Q. 「最近は新しいビジネスモデルが多い」
「価値を受け取らない人からお金を取る方法もある」
と聞くと、勉強が追いつかず焦ります。
社内起業家は、どこまでビジネスモデルに
精通しているべきなのでしょうか?
✔︎ ビジネスモデルは、ゼロから生み出すものではない
✔︎ たった14種類の型を理解していれば、それで十分
✔︎ あとは流行のモデルをTTP・TTPSで応用すればいい
ビジネスモデルは、“発明”ではなく“選択”である
よく「ビジネスモデルは何ですか?」と聞かれて、言葉に詰まる人がいる。でもそれは、“新しいものを創らなきゃいけない”という思い込みから来ている。結論から言えば、ビジネスモデルはゼロから考える必要なんてまったくない。
なぜなら、既存のビジネスはすべて、たった14の型のいずれかで構成されている。そこに新しさを感じるのは、“構造”ではなく“適用先”が違うだけ。つまり、選び方と使い方を工夫することで、新しさは演出できる。
社内起業家に必要なのは、“知らないものを発明する力”ではなく、“使える型を知っている力”だ。知ってさえいれば、そこからどう活かすかが発想の出発点になる。
まず押さえておくべき「14類型」
以下に紹介する14類型が、ビジネスモデルのすべての原型だ。これを理解していれば、どんなに複雑に見えるビジネスも、その正体が見えるようになる。
- 物販:商品を作って売る
- 小売:仕入れた商品を売る
- 広告:集客力を武器に広告主から収益を得る
- フロントエンド+バックエンド:入口商品で惹きつけ、出口商品で儲ける
- フリーミアム:無料で集め、プレミアムで課金
- 定期販売・継続販売:毎月、隔月など定期的に販売する
- リカーリング:本体は安く売り、消耗品やメンテで稼ぐ
- サブスクリプション:利用権を貸して月額や年額で収益を得る
- マッチング:ニーズをつなぎ、仲介手数料を得る
- ライセンス:権利を貸すことで収益化する
- レンタル:資産を貸してレンタル料を得る
- コレクション:統一感やレア性で購買意欲を刺激する
- 二次利用:本業のノウハウや資産を再販する
- 再利用:売れ残りや中古品を再販する
このどれに分類できるかを意識するだけで、自分のアイデアの輪郭がグッと明確になる。あとは組み合わせれば、立派な戦略が完成する。
「X for Y」の発想で真似る
さらに発想の精度を上げるためには、「X for Y」の考え方が役立つ。これは、「別業界で成功しているビジネスモデルを、自分のターゲット領域に持ち込む」フレームだ。
たとえば、「Tinder for pet owners(ペットのマッチング版Tinder)」「Netflix for education(教育版Netflix)」など、すでに実績のあるモデルを自分たちのフィールドに応用する。これだけでビジネスの解像度が一気に上がる。
この時に必要なのは、「構造を読み解く力」だ。「これはサブスク型」「これはマッチングモデル」と構造化できれば、そのままTTP(徹底的にパクる)、あるいはTTPS(徹底的にパクって進化させる)すればいい。
ビジネスモデルはTTPから始まる
人類は過去の叡智を受け継ぎ、未来に挑戦することで地上の覇者となった。叡智を活用するのが人類なのだから、そもそも「0→1」などあり得ないのだ。すべての成功したイノベーションは大なり小なりTTPから始まっている。
重要なのは、「何をパクるか」ではなく、「どこを変えるか」だ。自分たちの事業に最もフィットするモデルを、TTPで構造理解し、自社のケイパビリティや顧客の文脈に合わせてTTPSしていく。これこそが、“発明ではなく創造”であり、再現性の高い事業開発の基本である。
むしろ、「オリジナルなモデルを考えねば」と構えてしまうと、いつまで経っても事業が動き出さない。だからこそ、まずは型を知り、型から選び、型を応用する。これが社内起業家にとって最も賢いアプローチなのだ。
精通より、「使いこなせる感覚」が大切
最後に改めて強調しておきたい。社内起業家がビジネスモデルに“精通している”必要はない。すべてを網羅することが目的ではない。
大切なのは、「あ、このビジネスはフリーミアムか」「これはマッチング+サブスク型だな」といった構造の“感覚”が持てているかどうかだ。その感覚があれば、自分たちの企画がいまどこに位置し、どこを調整すれば伸びるかが見えてくる。
感覚を養うには、「真似る」ことから始めるのが一番いい。事例を読み、パターンを見抜き、構造で会話する。そこから、あなただけの“問い”と“戦略”が立ち上がってくる。
知識ではなく、実践の道具としてのビジネスモデルを持とう。構造を理解し、構造を応用する。そこに、再現性のある事業開発の地図が広がっている。
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