組織や事業のフェーズによって、発揮すべきリーダーシップは全くといっていいほど異なります。
成熟期の長い、いわゆる大手企業の組織のトップが、既存事業のマネジメント・スタイルをそのままにイノベーションたる新規事業のリーダーシップは取れません。逆もまた然りです。その違いの理解無くしてリーダー足りえることはないのです。
新規事業と既存事業で大きく異なるわけですが、さらに細分化し、創業期、成長期、成熟期、衰退期でのリーダーシップの違いについて、本稿では論じます。
新規事業の創業期において必要なのは、ボトムアップのファシリテーター的なリーダーシップです。
未来の不確実性の高い時代に、誰か一人の狭い知見によって、を新たなアイデアを創出することは不可能です。多元多様性(D&I)を確保し、世界を見る多様な価値観や視座をもとに、フラットに議論を重ねましょう。
新規事業の成長期において必要なのはトップダウンの強権的なリーダーシップです。
ある程度の事業の方向性がみえたらあとは突き進むだけ。些事に左右されることなくただただ前を向いて進み、分岐点にあっても即座に判断して前を進むことが大切です。
また仮に失敗をしたとて、前に戻るのか、挑戦を切り替えて前に進み続けるのかも即座に判断することが必要になります。調整や折衝に時間をかけることなく突き進むブルドーザーのようなリーダーシップが望まれます。
既存事業の成熟期には2つのリーダーシップが求められます。
一つは計画管理的トップダウン・マネージメント型のリーダーシップです。
成長期を通じて仮説検証されたベスト・プラクティスをもとに計画を立て、計画から外れないように管理をすることが求められます。ここではメンバーは歯車としてリーダーの指示通りに動くことが重要で、個性は求められません。
もう一つはカイゼンへの意見を出しやすいボトムアップの心理的安全性の高い環境整備型リーダーシップです。
トップの器以上に組織や事業は成長しません。カイゼンによってそのアッパーからさらに高い頂きを目指すならば、現場からマネージメントレイヤーまで、トップの器という制約を外して、議論を重ね、新たな施策に挑戦する必要があります。
既存事業の衰退期には、強権的なリーダーシップが再び求められます。
既存事業の危機には、調整や折衝に時間をかけている暇はありません。一刻も早く出血を止めなければなりません。
また万が一を見越して、既存事業のトランスフォーメーションや新規事業の早期立ち上げも考えなければなりませんが、これも悠長にデザイン思考で顧客インタビューなどとやっている暇はなく、トップダウンで一気にアクセル全開にすることが必要となります。
トップダウンのリーダーシップに重要なのは、強引さや強権さだけではありません。
トップダウンで決断をメンバーにある種押し付けるからこそ、その前提となる判断基準としてのビジョンは指し示すべきです。メンバーがリーダー自身を信じて、その判断に信頼を寄せられるような、ワクワクするような目指すべき方向性は提示しなければなりません。
また同時に、彼ならそれを実現すると思わせるように、先陣を切って懸命に取り組んだり、圧倒的に勉強した知識を持ち合わせており、現行不一致なく行動で示すことが必要です。
ボトムアップのリーダーシップに重要なのは、環境づくりに尽きます。
メンバーが意見を言いやすく、闊達に議論をしやすく、それを阻害する要素を排除していく。リーダーがやるべきことは会議のファシリテーションであり、メンバーが自ら気づいて行動変容するようなコーチングであり、リフレクションを促すメンタリングなのです。
メンバーの多様性が主役として縁の下から支えながらも、ビジョンやゴールを目指して縁の下から舵取りしていくことが求められます。
事業や組織の状況に応じて必要なリーダーシップは全くといっていいほど異なります。
それを理解した上でリーダーシップを変容させることが重要です。一方で自分の仕事の仕方をそこまで変容させることができる人は稀で、三つ子の魂百までということもありえます。
理想的には適した人材を適したタイミングでリーダーに登用させることでしょう。
フレキシブルにリーダーがたったりおりたりを適したタイミングでしていくような制度や文化が、イノベーションを連続的に起こしていくためには必要なのかもしれません。