Q. 事業性の薄いアイデアの具体化が進んでいます。
リーダーは聞く耳を持たず、
メンバーは疑問を抱えたまま進めています。
この状況、どう軌道修正すればいいのでしょうか?
✔︎ 正面突破より、“揺らぎ”を生む静かな働きかけが鍵
✔︎ 小さな検証と原点対話で、リーダー自身に気づかせる
✔︎ 本気で変えたいなら、自分が火を灯し続ける覚悟が必要
正論で殴っても、リーダーは絶対に動かない
まず押さえるべき大前提は、正論でリーダーを動かそうとしても失敗するということだ。新規事業においては起案者が自分が描いた未来に強烈なオーナーシップを持って進めている。そこにいきなり正面から「事業性がない」と突きつければ、たとえ正しくても、人間は感情的に守りに入る。防衛本能が発動し、耳を塞ぐ。
だから必要なのは、“正す”のではなく“揺らす”ことだ。相手のプライドを傷つけず、静かに、しかし確実に心の地盤を揺らす。そのために、意見ではなくファクトを積み上げ、揺らぎを生み出す作戦を取らなければならない。
軌道修正とは、論破ではなく、自己気づきを引き起こすプロセスだ。押し倒すのではなく、リーダー自身が「おや?」と思う瞬間を設計することが第一歩になる。
小さな仮説検証で“揺らぎ”を仕掛ける
最も効果的な手段は、小さな仮説検証だ。たとえば、顧客インタビュー、簡易PoC、ペーパープロトタイプ──何でもいい。とにかく、短期で現場のリアルな反応を可視化できるアクションを仕掛ける。
そして得られた結果を「否定」ではなく「問い」としてリーダーに投げ返す。「想定していたより反応が鈍いようです」「もう少し深堀りしてみてもいいでしょうか」──こうした提案型のスタンスで、リーダーに「違和感」を自ら感じてもらう。
この時、データや事例を小出しにしながら、“自分ごと”としてリーダーに思考させる空気を作るのがコツだ。直接「違う」と言わなくても、事実が語りかけるように仕組むのだ。
それによって、リーダーのプライドを傷つけず、少しずつ「方向転換」という選択肢を認識させる。軌道修正とは、「押す」のではなく、「揺らす」ことでしか起こしようがないのだ。
本質に立ち返る対話の場を設計する
ただのファクトだけでは足りない。さらに必要なのが、原点に立ち返る対話だ。現状のアイデアを批判するのではない。「そもそもこの事業で、どんな顧客の変化を起こしたかったのか?」という問いを再提示する。
たとえば、ワークショップ形式で未来の顧客像を描く、成功時のストーリーを再構築するなどの場を設ける。リーダーに「最初の想い」を語らせ、「この事業が実現したとき、顧客にどんな変化をもたらしたいか」を改めて言語化する場をつくる。
現時点のアイデアの“事業性”を直接否定するのではなく、「そもそもの想い」を掘り起こす。その上で「今の道筋がその未来に繋がっているか?」を皆で考える。すると、多くの場合、「最初に思い描いていた未来」と「今進んでいる道」とのズレが可視化される。
この手法の強みは、対話によってリーダー自身にズレを自覚させることにある。外から押し付けられた修正ではなく、「自分の意思で軌道修正した」と思える状況を設計できれば、抵抗は格段に減る。
冷静なファクトと熱いストーリーの両輪で攻める
軌道修正には「冷静なファクト」と「熱いストーリー」の両輪が必要だ。
ファクトだけを並べれば冷たすぎる。ストーリーだけを語れば軽すぎる。だから両方を組み合わせる。「ユーザーの生の声」「実際のプロト検証データ」など冷静な裏付けを提示しながら、「この未来の方が、もっと多くの顧客に希望を届けられる」という熱いビジョンを同時に語る。
リーダーに「現実」と「理想」の間のギャップを突きつけ、その橋をかける提案をする。どちらか一方だけでは心は動かない。冷静な現実と熱い未来、その両方を携えて向き合うことが、突破口になる。
最後は「自分が火を灯す」しかない
どんなに正しくても、どんなに丁寧でも、変わらないリーダーはいる。それでも、諦めてはいけない。
新規事業において最も大きな変化の起点は、いつだって「個人の火」だ。「誰か一人の本気」だ。だから、そのリーダーを変えたいと思っている自分がまず火を灯す。
たとえ小さな一歩でも、たとえ誰にも認められなくても、自ら動くしかない。PoCをやる。顧客に会う。市場調査をする。──小さな行動を積み重ねることで、周囲のメンバー、やがてリーダー自身の心にも、必ず波紋が広がる。
動き続ける者だけが、空気を変える。小さな変化が、いつかチームの重い空気を裂き、リーダーさえも動かすきっかけになる。その覚悟を、あなた自身が持つしかない。
📖 イノベーション・プロセスの入門書
超・実践! 事業を創出・構築・加速させる
『グランドデザイン大全』
- #01:グランドデザインとは?
