新規事業コンテストのピッチを拝聴すると、起業家と比べて新規事業担当者は、初めてのピッチに戸惑い、緊張している様子をよく目にします。
もちろん「ピッチ」というものの場数がその差を作っていることは間違いありませんが、その捉え方にも差が出る要因があるのではないかと考えています。
まず「プレゼン」と「ピッチ」を違いを理解しましょう。
提案をし、何らかのアクションを相手にしてもらうという点においてはプレゼンもピッチも同一ですが、「説明を理解してもらう」のか「ビジョンに共感を得るのか」に大きな違いがあります。
プレゼン(プレゼンテーション)は、多数の相手に数十分ほどの時間をかけてしっかりと製品の機能を説明していきます。相手の立場に立ってわかりやすくその利点を伝え、理解してもらい、次の行動に繋げてもらうことを重視します。
一方でピッチは、少数の相手に限られた5分〜10分程度の時間で説明します。このときに話すのは「ビジネスアイデア」なので、前例がなかったり、相手がそこに専門知識がないことも多いわけです。そのために必要なのは「共感」をうむことで、「説明を理解してもらう」ことは二の次です。
「相手がもっと説明が欲しい」と感じたなら質疑応答に繋がり、より深い話がしたいと感じれば次のプレゼンの機会へと繋がっていくからです。
ピッチに必要な要素は「問題設定と顧客像」「必要となるソリューション」「プロダクト概要」「市場の規模と成長性」「今後のアクションプラン」の5つです。
しかし、ビジネスアイデアの段階ではそれらが確実にありえると誰もが思えるほどのエヴィデンスが揃った状態には至っていないということを理解しなければなりません。
プレゼンと比較すると、準備が不十分であるという状況において挑まなければならないのがピッチなのです。プレゼンでは相手の立場に立って情報を与え、理解を促し、行動を図るものなのに対し、ピッチではそのための情報が不足している状態で話すことが求められているということを大前提で理解しなければなりません。
これは、プレゼンでは「ロジック」が求められるのに対し、ピッチでは「ストーリー」が求められていると言い換えることができます。ロジックを強化するためのPoCやMVPでの実証をネクストアクションにおいて、それを実行してもよいと思わせるような「共感」を引き出すのがピッチの役割です。
相手に「共感」してもらうためには、「自信」と「情熱」が必要不可欠なのです。
自信のないピッチをしたら、受け取り手はどう感じるでしょう。発表者が自信を持てないプランに「賭けてみよう」と思うに至るでしょうか。
ビジョンとして「この未来は絶対に到達すべきものである」と、ミッションとして「私たちはその未来に辿り着くためにこの問題解決に取り組むべきである」と、それゆえ「このプロダクトを実現させることは絶対に必要なのだ」と、確信を持って発表しなければいけないのです。
そこに多少のロジックの破綻があるのはしょうがないのです。なにせ誰も見たことのない未来に辿り着こうとするのですから、ロジックが完璧に整うことなどありません。ロジックは過去の知見や経験に基づいて整えるものであって、過去の延長戦の未来は語れても、過去からジャンプアップした未来を語るために使える思考法ではないのです。
だからまず、自分のプランに絶対的な「自信」を持つことは重要です。そして同時に、聞き手の心を動かすために「情熱」が必要です。
人は理性だけで生きている生き物ではありません。感情がそこにあります。この理性と感情は、象使いと象に例えられます。普段は象使いが象を制していても、一度象が暴れ出したら、いかに鍛錬を重ねた象使いであっても制することはできなくなります。つまり感情を動かすことさえできれば、多少のロジックに粗があっても相手に行動を促すことはできるということです。
また同時に情熱を伝えるためにはストーリー展開をしっかりと構築することも欠かせません。ドラマや映画も感動シーンだけを切り抜いたところで涙することはできないように、ピッチも結論だけを端的に伝えたら、いかに自信と情熱があったとて、人の心を動かすことはできないのです。
ピッチにおいては、既存事業のように過去の知見や経験からくるロジックを組み上げることはさほど重要ではありません。
よく練り上げられた小説のようにストーリーを汲み上げた上で、自信を持って情熱的に語ることが重要なのです。それが人の心を動かすことに繋がります。
この違いを強く意識して、ピッチに挑んでください。
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