「新規事業アイデアの評価基準をどう設定するか」という質問を受けたときに、まず第一に「誰も評価することはできません」とお答えしています。
未来がどうなるか誰にもわからないのに、預言者でもないボクらが正しく未来を予測することはできません。今しているのは過去の経験に基づいた未来の予想に過ぎません。例えばアフターデジタルやアフターコロナなどの急激な時代の変化を予測することは本質的には不可能です。
そのため、新規事業アイデアというのは兎にも角にも「やってみなはれ」が重要となるのです。やってみないことには学びは得られないし、何が未来のトランスフォーメーションに寄与するトリガーになるかは誰にもわからないから。
それでも「やってみなはれ」を全部やるわけではないから評価基準が必要ということであれば、それはシンプルに3つに絞られます。
- ストーリーに「共感」できるか
- 「顧客像」が手触り感を持って思い浮かぶか
- 次世代リーダーを任せる「資質」を感じるか
ストーリーに「共感」できるか
イノベーションはビジョンを掲げることから始まります。
ビジョンを掲げると現状とのギャップが見えてきます。そのギャップこそが「問題設定」です。その問題を因数分解するとそこに課題がみえてきて、はじめてどう解決するかを考えることできます。それをどこから解くかが戦略であり、どうやって解くか戦術です。
一方既存事業に勤しんでいる人たちは、なかなか将来のビジョンを思い描く機会が与えられません。大手企業というのは「分業」をより効率的に効果的に行うことで、大きな売り上げをあげることを突き詰めている組織形態のため、一人一人のビジョンよりも一人一人が役割の中で最大の成果を出すことが重要だからです。
しかし、変化が激しい時代。コンピュータの情報処理能力の向上、インターネットの普及、資本主義の成熟による消費行動の変化、スマホによる常時の情報のインプットとアウトプット。そして、コロナショック、ロシアによるウクライナへの不法な侵略。未来の不確実性はまし、誰にもその未来を予測することはできなくなりました。
結局のところ今できることは「未来を妄想する」ことに過ぎないのです。それが5年先10年先と時間軸が長くなればなるほど、できることは妄想です。
つまり、新規事業アイデアを評価するならば、やるべきことはエヴィデンスやロジックに対して重箱の隅を突くような指摘をすることではなく、ストーリーに共感できるかどうかだけです。
自分が三現(現場・現物・現実)の感覚を持ち合わせていない領域やマーケットであるならばこそ、なおのことストーリーへの共感が必要不可欠となります。
そして、この後のフェーズの実証実験に進めたところで成功するかどうかの保証はどこにもない。だからこそ「共感」を重視すべきなのです。
「顧客像」が手触り感を持って思い浮かぶか
「新規事業」を作ることは「売上」を作ることが目的ではありません。
将来のビジョンを描き、そこにいる顧客の本質的で潜在的なニーズに直接向き合い、その顧客をハッピーにし、社会をより良くする。売上はその結果として副次的に得られるものに過ぎません。
「事業計画」として特にKPIや売上/利益をシミュレーションするためには、もちろんエヴィデンスが必要不可欠であり、それはアイデアの段階で描くことは非常に難しいものになります。
アイデアの段階でできるのは、徹底的に顧客と向き合うことです。そしてそれを通じて、ソリューションの受容性や成立性は、実際にフィジビリティを通じて実証実験をする以外に確認する方法はありません。
そのため最初の一歩でできる評価は「顧客像に手触り感が感じられるかどうか」の一点になるわけです。聞き手として起案者のストーリーを聞くことで、顧客像が鮮明に思い浮かぶかどうかが重要なのです。
そして、「この顧客をどうしても助けたい」と願う起案者の思いに賭けるだけの価値があるかどうかが判断基準になります。
次世代リーダーを任せる「資質」を感じるか
そしてこの2つと同時に、そこを起点にイノベーションが起こせるかどうかで今判断できるのは、その起案者が「任せるに足る信頼がおけるか」どうかです。
「ビジョンを設定し、ギャップを問題として設定し、そこから課題を定義する」という経験と「それをストーリーで語って共感を得る」という経験は、最終的にビジネスがうまく成立しなかったとしても、必ず既存事業での業務にも活きてきます。
イノベーションに挑まなければならないのは、新規事業だけでなく既存事業も同様です。現状維持は約束された沈没であり、外部環境の変化の激しい現代において、変革に挑まない事業や組織は、早い段階でディスラプトされてしまうでしょう。
昨日の当たり前が今日当たり前ではなくなる。そんな時代だからこそ、未来に対するビジョンを複数のシナリオとして持ち、それにチャレンジすることが必要不可欠です。
既存事業のメンバーこそ次世代リーダーが必ず持つべき資質を得るために、新規事業に取り組むことは有効となります。
事業がうまくいかない可能性も含めてその投資額が、その起案者を成長するために必要な投資として考えられるか。その起案者がその投資を受けるに値する資質があるか。成長可能性を感じられるか。それも重要な判断基準です。
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