Q. 上層部は「新規事業は大事だ」と言うけど、
なかなか本気で動いてくれません。
どうすれば、会社を本気にさせられるのでしょうか?
✔︎ 「大事だ」と言わせることと、「本気に動かす」ことは別物である
✔︎ 組織を本気にさせるのは、資料でも正論でもなく“火のついた行動”
✔︎ 小さな成功を見せ、共犯者を増やすことで、会社は本気になる
組織が本気にならないのは、構造上の“正常反応”
まず知っておくべきは、「組織が新規事業に本気にならない」のは、意志の弱さでも怠慢でもないということ。むしろ、それは既存組織が正常に機能している証拠だ。
既存事業は、未来がある程度予測可能であることを前提に成り立っている。だからこそ計画を立て、計画通りに遂行するためにKPIを細分化し、それに応じて組織が縦割りに最適化されている。その設計思想は「再現性のある効率的な成果」を出すためのものだ。
しかしこの構造は、新規事業にとってはむしろ足枷になる。変化を前提に試行錯誤を重ねるゼロイチの挑戦にとっては、“予測と再現の思考”はかみ合わない。良い悪いではなく、適切性の問題なのだ。
組織を動かす力は「熱量×確信×現実解」
そんな既存組織を“動かす力”とは何か。それは、正論や資料ではなく、熱量×確信×現実解の掛け算だ。
「熱量」とは、そのテーマに誰よりも惚れ込んでいること。社内でその領域における“専門家”として認知されるほど、情報を広く深く知っていることが重要だ。どんな質問にも即答できるか、上層部の問いに「分かりません」とならないか。一次情報を持つ人との信頼関係があり、「彼が協力してくれると言っている」と言えるか──それらの積み上げが、熱量の証明になる。
「確信」とは、一次情報と現場体験によって裏打ちされた「これはいける」という根拠のこと。主観的な熱ではなく、誰が聞いても筋が通っていると納得できるレベルで、ストーリーテリングできているかどうか。
「現実解」とは、どうやってスモールスタートし、リスクを最小化しながら成果を出せるかという道筋を描けているか。最短距離で“小さな成功”を生み出し、「止められない状態」を早期に作れるかがポイントだ。
この3つが揃ったとき、組織は“否応なく”動き出す。
「任せてもいい」と思わせた瞬間に、風向きは変わる
経営者にとって最大の関心は、「そのアイデアが正しいか」ではなく、「その人に任せても大丈夫か」であることを前提として理解すべきだ。
だからこそ必要なのは、“実行してきた実績”なのだ。戦略資料でも、スライドの完成度でもなく、インタビューした人数、顧客からのフィードバック、紙芝居で見せたプロトタイプ──そうした「手を動かした証拠」が、“任せてもいい人”という信頼をつくる。
「想定質問リスト」を準備し、どんな角度からの問いにも答えられるようにしておく。「それ、考えてませんでした」とならないように、自分の問いと仮説で壁打ちし続ける。熱量と確信が「現実味」を持ったとき、上層部の態度は一変する。
本気にさせたいなら、まずは“小さな共犯者”を作れ
いきなり経営層を動かそうとしても、現実的にはハードルが高い。まずすべきは、社内に1人でも共犯者をつくることが鍵となる。
となりの部署の理解者、過去に似た挑戦をしたミドルマネージャー、少しだけ時間を融通できる若手──そうした味方と一緒に、スモールな検証を走らせる。それが社内で共有され、「成果の兆し」が伝わることで、空気が少しずつ変わっていく。
結果が出れば上層部は反応する。「社内でここまで動いてるんだ」と気づいたとき、経営者は“機会損失の恐怖”に駆られて動き出す。会社は論理ではなく、空気と勢いで動く。だからこそ、最初の火は“あなたと1人の共犯者”からしか生まれないのだ。
本気の火は、「止められなくなる」仕掛けから生まれる
最後に、動かすために最も効果的なのは、“もう止められない”という状況をつくることだ。
PoCでユーザーが感動した。部内に協力者が増え、週次で定例が回っている。事業部からの相談が来始めた──そうなると、止める理由のほうが難しくなっていく。つまり、会社の構造が「止めない理由」を抱える状態をつくることが最短の攻略ルートとなる。
そのためにも、行動のスピードと熱量の維持が鍵だ。“火を灯す”ことはできても、“火を消させない”状態をつくれるか。そこに、起案者としての腕が問われている。
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