デザイン思考のアプローチでは「徹底的に顧客と向き合い、徹底的に顧客と寄り添う」ことを重要視しています。
まず最初に「顧客にインタビューする」ことから始めるものだと考え、無思考に行動をしはじめてしまうと、ドツボにハマる可能性があります。
顧客は未来を知りません。
顧客はいつの時代も「現在」を生きています。顧客にインタビューにいって聞き出せるのは、現在のことだけなのです。
過去のことは現在に顧客が置かれている状況というフィルター(バイアス)を通して語られます。未来のことは現在の延長線上においてのみ語られます。
顧客のインタビューを通じてわかることはあくまで「現在」のことだけなのです。
これについて偉人たちはこんな言葉を残しています。
“もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう。”
ヘンリー・フォード
“製品をデザインするのはとても難しい。多くの場合、人は形にして見せて貰うまで自分は何が欲しいのかわからないものだ”
スティーブ・ジョブズ
“4分の1インチ・ドリルが100万個売れたが、これは人びとが4分の1インチ・ドリルを欲したからでなく、4分の1インチの穴を欲したから”
セオドア・レビット
そう、顧客は自分が本当に何が欲しいかはわかっていないのです。
そのため「顧客」からイノベーションの種が出てくると思って顧客にインタビューを繰り返せば、イノベーティブなソリューションやプロダクト、サービスに辿り着くことは永遠にないのです。
まず最初にすべきことは「閃く」ことです。
初期仮説となるような顧客の本質的な課題、常識とみんなが思い込んでる非常識、未来像やビジョン、そして突拍子もないアイデアを閃くことから始めることが重要です。
イノベーションとは、過去からの延長線上にある未来ではなく、そこよりもジャンプアップした未来に辿り着くことに他なりません。
それは今自社や競合他社から提供されているサービスやプロダクトで提供している価値よりも、圧倒的に高い提供価値を創出することを意味します。
過去に積み重ねた経験や知識、市場調査によるロジック、今持っている技術の転用などで、そこに辿り着くことはありません。それらによってたどり着けるのは、あくまで過去の延長線上の未来です。
だから「閃く」ことが必要なのです。
世の中を業界や社会における「常識」「普通」「当たり前」というバイアスを外して、自らの信じる価値観によってのみ見つめたときに、アートな発想が生まれ、それがジャンプアップした未来を定義することに繋がります。
未来は自らによって独善的に定義することによってのみ描かれるのです。
この仮説をもってしてはじめて顧客から始めることができるのです。顧客に聞きにいくということは、仮説検証をすることに他ならないから。仮説もなく顧客に聞きにいってしまっては、過去の延長線上の未来に辿り着く以外に道がなくなってしまいます。
もしフォードが何のアイデアもなく顧客にインタビューすれば「もっと速く走る馬が欲しい」「病気にならない馬が欲しい」「餌を食べない馬が欲しい」「気分が上下して走らない時がないような馬が欲しい」などの声ばかりが集まり、馬の品種改良に着手していたかもしれないのです。
もちろんそれも漸進的イノベーションという立派なイノベーションですが、過去の延長線上にないジャンプアップした未来の起点にはまずは超個人的で独善的な妄想による未来の定義から始まらなければならないのです。
仮説があってはじめて、顧客に聞くと自らの妄想のどこがあっていて、どこが間違っているかの検証に繋がり、インサイトが得られます。そしてそのインサイトを積み上げていった先にイノベーションが待っているのです。