Q. 社内のビジネスコンテストで集まるアイデアが、
どうしても既存事業の延長線に偏ってしまいます。
参加者は真面目に考えているのですが、
どこかで見たことのあるような内容ばかり。
もっとワクワクするような、
これまでにない斬新な発想を引き出すには
どうすればいいのでしょうか?
✔︎ 同質的な人材が集まる環境で、「越境アイデア」は生まれない
✔︎ 「目新しさ」は、“インプットの質と量”が決める
✔︎ 未来からのバックキャストの発想で“常識”を破壊せよ
アイデアの“退屈化”は組織構造の必然である
同じ会社、同じ部署、同じ業界。情報源も価値観も似通った環境にいれば、出てくる発想が似通ってくるのは当然だ。
特に大企業では、評価制度や意思決定プロセスが既存事業向けに最適化されているため、自然と「前例踏襲型」の思考回路が強化されていく。
この“思考の蛸壺化”を打破しない限り、「目新しさ」は永遠に生まれない。よく勘違いされるが、アイデアの質は個人のセンスには依存しない。
思考を支える“インプットの多様性”に依拠する。つまり、「目新しい発想」とは、“目新しい情報”と“目新しい視点”の交差点から生まれるのだ。
社内ビジコンが退屈な理由は、発想のスタート地点が“自分たちの延長”であるから。まずはこの事実に向き合うところから、イノベーションの旅は始まる。
「越境体験」が脳内に“違和感”をインストールする
新しい発想を生むには、新しい体験が必要となる。もっと言えば、「既存の自分では理解しきれない違和感ある情報や文脈」に飛び込むことが重要だ。
例えば、以下のような「越境体験のインストール」が効果的となる。
・社会課題の当事者とのインタビュー/フィールドワーク
・異業種の先端事例や失敗談を語るゲストセッション
・ジャーナリストや研究者による未来潮流の解説
・海外スタートアップのビジネスモデル分析ワーク
・アートやSFなど“論理外”の刺激を与えるセッション
「何をやるか」ではなく、「どんな違和感を抱くか」。この“違和感のシャワー”こそが、退屈な既視感を打破し、新たな視点を呼び起こす鍵になる。
「未来逆算型」で“課題”ではなく“願望”から構想せよ
多くの社内アイデアは、「今の顧客が、現在困っていること」から出発する。それももちろんカスタマーサポートのためには重要だ。しかしそれは既存事業でやるべきことだ。
イノベーションは「顧客が未だ気づいていない未来の願望」から構想されるべきもの。「理想の未来」から逆算して今を捉え直す発想が求められる。
例えば、自動車は「もっと速い馬」ではなく「まったく新しい移動体」として構想された。また、iPhoneは「高機能携帯」ではなく「生活のインフラ」として構想された。
未来から今を見直せば、「前例踏襲の罠」から自由になることができる。社内の制約条件をいったん忘れ、「自分たちは何を実現したいのか?」という熱いビジョンから発想を始めよう。
「アイデアの質」は“問いの質”に比例する
重要なのは、良いアイデアを出そうとすることではなく、良い問いを立てることだ。凡庸な問いからは、凡庸なアイデアしか生まれない。
「自社の強みを活かせる新規事業は?」ではなく、「2035年のこの社会において、人々の“本当の幸せ”とは何か?」と問いかける。
視座の高い、抽象度の高い問いを起点に構想することで、アイデアのジャンプ力が一気に上がる。問いは、思考のエンジンとなる。
ビジコンは「ごっこ遊び」ではなく「創造の場」へ再設計せよ
ビジコンそのものの在り方にも目を向ける必要がある。多くのビジコンは、ただの「ごっこ遊び」と課している。
イノベーションの本質を理解しない事務局と、ビジコンを”運営”するプロの受託屋が揃って、ただただルーティンワーク的にビジコンを運営していては、イノベーションには一歩も繋がらないだろう。
またそうなると起案者にとっても、「アイデアを披露する場」「上司に評価される場」になってしまう。それは、発想を保守的にしている根本原因にもなりえる。
むしろ、ビジコンは「妄想と情熱をぶつける場」であり「一緒に未来をつくる仲間を見つける場」として設計しなければならない。
アイデア自体は、実現可能性よりも、ワクワク度や未来への展望を重視するべきで、アイデアの“進化”に対しては、起案者だけでなく既存事業部も経営層も含めて、全員野球で取り組まねばならない。
また、重要なのは勝ち負けではなく、共創だ。だからコンテストに留めるのではなく、継続的に共創される仕組みを作り、アイデアの良し悪しではなくその行動を評価しなければならない。
制度が変われば、思考が変わる。思考が変われば、行動が変わる。行動が変われば、アイデアも変わる。
ビジコンのアイデアが退屈なのは、参加者の能力ではない。経営層は自社の社員の能力を卑下してはならない。問題の根幹は、制度設計にあり、インプットの構造と問いの設計にある。
目新しい発想は、未知なる世界への“旅”の果てに生まれるもの。その旅の準備から始めよう。常識を捨て、未来を描く。アイデアは、その先にある。