Q. 新規事業に取り組むなかで、
経営層の理解が得られず、推進に壁を感じています。
本来はトップダウンで方針が降りてくるのが理想ですが、
そうならない場合でも、
現場からうまく回していく方法はあるのでしょうか?
✔︎ 経営層の無理解は「前提」──嘆くのではなく、超えるしかない
✔︎ 組織を動かすのは「対話」と「事実」であり、魔法の言葉ではない
✔︎ 自責で動き続ける者だけが、やがて組織の風向きを変えていく
「理解されない」は、スタートラインである
多くの新規事業担当者が最初にぶつかる壁が、「経営層が分かってくれない」という嘆きだ。「現場での反応は良かったのに、上に持っていくと全然通らなかった」「既存のKPIでしか評価されない」──そんな声は、あらゆる現場から聞こえてくる。
だが、これには構造的な理由がある。そもそも経営層にいるのは、既存事業を勝ち抜いてきた“過去の勝者”たちだ。市場が安定していた時代に成果を出し、定量的なロジックとリスク回避で信頼を勝ち取ってきた人々が、新規事業の不確実性に直感的な共感を持てないのは、当然といえば当然である。
だから、「理解されない」ことを嘆いても仕方がない。それは、「ありえない状況」ではなく、「最初からそういう状況」なのだ。新規事業において、経営層との温度差は前提であり、スタートラインなのである。
経営層とのギャップは、ファーストペンギンの宿命である
もちろん、経営層の理解が得られれば、プロジェクトは格段に進めやすくなる。しかし、その理解を引き出すための努力は、「理解ある上司に恵まれたラッキーな人がやること」ではない。それこそが、ファーストペンギンに課された責任なのだ。
新規事業とは、「まだ誰も信じていない未来」に賭ける営みである。だからこそ、まずは“信じていない側”と対話を重ね、“信じられる構造”に変換して伝えることが求められる。それを「伝わらない」と愚痴るのではなく、「どうすれば伝えられるか」と問い続けることが必要だ。
そのとき重要なのは、「上司を説得する方法」ではなく、「上司が信じられる構造を一緒に作ること」である。問いの立て直し、仮説の再設計、小さな成果の提示──どんな方法でもいい。伝わるまで、何度でも、手を替え品を替え、壁に挑み続けること。それが、社内イノベーターに課された宿命である。
「自責」で考え続ける者だけが、突破口をつくる
ではどう動けばいいのか?──答えはシンプルだ。すべて「自責」で考えることである。
「上が理解してくれない」「予算がつかない」「評価されない」──それらの言葉を発した瞬間、自分のコントロールを手放してしまっている。だが、現場にいる私たちが唯一変えられるのは、「自分の行動」だけだ。
「伝え方が悪かったのかもしれない」「事実の提示が足りなかったかもしれない」「もっと巻き込みの工夫ができたかもしれない」──そうやって自分の範囲に引き戻し、できるアクションを洗い出す。そして1つずつ試していく。
魔法のランプも、銀の弾丸(シルバーバレッド)もない。あるのはただ、地道な行動と、愚直な対話だけだ。だがそれを繰り返すことでしか、組織の空気は変わらない。
「小さな事実」を積み上げる
とはいえ、何でもかんでもぶつかればいいというものでもない。ポイントは、「主張を押し通す」のではなく、「事実を見せる」ことにある。
顧客の声、仮説検証の記録、ユーザーの熱量、わずかでも動いた収益──それらの“小さな事実”が、上位層の思考を変える唯一の材料になる。スライドや熱量では動かなかった人が、数字や生の声を前にして初めて「ちょっと気になるな」となることは多い。
組織は合理で動くのではない。共感と空気で動く。そしてその空気は、「事実の連打」によってしか変わらない。だから、評価されることを先延ばしにしつつ、小さく動き、小さく結果を出し、小さく報告する──この繰り返しが、組織の突破口になる。
結局、最後は「熱」と「行動量」である
どれだけ頭を使っても、どれだけ構造を整理しても、最後にモノを言うのは、「この人がやるなら応援したくなる」と思わせる熱である。
伝え方も、資料も、仕組みも大切だ。だが、結局は「それでもやる」という姿勢が最も説得力を持つ。「この人がそこまで本気なら、少し耳を傾けてみよう」と思ってもらえるかどうか。組織を動かすのは理屈ではなく、“火のついた背中”である。
だから、上から降りてこないなら、下から突き上げよう。トップダウンが理想でも、ボトムアップでしか変えられない現実はある。そしてそれは、「自分がやらなきゃ誰がやる」という自責の行動からしか始まらない。
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