Q. 顧客への質問のつもりが、
気づけば「自分たちが聞きたいことだけ」を
拾ってしまっている気がします。
どうすればこのバイアスを避けられるのでしょうか?
✔︎ インタビューは「仮説を壊す」ために行うもの
✔︎ Noの反応には明確な理由があり、ピボットの起点になる
✔︎ 違和感を見逃さず、深く解釈することでインサイトに辿り着く
思い込みの沼にハマってはいけない
顧客インタビューにおいて陥りがちな罠がある。それは「自分たちが聞きたい答え」を無意識に誘導してしまうことだ。これは仕方のないことでもある。人間は誰しも、自分の仮説を守りたいし、正しさを確認したい。だが、新規事業において最も危険なのは「仮説が正しそうだ」と早合点し、「思い込みの沼」にハマることだ。
「これって便利ですよね?」「こういうの欲しくないですか?」──そう尋ねれば、相手は気を遣って「いいですね」と答えてくれるかもしれない。しかしその“いいですね”が、事業の成功を保証するものではない。
そうして、プロダクト・ロック、ソリューション・ロック、テクノロジー・ロックなどといった“確信の早期固定”をしてしまうことが新規事業において最大のリスクとなる。
インタビューでは、YesよりNoを拾え
インタビューの目的は、仮説の正しさを確認することではない。どこが間違っているのか、どの前提がズレているのか、何が刺さっていないのか──その“ズレ”をあぶり出すためにある。つまり、インタビューにおいては、「仮説を証明すること」ではなく、「仮説を壊す情報がないかを探すこと」が重要なのだ。
インタビューの中で「うーん、微妙ですね」と言われたときこそ、真の学びがある。「その機能、たぶん使わないですね」と返されたとき、初めてこちらの仮説が壊れる。そして、壊れた瞬間にしか見えない景色がある。
たとえば「この課題を抱えている人はこんなプロダクトを欲しがっているはずだ」と仮説を立てていたとしよう。だが、想定していたターゲットからNoが出たとき、その仮説は問い直される。「なぜ響かなかったのか?」「本当にその人が困っているのか?」「そもそもターゲットが違うのではないか?」──そのズレの中に、新たな道筋が見えてくる。
このプロセスがあるからこそ、「誰に対して、どんな変化を起こすべきか?」という価値の構造を再構築することができる。ピボットは、仮説の誤りからしか生まれない。インタビューは、失敗を発見するためのレーダーなのだ。
Noの理由を拾えれば、ピボットの起点が見つかる
相手が「それ良いですね」と言ったときには、喜んでしまっては行けない。「自分たちの仮説が当たっていると証明したい」という思いが先行すると、聞く内容も、表情も、無意識にバイアスがかかる。
「Yes」が得られたとしても必ず、その背景にある本音を掘り下げなければならない。「どういうときに良いと思いましたか?」「今、何か似たようなものを使っていますか?」「それを手に入れると、何が変わりますか?」といった二次質問を繰り返すことで、Yesの真意が見えてくる。
しかしほとんどの場合「Yes」は、総じて「買う」ではないことに注意しなければならない。顧客からのYesという反応は、「めちゃくちゃいいね」から「どうでもいいね」までグラデーションが幅広い。また、インタビュワーとの関係性がある場合であればなおのこと、気を使ってインタビュワーが欲しい答えを回答しようとしてしまう。
だから聞くべきは「No」なのだ。Noの反応には明確な理由がある。なぜ必要ないのか?なぜ使わないのか?──そこには必ず、解像度を高めるためのヒントが隠れている。仮に「Yes」しか答えが返ってこなかったとしても「あえて否定するとしたら?」という質問を投げかけて、Noを引き出すべきなのだ。
「刺さったかどうか」ではなく、「どこが刺さらなかったか」を拾いにいく。その姿勢が仮説検証の精度を大きく左右する。プロダクトの価値を説明し、反応を観察するだけではなく、「なぜ響かなかったのか?」に向き合うことでこそ、深いインサイトに到達できる。
反応の“温度”に敏感になること。そして、Noから得られる情報にもっと貪欲になること。インタビューの最大の価値は、自分の仮説が「いかにあっているか」ではなく、「いかに間違っているか」を引き出すことにある。
「違和感」に注目しなければ、何も見えない
本当にインサイトを掴もうとするなら、「相手が言ったこと」よりも「相手が言わなかったこと」に注目すべきだ。質問の答えが曖昧だった。一瞬、言葉に詰まった。目線が泳いだ。質問を受け取った文脈と違う話をし始めた──こうした“違和感の兆し”の中にこそ、真のインサイトがある。
インタビューとは「顧客の言葉を引き出すこと」ではなく、「顧客の無意識の行動や反応に潜むインサイトを観察すること」なのだ。これを理解せず、質問リストをそのまま読み上げるだけでは、浅い“答え”しか得られない。
またその違和感を引き出すために、顧客の答えをそのまま受け取るのではなく、さらに深掘りする質問を繰り返す。そのとき、なぜそうしたんですか? それっていつもそうなんですか? どうしてそれが気になるんですか?──そうやって深掘りした先にこそ、思いもよらない潜在的なニーズや、未充足の価値観が見えてくる。
インサイトとは、当たり前に見えていた行動の裏にある“意味の構造”だ。それは、最初から見えるものではないし、相手が言葉にしてくれるものでもない。だからこそ、「インタビューで何を聞くか」よりも、「インタビューのなかで、何に気づけるか」がすべてなのだ。
そしてその気づきは、たいていの場合、「あれ?」という違和感として現れる。その“あれ?”を見過ごさず、立ち止まって解釈する。そこからすべてが始まる。
仮説を“壊すための問い”を準備しておく
インタビューを成功させる最大の鍵は、「どんな問いを立てるか」ではなく、「どんな問いを自分に立て続けられるか」である。仮説に自信があればあるほど、それが間違っていたときのインパクトは大きい。だからこそ、意図的に“壊すための問い”を準備しておく必要がある。
本当にこの人にこの課題はあるのか? これって本当に困ってることなんだろうか? なぜこの方法を取っていないのか? これがなかったとき、どんな行動をしていたか?
仮説が“補強”される情報より、“破壊”される兆しに敏感になれ。インタビューは、納得よりも違和感を収集する場であると認識すべきだ。インタビューは“質問の場”ではなく、“観察と解釈の場”なのだ。世界を変える問いは、相手のなかではなく、自分のなかにある。
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