- 承認が何層にも重なる限り、仮説検証は走らせられない
- 部門の都合で、顧客体験をぶつ切りにしても、その都合は顧客は知らない
- 新規事業は、タテとヨコを越えたチームから始まる
組織構造という、見えない重力
「顧客起点で考えよう」——これ自体を知らない人は、新規事業に携わるものではいないだろう。 セミナーに行き、フレームワークをメモし、「これからはアジャイルに動こう」と語る。ところが自席に戻ると、なぜか身動きが取れなくなる。
原因はひとつ、長年かけて築かれたピラミッド型の組織構造だ。
ボクは、この構造そのものが悪だと言いたいわけじゃない。品質を守り、日常業務をトラブルなく回す上で、階層も分業も確実に機能してきた。ただ、正解のない領域を手探りで進む新規事業にとって、「間違えないための仕組み」はそのまま足枷になる。ここを直視しない限り、現場がどれだけ走っても成果は立ち上がってこないのだ。
タテの壁:責任という名のハンコリレー
中央集権的な大企業では、100万円程度の検証予算を動かすだけでも、主任、課長、部長、本部長——幾重にも連なる社内決裁のスタンプラリーだ。
新規事業の実験は、仮説検証サイクルをどれだけ速く回せるかが勝負だ。 粗いプロトタイプを現場に持ち込み、ユーザーの反応を見て、その日のうちにUIを直し、翌日また試す。このテンポで動けることが前提になる。ところが、バナー1つの変更承認が定例会議をまたいで何週間もかかる組織では、そもそもサイクルが回らない。稟議書が役員室に到達する頃には、市場、競合、顧客はとっくに先へ進んでしまっている。
決裁を細かく刻む設計思想は、失敗を避けるために作られたものだった。しかし今は、現場の熱量を冷やし、自律的に動きたいチームの足を止める機能のほうが強く出てしまっている。
ヨコの壁:部門の縄張り
もう一つが、機能別に作られた部門間の分断だ。 営業、企画、開発、マーケティング、カスタマーサポート。分業は専門性を高めコストを圧縮する上で、確かに有効に働いてきた。
ただ、顧客の視点に立つと事情が変わる。 顧客は自社の部門構成など知らないし、知る必要もない。求めているのは最初から最後までの一貫した体験だけだ。それを「ここまでの画面遷移は開発担当、ここからのメール対応はサポート部門の範疇」と社内の都合で切り刻むと、体験はチグハグになる。
「この要件はウチの管轄じゃない」と社内で議論している間に、顧客はスマホひとつで完結する新興サービスへ、あっさり移っていく。
顧客体験に、社内の都合を持ち込まない
顧客起点の価値創出とは、本来、社内のあらゆる機能を横に繋ぐことだ。 各部門が自領域のKPIに固執し、部分最適を追いかけていると、全体の体験は必ず歪む。
だからボクらは、越境するチームを作らなければならない。 新しい体験は、既存の組織図の「隙間」や「グレーゾーン」からしか立ち上がってこないのだ。
部門別の評価軸をいったん外す。営業からエンジニアまでを同じ席に座らせる。現場の判断で即座に仕様変更できる権限と環境を渡す。月一回の横断プロジェクト会議を開くだけで、ヨコの壁が崩れることはない。必要なのは、機能別組織という前提を、プロジェクト単位で無効化してしまうことだ。
組織図の外側でしか、価値は立ち上がらない
組織図のマス目そのものは、顧客から見れば1円の価値も生んでいない。 社内調整に使っている時間を、そのままユーザーとの対話に回したほうが、事業はずっとまっすぐ進む。
部門という安全地帯から一歩出る。 顧客の痛みという一点に向かって、機能と役職を越えて手を組む。新しいものは、いつも組織の境界線上で立ち上がっているのだ。
THE SEEDS 81
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