企業内の新規事業に取り組んでいると、経営陣や上層部の方達に必ず問われる質問があります。それはいわゆるコーポレートフィットです。
「うちの会社でやる意味は?」
この「うちでやる意味」についてはいくつかの論点が含まれます。
- うちでやるほどの事業規模に育つのか?
- 経営戦略上、事業ポートフォリオとしてどういうところに位置付けられるのか?
- 既存事業との距離が遠く、連続性のない飛び地として、参入すべきマーケットといえるのか?
- 既存事業で培ってきたアセットを活用することができるのか?
この「うちの会社でやる意味は?」についての明確な返答は1つです。
「それを考えるのは、あなたの仕事です」
新規事業担当者が取り組むのは、特にシードフェーズではまさに「種探し」なわけです。事業の芽が大きく育つかどうかはわからないけれど、世の中を変える大きなトレンドに育つ可能性のある「種」を見つけることが仕事です。それがまさに両利きの経営でいう「探索」なのです。
この「大きく育つかどうかわからない」というところがキモで、結果的に大きく育たなかったとしても、そこで得られた知見が次につながるかもしれない。それを積み重ねていった先ではじめて、大きく育つ種を見つけることができるのです。
スタートアップエコシステムでは、VCを軸に起業家がこの種探しを必死で取り組んでいます。そのうちの93%の種は何にも育たないでしょう。しかし、その知見は間違いなくVCに(もちろん起業家にも)蓄えられています。その知見があるからこそ種の目利きができるようになり、7%の起業家が成長できるのです。そしてまた同時にそれ以上の成功確率でVCは成長する事業に投資ができるようになるのです。
このVCと起業家の関係と同様な枠組みを自社に取り入れる必要があります。そうしなければ、事業に取り組んだ経験は次には活きていきません。
また同時に、新規事業担当者は「種探し」が仕事であるということにも留意しなければなりません。
種を探せる人と、種をどう育てるかを考える人と、種を育てて芽吹かせる人は、明確に必要なスキルや能力が違うのです。
一言でいうならば、種を探せる人は「妄想」、種をどう育てるかを考える人は「戦略」、種を育てて芽吹かせる人は「行動」が必要になります。
この3つの能力を同時に開眼している人は、この世にほとんどいません。いるとしたらその人は既にスタートアップに取り組み、大きな成果を出しているでしょう。
特にコーポレートフィットを加味した戦略立案は、新規事業担当者には不可能といっても過言ではありません。既存事業の全体像を一番見渡せる人は社長であり経営陣です。現場の人が全体像を理解することは、ピラミッド組織が強固であればあるほど不可能に近いものです。
だから「うちの会社でやる意味は?」の問いに対しては、「それを考えるのは、あなたの仕事です」が返答になるのです。
もちろん、本当にそれを社長や経営陣がやるのかといったらそうではありません。役割としては経営企画や社長秘書などが担えるでしょう。新規事業部門にはそれらの人たちも兼務で関わってもらうことが、コーポレートフィットした新規事業を創るためには必要になってきます。
(一方で、過去の成功した新規事業をみてみると、社長や経営陣のコミットが強くあったことも、見過ごしてはいけない事実です)
「妄想」「戦略」「行動」
新規事業に必要な3つの要素を意識して、組織を設計し、プロジェクトチームを組成することが、新規事業の成功には必要不可欠です。
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