Q. 顧客に「なぜ買わないのか?」と聞いても、
本音が出てこないことが多いです。
そもそも買わない理由を聞くことに
意味はあるのでしょうか?
✔︎ 本音の「買わない理由」は、本人ですら自覚していない
✔︎ 問うべきは「なぜ買わないか」ではなく「なぜ買いたくならなかったか」
✔︎ “未購入”の中にこそ、最大の価値創出のヒントが眠っている
買わない理由は、答えてもらえないのではなく、そもそも本人も分かっていない
顧客に「なぜ購入しなかったんですか?」と尋ねると、「価格が高かった」「必要性を感じなかった」「忙しくて検討できなかった」といった“もっともらしい”答えが返ってくる。でも、それは真実ではない。あるいは、真実の一部にすぎない。
人は往々にして、自分の行動の理由を正確に説明できない。「なんとなく」「今じゃない気がした」──この“なんとなく”の背後にこそ、本当のインサイトが眠っている。にもかかわらず、その深層心理にアクセスせずに表層的な理由を集めても、意味のある打ち手には繋がらない。
つまり、「なぜ買わなかったか?」という問いは、本質に迫るには不十分な設計なのだ。
問うべきは「なぜ買いたくならなかったのか?」
重要なのは、「なぜ買わなかったか」ではない。「なぜ買いたくならなかったか」である。この違いは決定的だ。
人は何かを“比較”して買うのではなく、“期待”して買う。「欲しい」と感じた瞬間にスイッチが入る。「心が動く体験」を提供できていたのか。そこに感情のスパークはあったのか。買わなかった理由より、「買うに至るスイッチが存在しなかった理由」に目を向けることが、新しい価値のヒントになる。
これは決して言葉尻の問題ではない。問いの設計が変われば、観察の焦点が変わり、行動が変わる。インタビューで得るべきなのは“ロジック”ではなく、“兆し”なのだ。
本当のインサイトは「想像の不一致」の中に宿る
面白いのは、買わない顧客の“感情の動かなさ”にこそ、強い違和感が宿ることだ。「使ってみようとも思わなかった」「見る気すら起きなかった」「なんかピンと来なかった」──そこに、届け方、メッセージ、体験設計のどこかに欠落がある証拠が隠れている。
たとえば、「このサービス、いいと思うけど、自分には関係ないかな」という言葉の裏側には、「“自分ごと”にできる言葉で伝えられていなかった」「使うシーンが想像できなかった」という“想像の不一致”がある。
その“不一致”を可視化し、顧客の想像と提供価値を“一致”させる──そこにこそが本当の価値創造である。
有償PoCは「買わなかった理由」を越える問いの装置になる
真に理解したいのは「言語化された否定理由」ではない。むしろ、買わなかった顧客に「お金を払ってでも使いたくなる瞬間はどこにあるのか?」という未来への問いを投げかけることが重要だ。
だがしかし、もちろんその質問を投げかけるだけでは、答えを得ることはできない。顧客は過去から現在を語ることはできても、未来のことを語ることはできないからだ。
だからこそ、有償PoCは極めて重要な実験となる。価格をつけたとたんに、顧客は真剣になる。無料であれば「まあいいか」で済ませていたことが、有償になることで「なぜそれに価値があるのか?」という本気の自己との対話が始まる。
価格は、顧客の無意識を引き出すスイッチだ。「なぜ払えないのか?」ではなく、「どの瞬間に払ってもいいと思えるか?」を探ることが、次の答えに繋がっていく。
買わない顧客は、未来の顧客かもしれない
最初に買わなかった人が、ある瞬間に買うようになることがある。タイミングが違っただけ。文脈が届かなかっただけ。あるいは、価値を解釈し損ねていただけ。
つまり、「買わない人を切り捨てる」のではなく、「買わない人の内側にある“未だ言語化されていない期待”にアクセスする」ことが重要なのだ。
アイデアの正しさは、購入率の高さではなく、心が動く瞬間をどれだけ設計できるかで決まる。「買わない理由」に囚われず、「なぜ心が動かなかったのか」という問いを軸にしよう。そこに、新しい道が必ずある。
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