったわけではない。未熟なアイデアを、どれだけしつこく磨き、検証し、形にできるか。
だから初心者にも、最終的には「アイデアの責任者として、育てきる覚悟」を求めるべきだ。ただしそれは、「最初から優れたアイデアを出せ」という意味ではない。「最初は粗くてもいい、でも育てる努力を惜しまないで」というメッセージであるべきだ。
アイデアの価値は、発想時点ではゼロかもしれない。しかし、行動と情熱によって育て上げれば、それは世界を変える種になる。その成長プロセスを支援することこそが、初心者支援の本質だ。
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