【新規事業一問一答】検証結果に決裁者が納得して判断するには?

Q. PoCやMVPなどの検証結果に
決裁者が納得して
新規事業を開始する判断を行うポイントは?

✔︎ 論理だけでは動かない。必要なのは「確信」と「ストーリー」
✔︎ PoCの目的は、証明ではなく“インサイトと確信”を獲得すること
✔︎ 決裁者が判断するのは、結果ではなく「この人に任せたい」と思えるかどうか


決裁者は「論理型」である。しかし、それでは新規事業は動かない

大企業の決裁者の多くは、既存事業で成果を残してきた、ベストプラクティスを知る「賢者型」である。マーケットが理解可能という前提のロジックで動いており、過去に得られた経験と経験で経営を実行しているため、「論理型」となる。

また、こうした縦割り構造を有する組織体制においては、部門間の交渉や利益配分を見守ることも判断に大きく影響するため、「政治型」の要素も含まれることが多い。

しかし新規事業は違う。未知の視点に向き合い、未来を見通し、動きながら視野を揮うしかない。既存事業のルールでは、そもそも動き出すことすらできない。

結果より「問いと設計」、そして“確信”をどう語るか

PoCの7割は失敗する。MVPも必ずしも通用性のある結果を生み出すわけではない。しかしそれ自体はマイナスではない。

問題は「それが何を問おうとしたのか」「なぜそう設計したのか」「その結果としてどんな確信を得たのか」であり、試行の有効性自体にある。

件数や結果の有無よりも、試行設計の能力、つまり問題設定の合理性と、その試行を通してどんなインサイトを獲得したかを語る力の方が重要である。

語りを動かすのは「データ」ではなく「ストーリー」である

新規事業は未知への挑戦である以上、つまり、決裁とは未知へのコミットである。しかし、既存事業を拡張してきた決裁者は、確実な証拠があることによって為せる「確証」に基づいた意思決定に慣れている。

一方、新規事業において求められるのは「確信」である。それが「確実に信じられる」かどうか。極端にいえば、新規事業にエヴィデンスなんて必要なく、未来を実現することに意志や情熱が持てるかどうかが、特に初期においては重要となる。

この「確信」を伝えるための本質が「ストーリー」であり、これを話せるかどうかが、プロジェクトを前へ動かせるかどうかに大きく寄与する。

インサイトとは、N=1の発見と、それを伝える物語である

PoCやMVPを実施する目的は、成功の証明ではない。“インサイトを発見するための旅”であり、“確信を得るための試行”である。そして、そのインサイトは、定量データからは決して見えてこない。インサイトとは、たった一人の顧客の語った言葉、目の奥に宿った感情、沈黙の中にある痛み、そういったN=1の出来事からしか浮かび上がらない。

だからこそ、PoCの報告には数字よりも、そのN=1にどう向き合ったか、そこから何を受け取ったかを語るべきだ。起案者自身がそれにどれだけ心を動かされたかが、ストーリーの熱量となり、意思決定の引き金となる。誰かの痛みに出会い、それに心を動かされた経験こそが、決裁者の心を動かす起爆剤となる。

信頼される人間かどうか、それもまた意思決定の鍵である

新規事業の意思決定は、未来に対して「やってみよう」と賭ける決断だ。誰にも正解がわからない中で、唯一判断できるのは「この人に任せたいかどうか」である。つまり、起案者自身が“任せるに足る存在”と映るかどうかが、最後の一押しになる。

それはプレゼンの巧さではない。これまでの積み重ね、仕事への向き合い方、そして仕事の成果など、社内で築いた信用残高だ。信頼とは、過去の行動の蓄積が未来への期待に変わったときに生まれる。

過去に積み上げた信用があってはじめて、未来への信頼は生まれる。いかにして“任せるに足る人間”と思わせるか。それが、起案者に課されたもう一つの問いである。つまり、決裁を得るためには、「確信を語れること」と「信頼されること」の両輪が必要なのだ。

意思決定の本質は、リスクを顧みず未来へと進む“勇気”にある

新規事業の意思決定は、100%の情報が揃うことはない。不確実性のなかで「前に進む」という判断を下す行為に他ならない。だからこそ必要なのは、確証ではなく、確信である。データではなく、物語である。計画ではなく、「こいつならやってくれるだろう」という信頼である。

PoCはただの証明作業ではない。次の一歩を踏み出すための材料を集めることであり、それを確信に変えて語ることだ。その確信が熱を持ち、信頼を引き寄せるとき、意思決定は動き出す。勇気ある決断を促すのは、熱を帯びた確信だけだ。

だからこそ、決裁者に対してはストーリーを届けよう。そして、ストーリーを届けるには、問いを深めよう。PoCは目的ではなく、確信を生み出すための通過点にすぎない。その視点に立ったとき、初めて“動かすための検証”が設計できるようになる。

情熱とは「最初から持っているか」ではなく、「動き続ける中で育つかどうか」だ。燃え上がる瞬間は、後からやってくる。その日がいつか来ると信じて、とにかく動き続ける。その積み重ねの中で、自分でも気づかなかった想いが形になっていく。やりたいことは、見つけるものではない。自分の中に“生まれてくる”ものなのだ。



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ビジネスクリエイター、インキュベーター、アクセラレーター、コンサルタント。エンジニアとして、PHP/HTML/CSSのマークアップ言語によるWebサイトの制作、SEOエンジニアリング、アクセス解析アナリストを経験した後、IT領域の技術/潮流をベースとしたエスタブリッシュ企業向けのコンサルタントを経て、複数のIT企業にて、Web/アプリ系、O2O系、IPライツ系の新規事業立ち上げに注力。事業開発から経営企画業務まで、事業および会社立ち上げに関する業務を幅広く経験。また、シードフェーズのベンチャー複数社の立ち上げへの参画や経営戦略・組織戦略・PR戦略へのアドバイザリー、メンター、複数のアクセラレーションプログラムのメンターも手がける。