📖 イノベーションに挑むマインドセット(連載中)
『BELIEF』
根拠のない自信が未来を切り拓く
📺 最新セミナー動画
- 事業創出と商品開発の違い〜新しいビジネスモデルを考える~
- イケてる事業アイデアの創出:実践編 〜具体的なツール、量、期間、判断基準〜
- 事業アイデアは「閃く」もの 〜インプットの量が、良質なアイデアへと繋がる
- 事業プロジェクトの判断基準
- 事業創出の「文化醸成」〜みんながチャレンジしたくなる制度作りとは?〜
- 新規事業は、顧客の「不」から始めてはいけない
- 新規事業プロジェクトの最適な役割分担とは?
- イケてるアイデアは「越境」から始まる
- 外部メンターの”上手な”選び方
- ビジネスコンテスト運営会社の”うまい”選び方、使い方、切り替え方
- 年度残予算を来期に活かす上手な使い方
📺 新規事業Q&A動画
📝 お薦めコラム
- デザイン思考だからといって、アイデアを顧客起点で必ず考える必要はない
- イノベーションは「自責」によってしか成し得ない
- 目的は「イノベーションを成し、世界をより良くする」こと。それ以上でも以下でもない
- 新規事業は「やる気のある無能」がぶち壊す
- 新規事業に取り組むなら、社会課題は解決しようとしてはいけない
- デザイン思考は、イノベーションの万能薬ではない
📕 新規事業Q&Aコラム
- 頑ななリーダーをどう軌道修正する?
- ゼロイチ経験なしで転職できるか?
- アイデアが出ない人を出る人に変えるには?
- 会社を口先でなく、本気にさせる方法は?
- 最も成功率の高いフレームワークは?
- マインドを一致させる早道は?
- 前例のないアイデアはどう選ぶ?
- 買わない理由って必要ですか?
- アイデアの幅はどうすれば広がる?
- 本質的な顧客課題をどう深掘る?
📝 最新コラム
- 失敗は、未来の成功のための学びの場
- イノベーションのためのビジネスデザイン:視野を広げ、経験から学ぶ
- イノベーションとは知性主義に対する、反知性主義の逆襲である
- イノベーションは、Z世代と共に、未来を創る
- 自主性と挑戦を促す「問いかけ」がイノベーティブな文化を創る
- 経営は「新規事業ウォッシュ」をやめ、本気で取り組まねばならない
- 新規事業推進に必要なのは「説得」ではなく、「納得」を得るための「対話」である
- モノづくりに、サービスデザイン、ビジネスデザイン、システムデザインを加えた四輪がイノベーションを加速する
- 世界をより良くするためにこそ、ルールに従わない自由を強く意識すべきだ
- 出島戦略を採るべき理由:既存事業と新規事業は分かり合えないことを前提に、組織を構築する