Q. 顧客がいるかも分からないのに、
「このサービスは顧客にメリットがある」と思って
スタートしてしまうことがあります。
こうした進め方は正しいのでしょうか?
✔︎ 顧客の“存在確認”より先に、メリットを定義することがズレを生む
✔︎ スタートは「誰が困っているか?」という行動観察から始めるべき
✔︎ メリットは“設計”するものではなく、“発見”するもの
「メリットがある」という決めつけは、自己完結の罠になりうる
「こうすれば顧客にとってメリットがあるはずだ」──その思考は一見すると、顧客起点のように見える。しかしそれが“ユーザーの存在すら確認できていない状態”で考えているのであれば、全く持って顧客起点には立っていない。
「顧客がそこにいる」という前提を無意識に置いてしまってはいけない。顧客は実在するのか、どんな文脈でその行動をしているのか、何に価値を見出しているのか──それらの理解なしに、「価値の設計」に入れば、当然のことながらプロダクトアウトの罠に陥る。
大切なのは、“届けたいメリット”ではなく、“顧客の実在”からスタートすることだ。顧客がまだ定義されていない段階では、「これをやればメリットがある」は“根拠なき願望”に過ぎない。
顧客は「作る」のではなく、「見つける」もの
よくある勘違いは、「顧客をつくる」という発想だ。だが、事業開発の初期においては、“顧客とは発見するもの”である。すでに繰り返されている行動、顕在化している課題、表面に出てきていない潜在的なニーズ──そうした“実在する顧客”の観察から、初めて「誰にとってのどんなメリットか」が定義できるようになる。
つまり、「メリット設計」は後工程なのだ。「顧客の特定→課題の認知→価値の言語化→価値の提供方法(ソリューション)」という流れの前半を飛ばして、「メリットだけ」を定義しても、空回りするだけである。
だからまずは、「顧客は本当にそこにいるのか?」「なぜそれが不便なのか?」「他にどんな行動でそれを解消しようとしているのか?」という観点を突き詰めて解像度を高めなければならない。
「顧客がいるか分からない」は問いの立て方の問題
「顧客がいるか分からない」状態とは、実は“問いの精度”が低いということである。誰のどんな行動に着目しているのか? どんな文脈に違和感があるのか? ──それが曖昧なままでは、顧客の姿もぼやけるのは当然だ。
初期に着目すべきアーリーアダプターとは、「不便を感じている人」ではなく、「行動を変えたいと思っている人」であり、「変えるために何らかのアクションをとっている人」だ。だからこそ、定義すべきは「その人の行動」なのだ。「なぜそうしているのか?」「なぜ変えられないのか?」という視点で深掘りしていくことで、ようやく“存在”を捉えられるようになる。
結果として、「こういうことをやれば、メリットがある」は、行動観察から見えてくる“反応可能な仮説”として構築されるものになる。逆ではない。
インサイトとは、構築するものである
イノベーションを起こそうとすればするほど、顧客の口から直接的にヒントが得られるわけではないことに留意すべきだ。顧客は「未来にどうなっていたいか」は明確には語ることはできない。
だから、インサイトは潜在ニーズなのであり、またインサイトは提供しようとしている側において定義し、構築しなければならない。
小さな仮説を立て、プロトタイプを提示し、行動を観察し、フィードバックを得る。その繰り返しの中で、顧客の言語化されていないニーズが“解釈可能”になっていく。このプロセスを飛ばして「メリットを提供しよう」としても、それは独りよがりの押し付けにしかならない。
本当に顧客が“欲しがるもの”は、顧客自身ですら気づいていない。だからこそ、こちらが構築しなければならない。解釈と検証の往復が、インサイトを生み出し、“受け取ってもらえるメリット”へと変わっていく。
スタート地点はいつも「観察」と「違和感」である
だからこそ、アイデアのスタート地点は「こうすればメリットがある」ではなく、「この違和感は何だろう?」でなければならない。
通勤電車の混雑に無意識で疲弊している人。子どもの寝かしつけに苦労している親。飲食店のレジ前で戸惑う外国人。──目の前の小さな違和感は、“何かを変えたくても変えられていない行動”である。その観察からすべてが始まる。
そしてその先に、「誰の、どんな行動を、どう変化させるか?」という問いが立ち上がる。その問いに答える形でこそ、「こうすればメリットがある」というアイデアは意味を持ち始めるのだ。
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